「20センチュリー・ウーマン」(原題:20th Century Women、2016)を見た。監督・脚本を担当したマイク・ミルズは批評家などから絶賛され、第89回アカデミー賞脚本賞にノミネートされた。同時に、主演女優のアネット・ベニングは、これまでのキャリアで「ベスト」と高い評価を得ている。映画を見ると納得。
日本で言えば、”昭和の肝っ玉母さん”と言えなくもない。
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1970年代のアメリカ。 シングルマザーのドロシア(アネット・ベニング)は、一人息子のジェイミー(ルーカス・ジェイド・ズマン)が15歳の思春期を迎え、どう育てて良いか分からない。十代の思春期を迎えた少年たちの最大の関心事は「女性とはどんな生き物なのか」だったようだ。
映画は、少年ジェイミーが、周りの女性たちから大いなる影響を受け、とくに母親からの愛情をタップリ受けて成長していく物語だ。 ドロシアは、ジェイミーの幼なじみであるジュリー(エル・ファニング)と、間借り人のアビー(グレタ・カーウィグ)にジェイミーの世話をしてくれるようにお願いする。その話を聞いて、母の身勝手な行動に反発するジェイミー。
この映画の主人公である50代のシングルマザー、ドロシアは、息子のジェイミーが思春期を迎えた時、自分の手に余ると思い、ジェイミーの同級生であるジュリーと、同居人のアビーに息子の世話を頼んでしまう。 ドロシアは常にタバコを吸っている。喫煙の環境も現代ほど厳しくなくおおらかな時代。映画「カサブランカ」のハンフリー・ボガートとイングリッド・バーグマンのシーンがあり、「来世に生まれ変わったら、ボガートと結婚する」と息子に言うほどボガート好き。
一方で、この年頃の男子、女子の考え方をリアルかつさりげなく描いている。 息子が、母親に向かったダイレクトに質問する。「お母さんは幸せか?」と。離婚してシングルマザーになった母親は、そんな質問をするんじゃないよというのだが、いつも明るく元気よく笑っている姿を息子に見せているタフな母親なのだ。
母の頭の中は、あれこれ悩みでいっぱいなのだが、息子のために明るく元気に振る舞っているのだ。思春期のジェイミーにはそんなことはまるで理解できない。
母が最初に「二人の女性に息子の世話を任せた」時に、反発していたジェイミーだったが、アビーからは「パンクミュージックの素晴らしさ」を教えてもらい、ジュリーからは「愛の苦しさ」を教えてもらうなど、彼女たちから影響を受けて成長していくのだ。
主人公ドロシアは、毎日朝食時に、息子とともに、株価のチェックをするのが習慣。IBMはいくら、ゼロックスはいくらと、息子に言わせる。息子が、悪友らから「アートかぶれの軟弱野郎」と馬鹿にされると、それは音楽の好みの違いだったのだが、片や激しいいロック調の音楽、片や静かな落ち着いた曲だった。母親のドロシアは両方の曲をレコードで聴いてみる。
監督のマイク・ミルズは、この映画の主人公を、母をモデルとして描いたという。ということで、映画は「母に捧げるバラード」もとい「母に捧げるラブレター」といった意味合いのようだ。
主人公ドロシアは、1924年に生まれて、1999年にがんで亡くなっている。1970年代を逞しく生きた輝く女性(たち)を描いたため、そのタイトルは「20センチュリー・ウーマン」だった。
映画の最後に「カサブランカ」の主題曲として知られる「As Time Goes By」が流れる。