タイトルの「起終点駅」というのは、イタリア映画の名作「終着駅」としてしまうと、終点ということになってしまうが、終点でありながら新たな出発点を意味する起点をかけあわせたようだ。わかりにくいのでカタカナで「ターミナル」と加えている。
映画は、一言で言えば、判事だったころに体験した苦い出来事を引きずる55歳の弁護士が、孤独な25歳の女との出会いを経て再生していくさまを追い掛けるというもの。
ただ映画ポスターを見ると、白髪の中年男に若い女が寄り添っているので、メロドラマ(古い!)かといった印象を受けるが、そうではなかった(佐藤浩市演じる主人公が、娘ほどの若い女にメロメロに…の展開でなく”再生”でよかった。)
もっとも、年の差という点では、オードリー・ヘプバーンだからこそか「昼下がりの情事」では28歳年上のゲーリー・クーパーと、「麗しのサブリナ」では30歳年上のハンフリー・ボガートと共演していたが。
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北海道の旭川で裁判官として働く鷲田完治(佐藤浩市)のもとに、学生時代の恋人だった結城冴子(尾野真千子)が覚せい剤事件の被告となって現れ、法廷で再会。冴子に執行猶予付きの判決を与えた完治は裁判後、冴子が働くスナックに通い逢瀬を重ねるようになるが、かつて愛し合った男と女の再会の時間は限られていた。
2年の北海道勤務を終え、妻子の待つ東京へ戻る日が近づいていた完治だったが、彼はすべてを捨てて冴子と共に暮らしていこうと決める。しかし、冴子はその想いに応えることなく、駅のホーム~電車に飛び込み、完治の目の前で自ら命を絶ってしまうのだった。
それから25年、完治は誰とも関わることなく釧路で国選弁護人としてひっそりと生きていた。それはまるで愛した女性を死に追いやってしまった自分自身を裁き罰を課すようでもあった。
そんなある日、弁護を担当した若い女性、椎名敦子(本田翼)が完治の自宅を訪ねてくる。ある人を探して欲しいという依頼だった。個人の依頼は受けないと心に決めて生きてきた完治だったが、家族に見放され誰にも頼ることなく生きてきた敦子の存在は、ずっと止まったままだった完治の心の歯車を少しずつ動かしていく。
敦子もまた完治との出会いによって、自分の生きる道を見出していくのだった。そして、人生の終着駅だと思っていた釧路の街は未来へ旅立つ始発駅となり、2人それぞれの新しい人生が動き出そうとしていた。
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映画は、昭和63年(完治がかつての恋人冴子と再開)の場面から始まり、さらに10年前の昭和53年(学生時代)にタイムスリップし、タイトルが出て、現在の平成26年に移っていく。
【昭和63年】鷲田完治(佐藤浩市)と裁判で再会した冴子(尾野真千子)は執行猶予付きの判決となりスナック「慕情」で働いている。近くには「ヒット&ラン」やスナック「久美」の看板があるが「慕情」に通う。月一度の逢瀬だった。
【昭和53年】女子大生で天秤座の冴子は、司法試験合格を目指す恋人・完治に対して、「闘へ、鷲田完治」と励ますが、いつの日か、完治の前から姿を消してしまう。
【昭和63年】冴子が完治に「今はちゃんと闘っているのかな、鷲田完治」とベッドで、完治の横顔を見ながらつぶやくが、涙が光っていた。二人で駅まで歩くが、途中で冴子が「街を出るまでは、他人のふりをしよう」というと完治は、一瞬に苦笑いする。駅のホームで、互いに離れて列車を待っていると、冴子が入線してくる列車に飛び込んでしまうのだ。
ここで映画のタイトルが出るが、完治の人生の歯車が狂うことになる。
【平成26年】完治は、料理を作るのが好きで、料理のレシピの記事を切り抜いてスクラップにするほど。完治が、国選弁護士として担当した若い女性・椎名敦子(本田翼)にザンギ(鳥の唐揚げ)を作ると「お店のザンギよりも美味しいい」という。得意な料理はと聞かれた完治は「ビーフシチューや白菜漬けなど」というと「年季の入った主婦みたい」と言われる。
完治のもとに離婚してから、一人息子が4歳だった時以来、会っていない息子から自身の結婚式に出席して欲しいと電話連絡がある。案内の手紙が、隣の家に届いていたが、そこの住人が認知症で、手紙が手元に来たのは、結婚式の前日だった。果たして、完治は・・・。
■主な出演:
鷲田完治 - 佐藤浩市
椎名敦子 - 本田翼
大下一龍 - 中村獅童
森山卓士 - 和田正人
大村真一 - 音尾琢真
南達三 - 泉谷しげる
結城冴子 - 尾野真千子
監督 - 篠原哲雄
脚本 - 長谷川康夫
音楽 - 小林武史
主題歌 - My Little Lover 「ターミナル」
特別協力 - 北海道旅客鉄道
特別協賛 - AIRDO
配給 - 東映