「ニュールンベルグ裁判」(原題:Judgment at Nuremberg、1961)を再見。
40数年ぶりに見たが、この映画ほど見ごたえのある映画も少ないかもしれない。
3時間の長編。「ドイツのビールはうまい」と判事が語っていたが、いまは納得(笑)。
連合軍によるナチス・ドイツの戦犯裁判を描いた作品。
ニュールンベルグ裁判は史実であり、その中の歴史的なエッセンスを基に物語を作成し、冷戦下のアメリカの良心という観点から、第二次世界大戦後の世界を描こうとした試みととらえられている。
ドイツ側の弁護人を演じたマクシミリアン・シェルは第34回アカデミー賞主演男優賞を受賞。スペンサー・トレイシーも熱演ぶりを見せ主演男優賞にノミネートされたほか、モンゴメリー・クリフトが助演男優賞、ジュディ・ガーランドが助演女優賞にそれぞれノミネートされた。そのほか出演俳優の演技が高く評価され、映画は脚色賞にも輝いた。
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映画はアメリカの地方裁判所の判事ヘイウッド(スペンサー・トレイシー)が、ニュールンベルク継続裁判の一つのケースの主任判事に任命され、ニュールンベルグに赴く所から始まる。市内の建造物の多くは廃墟のように崩れている。
ヘイウッドが任命された理由は、このケースはドイツの最高クラスの法律家を裁くものであり、特に国際的に高名で敗戦当時はナチの法務大臣であったエルンスト・ヤニング博士(バート・ランカスター)が被告の一人であったので、誰もその裁判の判事になりたがらず、無名で実直なヘイウッド判事にその任務が押し付けられたといういきさつがあった。
ヘイウッド判事とニュルンベルクに滞在しているアメリカの軍人たちは、ドイツの伝統とその文化の奥深さに感動。戦後の貧しさの中でも人々は美味しいビールを飲み、酒場では美しい合唱を楽しみ、ピアノやオペラの演奏に心を震わせる。
ヘイウッド判事や、検事を勤めるローソン大佐(リチャード・ウィドマーク)に国家のトップから、裁判を早々に切り上げて、ドイツを味方につけるために厳しい判決をくださないようにという暗黙のプレッシャーがかかってくる。
ローソン大佐を迎え撃つ被告の弁護士ロルフ(マクシミリアン・シェル)は鋭い理論で
ローソン大佐の主張を次々に論破していく。ローソン大佐はユダヤ人の強制収容所を解放した自分の経験から、ユダヤ人の連行を文書の上で承認した法律学者を徹底的に裁こうとする。
ローソン大佐の主張を次々に論破していく。ローソン大佐はユダヤ人の強制収容所を解放した自分の経験から、ユダヤ人の連行を文書の上で承認した法律学者を徹底的に裁こうとする。
それは、ニュールンベルグ裁判で戦勝国の横暴を黙って耐えなければならなかったドイツ人の無念を代弁していたのである。
ヤニング博士は判事として、少女イレーネ・ホフマン(ジュディ・ガーランド)と交際したという罪状でユダヤ人の老人を死刑に、その罪状を否定するイレーネを偽証罪で懲役に課していた。
ヘイウッド判事は人々の予測に反して被告全員に有罪判決を下し、終身刑に課した。ヘイウッド判事の有罪判決はドイツ人もアメリカ人も失望させた。人々は被告はニュルンベルク法に従っただけであり、責められるのは法律そのものだと信じていた。
ロルフは、裁判の終了後、ヘイウッド判事に面と向かい「被告は全員5年以内に無罪放免されるだろう。アメリカ人はきっと近い将来ソ連軍に不法裁判で裁かれるような事態に置かれるかもしれないから、せいぜい心せよ」という言葉を投げかけて去って行く。
また、ヤニング博士の要望で個人として彼と対面したヘイウッド判事は「あなたは有罪だ。なぜならば、イレーネ・ホフマンの裁判に臨む前にあなたは既に有罪判決を決めていたからだ」と述べる。ヤニングはヘイウッドの裁判長としての態度と判決を賞賛した。
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そうそうたる俳優の演技合戦が見どころ。
裁判の被告席4人のうちの一人で、かつて法務大臣も経験したヤ二ング(バート・ランカスター)は、当初、沈黙を貫いていたが、ヤニングの弁護人ハンス・ロルフ(マクシミリアン・シェル)の正気を失ったようなヒステリックな論理の展開に嫌悪感を抱きついに発言する。
ほかの3人の被告が無罪を主張する中で、もっとも罪が深いのは、自分だと有罪を認めるのだ。バート・ランカスターの重厚ぶりが圧倒する。
ヤ二ングによると「時代背景を理解しなければならない。飢餓がはびこり、自由主義の失われた状況で、国民が何よりも恐れていたのは、きょう、明日への恐れだ。隣人を恐れ、自身を恐れていた。そのことを理解できれば、ヒトラーの台頭もわかるはず」。ヒトラーは「ドイツ人であることを誇るのだ。共産主義、自由主義、ユダヤは悪魔だ」と主張、これらが、過渡期だと信じ、体制に加担してしまったのだという。過渡期と思ったのが日常となってしまったという。
弁護人ロルフの主張は、ヤ二ングを裁くということは、全ドイツ人を裁くことになるというのが論点。ドイツ人の多くは、ユダヤ人への仕打ちは知らなかったという。刑務所にいるヤ二ングがアメリカに帰国する前にヘイウッド判事と面会を希望したのも、数百万人の虐殺について知らなかったと伝えるためだった。
眼光鋭いリチャード・ウィドマークの検事や、夫である将軍を死刑(その判決を下した人物こそヤ二ングだった)にされ未亡人となったベルトホルト夫人を演じるマレーネ・ディートリッヒが当時60歳だが、美貌と貫録を見せているのが印象に残る。
判事を演じたスペンサー・トレーシーは、ベルトホルト夫人に「外国に出るのは2度目の田舎者」というほどの地方の出身で、善良な人物を演じる。
ベルトホルト夫人が所有し、現在は住んでいない家が裁判期間中の宿泊先として提供されるが、使用人も準備されていた。「使用人を3人も使わなければならないほど、私は愚かものかね」というと、「いえ、彼ら(使用人たち)も食べていかなければなりませんから」「そういうことなら」といった会話も冒頭に交わされる。
理不尽に満ちたナチスの大量虐殺の壮絶な映像フィルムが裁判の席で上映されるが、すさまじい。
■ダン・ヘイウッド/裁判長(元・メイン州判事):スペンサー・トレイシー
■エルンスト・ヤニング/被告(元・法務大臣、判事):バート・ランカスター
■タッド・ローソン/検察官(合衆国陸軍法務大佐):リチャード・ウィドマーク
■ハンス・ロルフ/弁護人(エルンスト・ヤニング担当):マクシミリアン・シェル
■ベルトホルト夫人(カール・ベルトホルト将軍未亡人):マレーネ・ディートリヒ
■イレーネ・ホフマン・ウォルナー/証人(“フェルデンシュタイン事件”共同被告):
■ルドルフ・ペーターゼン/証人(断種裁判の犠牲者):モンゴメリー・
クリフト
■ハリソン・ベイヤーズ/書記官(合衆国陸軍大尉):ウィリアム・シャトナー
■マット・メリン将軍(占領軍司令部):アラン・バクスター
■バーケット議員(ヘイウッドの友人):エド・ビンズ
■フリードリヒ・ホフステッター/被告(元・判事):マーティン・ブラント
■エミール・ハーン/被告(元・判事):ウェルナー・クレンペラー
■ウェルナー・ランペ/被告(元・判事):トーベン・マイヤー
■カール・ヴィーク/証人(元・判事、ヤニングの恩師):ジョン・ウェングラフ
ほか。
監督:スタンリー・クレーマー
音楽:アーネスト・ゴールド
時間:179分
日本初公開:1961年12月
とにかく、揺さぶられるような”骨太”映画。
☆☆☆☆
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