タイトルのイメージとは180度異なり、いろいろな意味で衝撃を受けた。
日常の生活の断片をまるでアドリブのように(実際にアドリブも多かったようだ)、出演者の7、8割は新人で素人というのがリアリティを生んでいる。低予算映画でも地味にスゴイ。ぐいぐいと迫ってくる。
【2015年 第89回日本映画ベスト・テン】
タイトルはフランスのルイ・マル監督の「恋人たち」と全く同じだが、いわゆる”恋人”をテーマにしたラブストーリー映画とは全く異質の映画。
主演を含む主な出演者たちはほぼ素人でオーディションで選ばれた人たちといい、日常のわれわれの周りにいそうな人物そのもので、リアリティがあった。
「恋人たち」には、主に3人の人物が中心に描かれる。
しかも3つの話は関連がなく、同時進行で進んでいく。
そこに共通しているのは、マイノリティに属される人たちであること、人生や生活にもがき苦し見ながらも生きている市井のひとたちであるという点だ。
・・・
アツシ(篠原篤)は橋梁のコンクリートに耳を当て、ハンマーでノックしている。
彼の仕事は橋梁点検。機械よりも正確な聴力を駆使し、ノックの音の響きで破損箇所を捜し当てる仕事。しかし生活は貧しく、健康保険料も払えないほど。役所に滞納金の一部として、1万円を持っていくと、担当者から「次はいつお支払いいただけますか」と「1週間有効」の保険証を渡される。
愛する妻を通り魔事件で失って以来、鬱屈とした人生を送っている。
「犯人を殺してやりたい。殺していい法律ってないっすかね。」「鼻をコンコンってやったら、脳とつながっているから3秒でOK。コンコンで」。アパートは散らかり放題で雑然として、昼間、「それで・・・」と言われた言葉が耳に残っており「で」「で」「で」がなんだと独り言を言いながらわめき散らす。
【瞳子(とうこ)】瞳子(成嶋瞳子)は、自分に関心がない夫とそりが合わない姑と3人で郊外に暮らしている。楽しみと言えば、パートで勤める弁当屋の仲間と共に皇族(雅子さまなど)の追っかけをすることと、小説や漫画を描いたりすることだった。
パート先にやってくる取引先の男とある日ひょんなことから親しくなり、平凡で退屈な毎日は刺激に満ちたものに変わっていく。関係を持った男(光石研)と一緒に暮らそうと思って、荷物を持ってその男のアパートを訪れると、男の正体が明らかになる。それを知った瞳子の戸惑いを隠せない表情。男は薬物依存の男で、しかもそこには、パート先の女(安藤玉枝)が出入りしていた。
それでも瞳子は、かつて職場でこんなことを聞いたと話し続ける。
「仕事には2種類あって、一つは、会社への貢献のために、鶏のように、卵を提供し続ける。もう一つは、全部を会社に捧げる。豚のように、自分自身を投げだす。求めていたのは後のほうだったのね。今思うと口説き文句だった。それが今のダンナ。」「夢はあるか?って聞いたじゃん。ずっと考えていて、夢は・・・。」
実は学生時代から密かに思いを寄せている男友達がいるが、些細なやり取りをきっかけにあらぬ誤解を招いてしまう。
・・・
映画のキャッチコピーは、3人の人生とそれを彩る恋人たちは、どうしようもなく鬱屈とした今の日本にささやかな希望をもたらしていく――。
このタイトルは最初から決められていたという。3人の人間の人生を描く中でその周辺の恋人たちの背景に、ねじれた今の日本の空気感が浮き彫りにするねらいがあったようだ。
3つの話では、「瞳子」のパートが最も印象に残る。
成嶋瞳子は、映画初出演で、体当たりの演技を見せている。
飲んだくれの暴力夫が、食事の後、瞳子の肩をポンポンと叩く。夫婦の決まり事のようで、夫はさっさと寝室へ。このあたりの会話の描写は前作「ぐるりのこと。」の木村多江(日本アカデミー賞最優秀女優賞受賞)とリリー・フランキーのやり取りを彷彿とさせる。夫婦間の密室会話を白日の下にさらす。「恋人たち」の瞳子と不倫相手の男(光石研)とのシーンでは、ハッとさせる連続だが、あえてカメラは強調もせずたんたんと描いているところがすごい。
映画は、絶望などのどん底の生活にあえぎながらも、最後には明るさや希望があることを垣間見せて救いにはなっている。
前作「ぐるりのこと。」(2008):http://blogs.yahoo.co.jp/fpdxw092/59004489.html
☆☆☆☆
↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓
「にほん映画村」に参加しています:ついでにクリック・ポン♪。