ウディ・アレン監督・脚本・主演の「おいしい生活」(原題:Small Time Crooks、2000)を見た。原題の意味は「小悪党、チンピラ」のこと。今なお作品数の衰えない現代映画界のシェイクスピアともいわれる(らしい)ウディ・アレンによる2000年のロマンチック・クライム・コメディ。
銀行強盗を題材にしながらも、終始笑いの絶えない画面作りは彼のオリジナル脚本作品。この作品以降、とくにコメディ色が強くなっていったと言われる作品。
脚本家でもあるアレンの機知にとんだセリフや、機関銃のような会話のやり取りが滑稽で面白い。アレン演じるレイの妻・フレンチ―を演じるトレイシー・ウルマンが無教養のおバカさんぶりだが、憎めないおかしさがいい。
アレンは、冴えない、風采の上がらないくたびれた中年男をやらせたら天下一品。
しかも、髪の薄さを逆手にとって、風が吹いているときに、頭髪部分を写すシーンがあるが、てっぺんの残り少ない髪が風になびくシーンは、”シェーン、髪バック~!”と叫びたくなる。
・・・
(こんな話)
そんな日々に鬱屈したレイは、ある作戦を仲間と妻フレンチー(トレイシー・ウルマン)に持ち掛ける。その計画というは、銀行の二つ隣の店舗を借りて商売をし、商売を隠れ蓑に地下に穴を掘り、そこから銀行に忍び込むというもの。おバカな仲間たちと最初は反対していた化粧の濃い若妻フレンチ―はこの話に乗り、さっそく行動に移す。
奪った金額の分け前は3人で3分の一づつ均等分けにしようというと、レイは、フレンチーも(間接的に)協力しているから、分け前の一部をといったもめ事も起こる。仲間の誰かが、「宝島」(原題:Treasure Island, 1950)のように最後に裏切るなんていうのはやめようぜと言う意見も。
フレンチーがカモフラージュのために始めた商売はクッキー屋「サンセット・クッキー」。フレンチ―の手作りクッキーは近所でも評判の味となり、クッキー屋は評判を呼び、連日長蛇の列。大行列をさばききれず、従妹のメイ(エレイン・メイ)を雇うことに。仲間たちは、第三者のメイを雇って、強盗のことがばれないか心配だというと、レイは「メイは頭の回転ものろいし、安心だ」と諭す。
店の人気はどんどん上がり、その裏で穴を掘り続けるレイたちは、地図を逆さに見たりと、てんやわんや。メイは案の定、頭が単純で、地下に穴を掘っているのは、(仲間たちが言っていたことを真に受けて)隣の店までクッキー屋を拡大するものと思い込んで、それを、客たちや客の一人の警官にまで話してしまう。
一方、地下の穴を掘り続けていたレイたちがついに辿り着いた先は、銀行ではなく服屋だった。間違ったと焦る彼らに、警官が待ち構えていた。
この警官は、欲の皮が突っ張っているのか、なんと「黙っていてやるかわりにオレも仲間に入れろ」と持ち掛けてきたのだ。しかも、警官が仲間に入れろと言ってきたのは、ことばで言えば、次の一言だった。
「(クッキー屋の)フランチャイズの権利をくれ」というものだった。
てっきり強盗の計画の仲間入りかと思ったら、クッキー屋の商売だったのだ。
テレビ局も「クッキー屋の成功」を大きく取り上げ、取材にやってくる。
大富豪となったフレンチーは、大富豪の生活に興味を持ちだす。しかし金持ちといってもしょせんは成金。すぐに化けの皮も剥がれる。彼らは、上流階級のマナーをことごとく間違え、恥をかいて回るのだ。
そんな時、スマートな美術商デヴィッド(ヒュー・グラント)が二人の前に現れる。途端に夢中になるフレンチーだったが、デヴィッドはフレンチーのことをお金持ちのパトロンくらいにしか思っていない。そうとは知らずフレンチーはデヴィッドに入れあげ、高価なプレゼントをして、ついには長期の旅行の約束を取り付ける。
しかし、旅行の直前、フレンチーに一本の電話が入る。
経理をまかせっきりであったことが不正を招いたものだった。
急いで帰ると、財産の全ては消え、レイとフレンチーは一文無しになってしまう。
しかし、そうなってやっと、夢から覚めたフレンチー。財産を失って初めて、隣にいるレイへの愛を思い出したのだった。
・・・
元々、ノミ屋だったレイとストリッパーだったフレンチーが結婚したのは28年前。
今では落ちぶれていたが、お金も決定権も妻フレンチーが握っていた。一攫千金のために銀行強盗を思いつく。その資金に18,000ドル必要。レイたち3人で、それぞれ6,000ドルづつ出し合うことになった。ほかの2人は何とか都合をつけたが、肝心のレイの妻フレンチーは、ネイルサロンでためたお金が全財産の6,000ドルだった。
フレンチーは、そんな危ない橋を渡って、刑務所の面会は二度とごめんだ、と言い張っていたが、確実だと諭されて計画に乗るのだった。このあたりのやり取りも面白い。
大富豪になってからも、フレンチーが言葉の端々に教養のなさが表れる。
陰では、ほかのセレブ達に馬鹿にされてしまう。そんなことを知ったレイは「ボロが出るから、自分からは話しかけるな。天気の話だけしていろ」という。
するとフレンチーは馬鹿正直で、セレブの紳士たちに「北北西の風が強まって、ところにより間もなく雨になる」といった天気予報の話をするのがおかしい。しかし、これが「面白い人だ」と受けたりするのだ(笑)。
フレンチーは言葉を覚えるのに「辞書」の「A」から丸暗記するというのがおかしい。傑作は、弁護士から「破産」(bankrupt)といわれ「なにそれ、”B”はまだ習っていない」だった(笑)。
下品な笑い方をしたり、コネチカット(Connecticut)のスペルが書けないなどとレイから指摘され、「お金より教養」「品格はお金では買えない」「田舎者を教養人に変えて」と思うばかり。
”おいしい生活”(=セレブの贅沢三昧の生活)を短期間経験したが、結局、普通の生活が一番でした、という結論にたどり着く。
ウディ・アレンの映画は、一時期、苦手な時代もあった(「カメレオンマン」「スリーパー」など)が、近年のヨーロッパを扱った映画以降は、シニカル(皮肉)な中にも見ごたえのある映画がほとんどだ。
(YouTube予告・日本語案内はこちら: https://youtu.be/HWGBLSE55PM )
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