「栄光への脱出」(原題:Exodus, 1960)は、ユダヤ人国家イスラエルの建国物語とでもいうべき超大作70ミリ作品。レオン・ユーリスの原作小説を「ポギーとベス」のオットープレミンジャーが製作・監督。3時間30分という”長”大作でもあり、大河歴史巨編。
1947年にホロコースト生存者らを乗せてフランスからイギリス委任統治領パレスチナに向かおうとしてイギリス軍に制圧された不法移民船エクソダス号(SS_Exodos)をモデルとした物語。Exodusは「大挙した脱出」という意味だが「出エジプト記」になぞらえてもいる。
タイトル・デザインを「ウエストサイド物語」「北北西に進路を取れ」などのソウル・バスが担当。出演は「傷だらけの栄光」「熱いトタン屋根の猫」のポール・ニューマン、「波止場」「北北西に進路を取れ」のエヴァ・マリー・セイント、「理由なき反抗」のサル・ミネオ、「十二人の怒れる男」のリー・J・コッブ、「落ちた偶像「リチャード三世」のラルフ・リチャードソン、「若草物語」「オーシャンと十一人に仲間」のピーター・ローフォード、「ベン・ハー」のヒュー・グリフィスなど。
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アメリカ女性、キティ・フリーモント(エヴァ・マリー・セント)はキプロスで死んだキャメラマンの夫の様子を探るため現地にやってきた。英軍司令官サザーランド(ラルフ・リチャードソン)が彼女に便宜をはかってくれた。
収容所のユダヤ人たちの窮状をみた彼女は看護婦として、働くことにした。そこでユダヤの美少女カレン(ジル・ハワース)や17歳のユダヤ少年ドヴ・ランドー(サル・ミネオ)と彼女は知り合った。少女と少年は互いに愛情を抱いていた。
その頃、1人のユダヤ人地下組織のリーダーがキプロスに潜入した。アリ・ベン・ケナン(ポール・ニューマン)である。元英軍将校だった彼の任務は、ユダヤ国家再建のためキプロスのユダヤ人たち2800名をエルサレムに送りこむことだった。

軍服を利用して、彼は貨物船オリンピア号をエクソダス号と改名、ユダヤ人たちをのせて港を出ようとした。英軍はこれを知って停船を命じた。ユダヤ人たちはハンストをもって対抗した。美少女カレンを養女にしようとしたキティも、少女とともにこの船の中にいた。やがて世界の世論に負けた英軍は「エクソダス号」出港を許し、一行はハイファについた。
カレンら少年少女はガガリーの丘にあるユダヤ人の「青春の村」におちついた。アリの父バラク(リー・J・コッブ)や友好的なアラビア人ハタが一行を迎えた。バラクの弟アキバは戦闘的なユダヤ人地下組織のリーダーで、アリたちの平和主義者と対立していた。ドヴ・ランドー少年はこの一派に加わった。
エルサレムでアリとめぐりあったキティは、彼に愛情を感じた。その頃アキバ一派は暴動をおこして英軍に捕らえられ、刑務所に入れられた。アリはアラブ諸国の妨害を排除するにはユダヤ人組織を統一するのが必要と考え、アキバたちを救出した。
元ナチ将校フォン・ストークに指揮されたアラブ人たちはユダヤ人地区を襲撃しハタを殺した。アリは少年少女を「青春の村」から脱出させ戦闘体制をととのえた。カレンが銃弾に倒れたが、ユダヤ人たちは屈しなかった。今はアリと行を共にする決心をしたキティも銃をとった(MovieWalker)。
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映画では、ユダヤ人によるテロ組織「イルグン」が実名で登場している。
過激組織イルグンにドヴ(サル・ミネオ)という少年が入るが、その少年の過酷な過去がそうさせたといういきさつも描かれている。ユダヤ人の大量虐殺のあったアウシュビッツに収容されていたドヴは、生き延びるために、ユダヤ人の死体運びや、死体から歯を抜くなどの役割を担ってきたとイルグンに入るときの面談で語っていた。イルグンの幹部は、アウシュビッツの様子をドヴから聞きだしたかったのだ。「殺されても話せないこと」とは・・・生きるためには仕方なかったというのだが。
イルグンの言い分は、いかにもテロを正当化するような言い分だった。
「暴力、爆破は、国を発展させる助産婦だ。妥協では流産してしまう」。
「第1に正義などというものは、現実離れした妄想だ。第2にユダヤ人にとって正義は無縁であり、不条理だ。第3にパレスチナに対するアラブの主張があるなら、ユダヤ人にもある。第4に、ここ10年間の不正義はユダヤ人に向けられてきた。したがって第5に、次の不正義はよそに向けられるべきだ」 というのが主張だった。これはアリの叔父の詭弁に聞こえたので、「はぐらかしたか」とアリが言うと、「バレたか」と返していた。
タイトルのエクソダス(原題)というのは、船の名前であると同時に、パレスチナへの脱出を意味するが、アリ・ベン・ケナン(ポール・ニューマン)が語るように、「200万人近い子供が見殺しにされている。世界の国々が知らん顔をしてきた。ユダヤ人の肉は、安い。牛肉やニシンよりもな。それが現実だ」といるセリフが強烈だ。
「栄光への脱出」では、赤狩りでハリウッドを追われた脚本家ダルトン・トランボを起用。次々と新風を吹き込むプレミンジャーに対してハリウッドの問題児と見る風潮もあったが、プレミンジャーは一貫して自己流を貫いたと言われる。
アリとキティが田園風景を見渡せる谷を訪れて会話を交わすシーンが印象的だ。アリは言う。「ユダヤ人は、3200年前に、この谷に来た。昨日じゃない」。
アリ(ポール・ニューマン)がロシア系ユダヤ人であり、アメリカ人のキティ(エヴァ・マリー・セイント)はクリスチャンであるという宗教的な違いも背景にあるが、キティが「人が自分と違うなんて錯覚よ。何人(なにびと)だろうとみな、同じだわ」というとアリは「それは間違いだ。人はみな違う。 違う権利があり、違いたがっている。人とは、別だと認められたい、尊敬されたがっている」と反論していた。キティは「私を”違う人間”と区別しているのはあなたよ」といった会話を交わすのだ。
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収容されている囚人(ユダヤ人)に対する連絡方法などで、見どころが多かった。
差し入れの肉の中に、手紙や、分解したダイナマイトのパーツを隠したり、金網越しに面会に来た女とキスをする時に、2つくらいに小さく丸めたブツを口移しで渡すシーンなどスリリングだ。脱出を図るときに、背負った小さな赤ん坊などが泣き出したりしないように口にテープを貼ったり、子供たちには、一切口をきかない、咳もしないようにと徹底していた。
イスラエル、アラブなどの中近東の歴史の一端を理解していないとややわかりにくい。
難を言えば、3時間半の時間は、長すぎる。大作で仕方がない面もあるが、
せめて2時間くらいがいい。
監督作品:
「堕ちた天使」Fallen Angel (1945)
「永遠のアンバー」Forever Amber (1947) - 日本公開は1952年。
「月蒼くして」The Moon Is Blue (1953)
「帰らざる河」River of No Return (1954) ☆☆☆☆
「黄金の腕」The Man with the Golden Arm (1955) - 日本公開1956年。☆☆☆
「聖女ジャンヌ・ダーク」Saint Joan (1957) - 日本劇場未公開。
「ポギーとベス」Porgy and Bess (1959) ☆☆☆
「野望の系列」Advise & Consent (1962)
「危険な道」In Harm's Way (1965)
「バニー・レークは行方不明」 Bunny Lake Is Missing (1965) ★★
「ローズバッド」Rosebud (1975)
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