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映画「軍旗はためく下に」(1972)再見。

 
軍旗はためく下に」(1972)を劇場で見た時は、極限状態に追い込まれた時の人間の動物的本能と、戦争の狂気に圧倒されたものだった。40数年ぶりに再見したが、映画の持つ歴史的・資料的な価値を改めて痛感する。
 
監督は、この映画の翌年に「仁義なき戦い」シリーズで戦後の広島やくざ抗争を通じて、戦後日本のやくざ組織と組員たちの生き様をダイナミックに描いた深作欣二
 
脚本には、深作のほか、「一枚のハガキ」が遺作となった新藤兼人も名を連ねている。
 
敵前逃亡の汚名を着せられた兵士の未亡人が夫の死の真相を追及していく過程を通して軍隊の非人間性と戦争の不条理を描き出す。
 
ストーリー:
昭和27年。富樫勝男の未亡人サキエ(左幸子)は“戦没者遺族援護法”に基づき遺族年金の請求をするが、政府はこれを却下した。理由は富樫軍曹(丹波哲郎)の死亡は“敵前逃亡”による処刑で援護法の対象外というもの。しかし、“敵前逃亡”の確たる証拠はなくサキエは以来、昭和46年の今日まで夫の無罪を訴え続けていた。そして、ある日、サキエはついにその小さな手掛かりを手にするのだった。
 
亡夫の所属していた部隊の生存者の中で当局の照会に返事をよこさかなったものが四人いた、という事実である。その四人とは、元陸軍上等兵・寺島継夫(養豚業)、元陸軍伍長・秋葉友幸(漫才師)、元陸軍憲兵軍曹・越智信行(按摩)、元陸軍少尉・大橋忠彦(高校教師)だ。サキエは藁にもすがる思いで、この四人を追求していく。彼らはどんな過去を、戦後26年の流れの中に秘め続けてきたのか・・・?
 
・・・
あらゆる人がみるべき映画。
戦時中は、兵隊にとっては生き延びることよりも、国のために死ぬことが優先されていた時代。軍人の上下関係は厳しく、下のものが上官に意見を言うことなど許されなかった。しかし、自分だけ食事を独占し、兵隊には重労働を課して、殴る・蹴るの暴力を振るう上官を許せなかった富樫が、この上官さえいなければ、何人の兵隊が救われることか・・・と考えるのは不思議でもない。1945年8月15日の終戦を迎えた直後も、上官の一人は、終戦を信じず「デマだ」と言って兵隊に死ぬまで戦えと強制したのだ。ついに、富樫らは、上官を殺害する。
 
上官が戻らなかったことに、富樫を含む5人の班員に小隊長が問い詰める。
寺島上等兵三谷昇)は生き延びるため、事の詳細を話してしまう。
 
 
一人は病死、3人は海辺で銃殺刑にされるのだ。
寺島は、生きて帰り、廃墟となっているような朝鮮人部落で世捨て人のような生活を送っていた。そこも、間もなくビルが建てられる予定で、早晩どこかに移動しなければならない。
 
サキエは、ようやく寺島から真実にたどり着くのだが、A級戦犯でありながら総理大臣にまでなった人間がいる一方で、同じ戦争で日本のために戦った富樫を、戦没者名簿に載せることはなく、無視され続けるのだろうとあきらめともつかぬ絶望感を味わうのだった。
 
・・・
富樫を演じた丹波哲郎の鬼気迫る演技がすごい。
銃殺される前に、何か言いたいことがあるかといわれた富樫は、
 
”メシが食いてえんだよ。飯を食わしてくれるまでは、死刑に何かならねえぞ!”
 
まともな食料は無く、虫やネズミまで食べていたのだ。塩と物々交換するために死体の人肉を子豚がいたと称して、兵隊たちにさしだしていた!
 
海辺で、富樫以下3人は、1メートル間隔に座らせられ、「ニッポンはどっちの方角ですか」といい、その方向に、深々と頭と手をこすりつける。その後、手拭いで目隠しをされる。いよいよ、憲兵が銃を構えると、富樫が両側の二人に、いう。
 
”死ぬときもオレたち一緒だぞ。手さ貸せ、手さ貸せ
(両側の人間と肩を寄せ合って叫ぶ声がすごく、思い出しても身震いがする)
天皇陛下~!”
 
 
このことを聞いたサキエは、「天皇陛下のあと、”万歳!”といったんでしょうかね」と寺島に聞くと「いやなにか訴えかけるような、抗議するような、そんな叫びかたでした」だった。
 
サキエはつぶやく。「国が始めた戦争だに。終わった後は、自分たちで勝手にやれっていうのか」。
 
・・・
富樫軍曹について、生き残った人物がそれぞれ、「こうだった」と述べるが、それが人によってまちまちだった。まるで「羅生門」のアングルを変えた見方のように・・・。
 
戦争により亡くなった戦没者の数は、3,100,000人とい数字が画面に現れる。
 
あの戦争は、なんだったのか、今でもわれわれに問いかけるようだ。
 
■監督: 深作欣二
■脚本: 新藤兼人長田紀生深作欣二
■原作: 結城昌治
■製作: 松丸青史 、 時実象平
■撮影: 瀬川浩
■美術: 入野達弥
■音楽:  林光
■録音: 大橋鉄矢
■照明: 平田光治
■:編集 浦岡敬一
■助監督:片桐康夫
 
出演
●富樫勝男:丹波哲郎
●妻サキエ:左幸子
●娘トモ子: 藤田弓子
●トモ子の夫:小林稔
●寺田継夫: 谷昇
●秋葉友幸: 関武志
●寺島継夫上等兵: 三谷昇
●ポール・槙:ポール牧
●超智信行: 市川祥之助
●超智信行女房:中原早苗
●大橋忠彦: 内藤武敏
●千田武雄: 中村翫右衛門
●後藤少尉: 江原真二郎
●堺上等兵: 夏八木勲
●堺上等兵女房:藤里まゆみ
●等兵女房の弟:夏八木勲
●小針一等兵: 寺田誠麦人
●厚生省課長: 山本耕一
 
 
☆☆☆☆
※「日本映画」マイベスト30の1本
 
1972年度キネマ旬報ベストテン2位:
第1位 「忍ぶ川」 監督:熊井啓
第2位 「軍旗はためく下に」 監督:深作欣二
第3位 「故郷」 監督:山田洋次
第4位 「旅の重さ」 監督:斎藤耕一
第5位 「約束」 監督:斎藤耕一
第6位 「男はつらいよ 柴又慕情」 監督:山田洋次
第7位 「海軍特別年少兵」 監督:今井正
第8位 「一条さゆり 濡れた欲情」 監督:神代辰巳
第9位 「サマー・ソルジャー」 監督:勅使河原宏
第10位 .「白い指の戯れ」 監督:村川透
 
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