山田洋次監督の「家族はつらいよ」(2016)をきょう朝一番(8:50~)、MOVIXさいたまで見た。午前十時の「旅情」(1955)の感動を再び♪にしようか迷ったが、とりあえずは「家族はつらいよ」で正解ではあった。山田洋次監督の集大成のような作品だった。
山田洋次監督は現在84歳と高齢で、この数年は年1本の割合で映画を監督している。勝手な推測だが「この作品がもしかしたら遺作になるかもしれない」という姿勢で常に取り組んでいるのではないだろうか。近年では、小津安二郎の影響を少なからず認めていると言われるように、自作の中で畏敬の念を込めて、その作品へのオマージュを捧げている。
今回の「家族はつらいよ」も、「東京物語」の映画のシーンが、劇中に紹介され、老夫婦の主人公がテレビで「東京物語」をみていて「東京物語」の「終」の文字が、「家族はつらいよ」の「終」とシンクロしていた。その「終」のあとで、出演俳優の名前が、タイトルロールの後に流れたのと同じように登場して、背景には”おまけのようなシーン”で長男の嫁と子供たちの親子のドタバタ騒ぎのシーンが続いていたが・・・。
また、山田監督自身の作品「東京家族」のポスターが張ってあったり、鰻の出前の兄ちゃんは「男はつらいよ」の曲を口ずさんでバイクで配達をしていた。こんなところにも、これまでの映画の総括をしているのでは、と思わせる一面が感じられた。
・・・
初秋。東京の郊外で暮らす三世代同居の平田一家の主・周造(橋爪功)は、モーレツサラリーマンだった時期を終えて今はすっかり隠居生活を送っている。
今日も仲間とゴルフを楽しんだ後、美人女将・かよ(風吹ジュン)がいる小料理屋で散々女房の悪口を言って盛り上がり上機嫌で帰宅。長男・幸之助(西村雅彦)の嫁・史枝(夏川結衣)は酔っぱらっている周造に気を遣いながらも義父の苦言に笑顔で付き合う。
妻の富子(吉行和子)もまたそんな夫を優しく迎え、寝室で脱ぎ捨てる服を拾い歩きながら着替えを手伝うのだった。周造はいつものように靴下を脱ぎ捨てながら、ふと寝室に飾られたバラの花瓶を見て「その花どうした」と尋ねる。
なんでも誕生日に花をプレゼントする事は仲間の決まりで、今日は私の誕生日なのだと富子は言う。すっかり忘れていた周造だったが、たまには妻に誕生日プレゼントでもしてやろうかと欲しいものを聞いてみると、富子が”450円(?)”かかるものが欲しいと言って、机の引き出しの中から持ち出してきたのはまさかの離婚届であった。
「なんだそれ」「離婚届よ」
突然の宣告を受け唖然と凍りつく周造。
一方、富子はそんなことはお構いなしに冷静に部屋を出ていってしまう。
こうして、平田家の“離婚騒動”は幕を開けた・・・。
10月26日、秋晴れの日曜日。周造と富子、幸之助と史枝、長女・成子(中嶋朋子)と夫・泰蔵(林家正蔵)が集まっている。件の離婚問題について議論しようとしたとき、今日が家族会議だと聞かされていなかった次男の庄太(妻夫木聡)が恋人を紹介するため憲子(蒼井優)を連れてくる。
なかなか本題に入れない一同だったが、ようやく憲子を交えた8人で家族会議が始まった。だが幸之助と成子が口論を始め、ついには史枝、庄太、泰蔵まで巻き込まれ、会議は思わぬ方向に進んでしまう。
やがて長年抱え続けた富子の思いがけない本音が暴露されると、事態は更に思いも寄らぬ局面を迎えるのだった・・・(MovieWalker)。
両親の離婚問題で家族会議が開かれた。
・・・
映画のオープニングは、富子(吉行和子)から離婚をしたいと言い出されて「冗談だろ」という周造(橋爪功)の困惑する姿の後、「家族はつらいよ」のタイトル文字が現れる。そのタイトルのデザイン文字のあちこちに複数の涙マーク
がついていて、それらがどんどん落ちていき、タイトルの文字自体も、ボロボロと崩れていく。まるで、平田一家が崩壊寸前というのを象徴しているように。
がついていて、それらがどんどん落ちていき、タイトルの文字自体も、ボロボロと崩れていく。まるで、平田一家が崩壊寸前というのを象徴しているように。
映画は、家族の崩壊には至らず、むしろ家族の再生の兆しで終わるのだが、ラストのタイトル文字の「家族はつらいよ」は、文字デザインも、華やかで晴れ晴れしたデザインだった。もはや、パラパラと崩れ去ることはなく、しっかりと文字が残っていた。「Design by Tadanori Yokoo」(横尾忠則デザイン)とあった。
「東京家族」と同じ8人の実力派俳優陣が集結した「家族はつらいよ」だが、平田という“新たなる一家”を中心に“喜劇”として話題だが、ポスターに写る一家8人の表情は、山田監督が徹底して演出し撮影されたという。
平田家の面々は、いわば「山田組」のメンバーだが、それ以外でも、平田周造(橋爪功)と高校の同期生で、探偵役の小林稔侍、飲み屋の女主人役の風吹ジュン、常連の笹野高史(警備員役)や笑福亭鶴瓶(特別出演)など豪華キャストが出演している。
・・・
50年も連れ添った妻・富子(吉行和子)が、なぜ離婚を切り出したのか。
衣類を脱ぎ捨てたり、洗面台で音を立ててがらがらだったり、ささいなことの全てに嫌気が差して・・・か。
高級住宅街の田園調布で、広々とした家で、緑に囲まれて一緒に暮らしてもいいという資産家の相手がいたからか・・・。弟の遺産として印税の受取人になっているので、生活に困らなくなったからなのか・・・。
未見の人は、是非劇場へ(笑)。
この映画で、次男の庄太(妻夫木聡)と結婚の約束をする憲子(蒼井優)が、これから嫁になる立場で、生意気な事を言うようですが、そこは我慢して聞いてください、と前置きして「お義父さんは、お義母さんの離婚の理由に対して、自分の言葉でどう思っているのか答えましたか。答えるべきです」というシーンはなかなか良かった。昔気質の周造(橋爪功)にしてみたら、「言わなくたって、そんなことはわかっているはずだ。」と一蹴してしまう。
しかし、男と女というのは、特に女性は「たとえわかっていることでも、言葉に出して言って欲しい」という欲求があるようだ(笑)。日本人は口に出すのは、恥ずかしさがあって、今更言えるか、というのが強いようだ。外国の夫婦、恋人などのように、日常的に「I love you」「I love you, too」と、挨拶がわりに確認するという習慣がない。
しかし、欧米社会では一般的に、口に出したことだけが相手に伝わる、というのがベースにあるようだ。
ネタバレになるが、この映画では、周造は「離婚届」に判を押し、サインをした。
そして妻に言う。「お前がそうしたいのなら、離婚する。しかし、お前と結婚して良かったと思っている」という、不器用だが本音の一言が相手に伝わった。妻は、その言葉を待っていたのだ。そして「ビリビリ、バリバリ」・・・(笑)。
トトは、白い毛並みが特徴のジャックラッセルテリア。居間が一望できる庭の小屋で暮らし、家庭で起こる騒動のすべてを見つめているのだ。まさに平田家の一員。
☆☆☆☆
↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓
「にほん映画村」に参加しています:ついでにクリック・ポン♪。