「お早う」(1959)の1シーン
小津安二郎監督の「お早よう」(1959)を見た。
山田洋次監督が選んだ名作100本のうちの「喜劇編」50本のうちの1本で、NHKBSプレミアムで今夜放送された。”名作”に進路が取れてきた。
昭和30年代初頭(1959年ごろ)の新興住宅地を舞台に、そこで暮らす下町の気さくな家族や山の手言葉を話す世帯、水商売をしていた若夫婦など、じつにいろんな人が軒先をならべて暮らしている人々を描く。二人の子供の兄弟(中学生と小学生)が主人公。
佐田啓二と久我美子が演じる登場人物のラブロマンスなどの要素をからめながら、少年の家にとうとうテレビがやってくるまでの話・・・と言ってしまえば身も蓋もないが、実に子供たちが生き生きと描かれ、それに振り回される大人たちがおかしい。
テレビが家庭に入り始めたころの時代で、経済的なゆとりがある家庭くらいがテレビを購入できた時代。テレビのない子供たちは、近所のテレビのある家によく見に行ったものだが、主人公の少年二人も、隣の家に、テレビを見に行っていたが、両親(笠智衆と三宅邦子)は「英語の勉強をしなさい」とテレビを見に行くことを許さない。そこで子供二人がとった行動とは・・・。
この言葉は「テレビというメディアは非常に低俗なものであり、テレビばかり見ていると、人間の想像力や思考力を低下させてしまう」という意味合いで当時流行となった。テレビから映し出される「相撲」の映像は、初代若乃花だった。
大人たちは、子供に向かって、テレビばかり見るのは時間の無駄だから、勉強しろと言うが、子供も黙っていない。「大人たちこそ、無駄なことを言っている。お早う、今日は。いい天気ですね」と。なかなか鋭い。小学生が、大人たちとの別れ際に言う、あいさつの言葉「I Love You」もおもしろい。
定年退職、失業(当時は、俗語で”ルンペン”と言った!)といった話題もあり、今日的なテーマだった。小学校の授業で「しりとりゲーム」があったが、子供たちの回答で、まったく前後とつながらない言葉で「月光仮面」「赤胴鈴の助」と発言していた生徒がいたのには、思わず笑ってしまった。ここに登場する小学校低学年の同世代だったので大きく納得した(笑)。土手で、子供たちが口ずさむ歌は「有楽町で逢いましょう」だった!
それまで、両親に反抗していた子供たちの喜びに満ちた表情が印象的だった。父親は、子供たちに「しっかり勉強しないとテレビを返しちゃうぞ」とくぎを刺すのだが、小学生の子供は「嘘だい。あの顔は笑っている」と、見抜いてしまっているところもおかしい。
映画は「ナショナル・テレビ 14型(T-14) 高性能遠距離用」と書かれた段ボール箱が廊下に置かれたところで、なんともいえない余韻を残して終わる。段ボールを開けないところも憎い演出だ。
この映画で伝えたかったことの一つは「一見無駄に思えるようなことでも、実はそれが潤滑油になっている。これがなくなったら、味気ない」(佐田啓二)というようなセリフ。
こんにちわ、こんばんわという日常のあいさつが重要ということ。現に、一切口を閉ざした子供たちが、テレビが来た途端に、近所の人にも「お早よう」と元気にあいさつをする姿は、周りをも一変させていた。
(以下、一部重複するがあらすじを追加)
東京の郊外--小住宅の並んでいる一角。組長の原田家は、辰造、きく江の夫婦に中学一年の子・幸造、それにお婆ちゃんのみつ江の四人暮し。
原田家の左隣がガス会社に勤務の大久保善之助の家。妻のしげ、中学一年の善一の三人。大久保家の向い林啓太郎の家は妻の民子と、これも中学一年の実、次男の勇、それに民子の妹有田節子の五人暮し。
林家の左隣・老サラリーマンの富沢汎は妻とよ子と二人暮し。右隣は界隈で唯一軒テレビをもっている丸山家で、明・みどりの若い夫婦は万事派手好みで近所のヒンシュクを買っている。
そして、この小住宅地から少し離れた所に、子供たちが英語を習いに行っている福井平一郎が、その姉で自動車のセールスをしている加代子と住んでいる。林家の民子と加代子は女学校時代の同窓で、自然、平一郎と節子も好意を感じ合っている。
このごろ、ここの子どもたちの間では、オデコを指で押すとオナラをするという妙な遊びがはやっているが、大人たちの間も、向う三軒両隣、ざっとこんな調子で、日頃ちいさな紛争はあるが和かにやっている。
ところで、ここに奥さん連中が頭を痛める問題が起った。相撲が始まると子供たちが近所のヒンシュクの的・丸山家のテレビにかじりついて勉強をしないのである。
民子が子どもの実と勇を叱ると、子供たちは、そんならテレビを買ってくれと云う。啓太郎が、子供の癖に余計なことを言うな、と怒鳴ると子供たちは黙るどころか、「大人だってコンチワ、オハヨウ、イイオテンキデスネ、余計なこと言ってるじゃないか」と反撃に出て正面衝突。
ここに子供たちの沈黙戦術が始まった。子供たちは学校で先生に質問されても口を結んで答えないという徹底ぶり。この子供たちのことを邪推して近所の大人たちもまた揉める。オヤツをくれと言えなくて腹を空かした実と勇は原っぱにおヒツを持出して御飯を食べようとしたが巡査に見つかって逃げ出し行方不明となった。
間もなく子供たちは駅前でテレビを見ているところを、節子の報せで探しに出た平一郎に見つかった。家へ戻った子供たちは、そこにテレビがおいてあるのを見て躍り上った。停年退職した富沢が電機器具の外交員になった仕事始めに月賦でいいからと持込んだものだった・・・Gooより)。
小津安二郎監督の名作の1本を見ることができた満足感を味わっている(笑)。
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