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「名作に進路を取れ!」…映画とその他諸々のブログです。

<span itemprop="headline">映画「トウキョウソナタ」(2008)</span>

トウキョウソナタ」を27日公開初日に、東京・恵比寿ガーデンシネマで見てきた。
(※:この劇場も後に閉館となったのはさびしい限りです)

これも、ラストシーンでは、感動でググっときます(笑)。

カンヌ映画祭の「審査委員賞」を受賞。映画祭の上映後には、拍手が鳴り止まなかったという。
海外でも普遍的に通じる家族をテーマにした映画ということが言える。



                家族4人がかみ合わず・・・家庭内の溝は深い

典型的な東京で暮らす4人家族を描いているが、亀裂が入った夫婦、親子の断絶など
不安定な家族のほとんど崩壊に近い状況から、かすかな未来への希望を描いている。

映画は、たんたんと進んでいくが、食事をしていてもみなばらばらで、会話もほとんどなし。
4人がそれぞれ言えない、言い出しにくい悩み、秘密を抱えている。



                   崩壊しそうな家庭に苦悩する恵

サラリーマンで総務課長の佐々木竜平(香川照之)は、突然総務部門の海外移転に伴って
リストラされることになった。妻の恵(小泉今日子)とは、うまくいっておらず、とても
失業したとは言えず、毎日会社へ通っているように装っていた。が、恵は、あるとき失業者に
食料を配給している場所で、夫が並んでいるのを目撃してしまう・・・。

竜平は、ハローワークに通い、プライドも捨てて、デパートの掃除の職につくのだが・・・。

失業、ハローワーク、現実の職探しの厳しさ、家庭内の閉塞感など身につまされたり、
現実と重ね合わさる部分もある。また、こうした状況は、日本の社会を反映していると
いえなくもない。

竜平は、二人の息子に対しては、父親の威厳を保ちたいという一身で自分の考えを
押し通そうとするが、息子たちはそれぞれ考えがあって、反発。親の許可をもらうのは、
難しいと見て、二人の息子は、その目標を達成するためにそれぞれ行動を起こすことになる。

家族はばらばら。

やがて、竜平の失業も家族に知られてしまい、威厳は失墜。

一方の恵は、泥棒(役所広司)に家宅侵入されるという災難にあう。
現金がないと言うと、小心者の泥棒は、顔を見られたことで、怖気づき
恵を”誘拐”して、盗んだ車を運転させ、遠くへ逃亡を図る。

恵にとっては、現実の家庭から逃避して、新たな人生を再出発したいという
気持ちが強く、泥棒から「家に戻れ」といわれても、このまま遠くへ行くと
車を走らせるのだった。

一方の竜平は、仕事の帰りに、車にはねられ、しばらく意識を失い、「(人生を)
やり直したい」と現在の家庭内事情、失業の苦境からの脱却に苦悩する。



               生まれつきの「天才」ぶりを発揮する健二

長男の貴(小柳友)は、アメリカの軍隊に入りたいから書類にサインしてくれと母親に頼む。
「お父さんに相談して」と母。父親の帰宅後、書類を見せるが、猛反対にあう。

貴は、日本の平和はアメリカの軍隊によって守られているとして、「世界の平和のために、
アメリカ軍に入隊する」と主張。「そんな世界の平和より、お前たち、家族のことが先だ」と父。

すでに父親が失業していることを知っている貴は「そんなことを言っても、お父さんは
何をやっているんだ」と反論。なにも言葉を返せない父だったが、「出て行け」と
言うのが精一杯だった。

結局、母親だけが見送って、貴はアメリカに出かけてしまう。

あるとき、貴は「お母さん、離婚してしまったら? まだ、いけるよ。」というシーンがある。
そのとき、母親である恵は、「そんなことできるわけない」と応えたが、かすかな笑みを浮かべた
ように感じた。(自分の母親に向かって、離婚を勧める子供もあまりいないと思うが、妙に説得力がある。笑)

次男の健二(井之脇海)は、小学6年だが、両親に内緒で近くのピアノ教室に通うことになった。
授業料は、毎月の給食費(月額5、000円)を当てた。ピアノ教室に通いたいと決めたのは、
ふと通りから、ピアノの先生が、女子生徒を教えている光景を見たからだった。
(先生の美しさにあこがれたのか、教わっていた女子生徒に関心があったのかは、
映画では説明がないが・・・。おそらく思春期における美しい大人の女性に対してでは
なかったか。自身の体験から?いえいえ。)

ピアノを教える金子先生(井川遥)は、健二のピアノの才能を見抜き、名門の
音楽専門の中学校への進学を勧める。

この映画は、両親のぎこちない関係が描かれるが、子供たちのほうが、
まともで、しっかりしている、という印象。

とくに小学6年の健二の目線で描かれているようだ。

結局、ピアノの先生からの手紙が家に送られてきて、健二のピアノ教室通いが
発覚するが、手紙には、「健二君は、まれに見るピアノの才能がある」と
書かれており、両親は信じられない気持ちもあったが、受験(ピアノ演奏)に
臨むことになる。

試験会場では、何人かがピアノ演奏を行っていた。
ちょうど会場に入ったときに前の生徒の演奏を聞いた両親は「うまいもんだなぁ」と感心。

「次は健二だな」と待つ二人。

その両親が想像もしなかった健二のピアノを演奏する光景を見ることになる。

審査員、学校関係者のほか受験に来ていた両親たちの反応は・・・。

そして、大感動の中で、この映画は終了。

まあ、エンディングは必ずしもハッピーエンドで終わったわけではないが、
健二の「才能」が、家庭内の家族の再生の「潤滑油」になったことを暗示させている。

ラストシーンのあたりでは、感動でまたまた、目頭が熱くなってしまった。

このところの邦画では、3作品連続で「泣かされた」(「ラストゲーム 最後の
早慶戦」「おくりびと」そして「トウキョウソナタ」)ことになる。

日本映画も、充実しているように感じた。

この映画では、香川照之小泉今日子の夫婦役がはまり役。
香川は、安心してみていられる役者。キョンキョンは、女優としても充実
している様子。完全にかつてのアイドル歌手脱皮に成功したようで。

小泉が、香川の父親としての威厳がなくなったときに見せる目つきは、
「そんな目で見るな」(香川)と言うとおり、軽蔑した視線がきついほどうまい(笑)。

香川は、平均的な日本のサラリーマン像をうまく演じている。
いつも、うまい俳優だと思う。

子役二人は、しっかりしている。
すでに何本か映画に出演しており、実績があるようだが、この映画でも存在感がある。

最後に、井川遥が、チャーミング。
”癒し系”女優、タレントの筆頭といわれていたが、個人的には好きなタイプです
(誰も聞いていない。笑)

映画では、ピアノを教えながらも、自身が離婚を決意するなどのシーンがあり、
健二から心配だといわれたことに対して「そんな心配は要らないから、家に
帰って勉強しなさい」ときっぱり言っていたが、それは自分自身に対して踏ん切りを
つけるために言ったようにも取れる。




最後の音楽専門学校のピアノ試験に駆けつけて、健二のピアノ演奏に、涙を浮かべながら
見守る姿には、またしても感動。いやはや、魅力的です(笑)。

映画は、導入から、なにやらわけありそうな、独得の空気に満ちた家庭を描いて、
笑いあり、涙ありのストーリー展開。ハローワークを通して面接に各社をまわる
エピソードなど、実際に体験したこともあり、身につまされます。

なかなか考えさせる映画でした。

監督・脚本:
黒沢清



ということで、☆☆☆☆ (必見)映画でした。