東京スカイツリーが見える平山の古いアパート
ドイツの監督がなぜ日本を舞台にした映画を?という疑問が当初あったが、ヴィム・ヴェンダース監督の足跡を見れば納得する。
「東京画」(1985)や「都市とモードのビデオノート」(1989)などのドキュメンタリーや「夢の涯てまでも」(1991)といった映画で何度か東京を撮っている。
渋谷区にある公共トイレを、世界的な建築家やクリエイターたちがそれそれの視点でリニューアルする「THE TOKYO TOILET」(TTT)プロジェクトが映画製作のきっかけになった。
TTTプロジェクトでは、建築的な価値だけではなく、トイレ掃除を含めた全ての試みを意義のあるものと思ってもらえる必要があり、それをアートとして表現するために、映画製作が行われた。
このプロジェクトを知った知日家であるドイツのヴィム・ヴェンダース監督が見学する中で、短編製作を依頼されたが、人物の物語を取り入れて長編にした。
ヴィム・ヴェンダース監督は小津安二郎を敬愛し「PERFECT DAYS」の主人公の平山の名前は「東京物語」の主人公・平山周吉(笠智衆)からとっている。
「PERFECT DAYS」で平山(役所広司)が古びたアパートで朝起きたときに布団をたたむシーンなどは、小津へのオマージュか、カメラは終始ローアングル。
ヴェンダース監督は「Shall Weダンス?」で初めて役所広司を見て感銘を覚えたという。その後「バベル」を見て、あの役者だと知り、穏やかで謙虚で、大きな心をもつ平山を演じるのは、長年リスペクトする俳優、役所広司が演じることになった。
役所は「断る理由はない」と出演した。撮影は1年半前の春ごろだという。
ふたりの静かなセッションが、その瞬間、その瞬間にしかないものたちの美しさを描き出している。
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平山の人物像として、もともとは裕福な家庭でビジネスマンとして人生を謳歌していたが、人生の下り坂を迎えて、何らかの原因で生き方に嫌気がさして、全く違う暮らしを質素なアパートで始める。
人間関係など何物にも束縛されない自分の時間が持て、清掃の仕事をしながらの日々小さな喜びに満ちた生活を楽しむというものだった。
日々汚れていくトイレを、毎日清掃している清掃員の方々への感謝と敬意を表そうとしたことが、映画製作につながっているといい、平山の清掃の様子は「知り合いの僧侶のイメージ」にしたというヴェンダース監督。
渋谷区の「トイレ見学ツアー」もできそうで、個人で巡るのも面白いかも?
「THE TOKYO TOILET」(TTT)プロジェクトによって出来た、渋谷区にある17か所公共トイレの内、映画に外観が登場したトイレは12か所。
「代々木八幡公衆トイレ」(代々木5丁目)
「代々木深町小公園トイレ」(富ヶ谷1丁目)
カラフルな透明ガラスで無人の場合は外から中が見えるが、利用者が中から鍵をかけると遮断されて見えなくなる。
「七号通り公園トイレ」(幡ヶ谷2丁目)
「西原一丁目公園トイレ」(西原1丁目)
「神宮通公園トイレ(神宮前6丁目)
そのほか、
「恵比寿東公園トイレ」(恵比寿1丁目)
「東三丁目公衆トイレ」(東3丁目)
「恵比寿公園トイレ」(恵比寿西1丁目)
「はるのおがわコミュニティパークトイレ」(代々木5丁目)など。
映画に外観が登場していないトイレは「西参道公衆トイレ」(代々木3丁目)「笹塚緑道公衆トイレ」(笹塚1丁目)、「幡ヶ谷公衆トイレ」(幡ヶ谷3丁目)「裏参道公衆トイレ」(千駄ヶ谷4丁目)「広尾東公園トイレ」(広尾4丁目)の五か所。
モダンな建築様式のトイレ。アートを感じさせる。たかがトイレ、されどトイレ。
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