「ミトラ」(原題:Mitra、2021)を見る。「SKIPシティ国際Dシネマ映画祭」の国際コンペ10作品の1本。祖国イランで娘のミトラが処刑された日から37年が経ったいま、母親ハーレは娘を裏切り死に追いやった女の存在を知った時、彼女の心に復讐の炎が芽生えるという政治サスペンス。主演は「4分間のピアニスト」などのヤスミン・タバタバイ。骨太の硬い映画ながら見応えがあった。現在コンペ出品作品10本中、6本の作品を見たが、これが現時点でNo.1。
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イスラム革命によるイスラム国建設から40周年にあたる当たる2019年、オランダで著名人となっているハーレ・ダネン(ヤスミン・タバタバイ)は、講演会の講師を務めていた。記者からの「イランへの帰国は?」の質問に「手遅れです」と応えるハーレ。ハーレは、抑圧と文化的なトラウマが頭をよぎる。
ついにレイラ(右)を探し出したハーレ。
1982年、テヘラン。反体制組織の取締りが厳しくなっていた。刑務所に送られたグループの中には、仲間を売る人間も現れた。刑務所から、女の声でミトラについて連絡があった。これが、罠だった。
電話を受けるハーレ。
反体制組織のグループの隠れ家に警察(秘密警察)がやってきて、一斉に拘束。この中にハーレ・ダネンや兄モフセン(モフセン・ナムジュー)などがいた。混乱のイラン・テヘランにはいられないとオランダなどへ亡命する者も増えていた。
ハーレは、娘ミトラに腐った国を離れるように勧めるが「腐ったこの国(イラン)が祖国よ」と留まる決意は固かった。
ミトラは捉えられ、獄中に処刑された。電話をしてきた女・レイラ・ハシャミが裏切り者で、モフセンがかつてかすかに顔を見たことがあるといった程度で、ハーレにとっては、レイラの声だけが唯一の手がかりだった。
そして、なんと、30数年の時を経て、サラと名前を変えたレイラにたどり着くのだった。レイラには娘がいた。まずその娘に接近するハーレだったが・・・。
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国家警察(秘密警察)に襲撃されて、目隠しをされる反体制グループのメンバー。目隠しの数が足りなくなり、ハーレは自らスカーフを頭からかぶる。そのスカーフからぼんやりと周りの動きが見えるが、ぼんやりと映し出すカメラ目線の動きも緊迫感があった。
映画の冒頭に「イスラム革命40周年」とあるように1979年1月にイラン革命が起きた。映画の舞台は、その2年後となる。
「イスラム革命(イラン革命)」って何?:革命によってパフラヴィー国王の独裁体制下にあったイランの「王政」が廃止され「イスラム共和制」が樹立された。単なる独裁政権の打倒ではなく、イスラムの教えに基づいた国づくりが目指されたことから「イスラム革命」とも呼ばれる。
革命の指導者となったのは、イスラム教の十二イマーム派の最高指導者ルーホッラー・ホメイニと、彼を中心とするイスラム法学者たち。それまでの王制はアメリカの傀儡と言われていたが、イラン革命後は、アメリカと敵対することになる。
革命後は法学者が政治を統治し、イスラム法が絶対的なものとされた。議会は選挙で選ばれるものの、最高指導者は行政・司法・立法の上に立つ存在とされ、軍の最高司令官を兼任します。任期はなく、終身制。2019年現在は、アリー・ハメネイが第2代最高指導者を務めている。
■監督:カーウェ・モディ―リ
■出演:ヤスミン・タバタバイ、モフセン・ナムジュー、シャブナム・トルーイ、アヴィン・マンシャディ、サリー・ハルムセン
■製作年/製作国:2021年 / オランダ、ドイツ、デンマーク / 106分
主な登場人物:
■ハーレ・ダハネ:ミトラの母。刑務所に入れられていた娘ミトラは、刑務所内の仲間の裏切りによって処刑された。「密告者だけがのらりくらりと生きている」現状を許せないと、愛娘を死に追いやった女性への復讐を企てる。ミトラの死後37年の時を経て、ついに密告者にたどり着く。ヘビースモーカー。
■ミトラ:ハーレの娘。獄中で処刑される。
■モフセン:ハーレの実兄。ミトラの叔父。ミトラの仇を打ちたいとハーレとともに行動を共にする。
■レイラ・ハシャミ:刑務所内で多くの仲間を裏切ったとされる女。ミトラが生存中にハーレに電話で「ミトラが会いたがっている」と伝えてきた。名前を変えて生き延びていた。