「マンチェスター・バイ・ザ・シー」(原題:Manchester by the Sea、2016)をようやく見た。主演のケイシー・アフレックが第89回アカデミー主演男優賞を受賞。映画は脚本賞も受賞した。
ある事故をきっかけに心を閉ざした男が父を亡くした甥との生活を通して過去のつらい記憶と向き合っていくドラマ。友人もおらず、他人とのコミュニケーションが取れない主人公が、なぜ人間を遠ざけることになったのかの理由が徐々に明かされていく。その想像を絶する経験が余りにも辛く、その原因を起こした罪を背負う生き様が描かれる。
雪景色の港町の風景も素晴らしく、背景に流れる音楽も素晴らしい。
しんみりさせるような地味な映画だが、主人公の過去の明るかった時と現在の落ち込んだ状況が交互に映し出される映像にも引き込まれる。
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兄のジョーが操縦する漁船に乗り、まだ幼い甥のパトリックとリーが仲良く釣りをしている。ボストン近郊のアパートで、住み込みの便利屋として働くリー・チャンドラー(ケイシー・アフレック)。アパートの配管工事や電球交換、道路の雪かきなど雑用に追われる日々。暗い過去を持つ彼は愛想も悪く、失礼な言動も目立つため住民としばしトラブルになることも…。
仕事の後、バーへ行っても話しかけてきた女性にそっけない態度をとり目が合った男性客には喧嘩をふっかける始末。そんなやさぐれ者のリーだが、故郷のマンチェスター・バイ・ザ・シーにいる仲の良かった兄のジョー(カイル・チャンドラー)が病院に運ばれたという電話が入る。
車を飛ばして病院に駆けつけると、ジョーは1時間前に亡くなっていた。
ジョーは過去にも心臓発作を起こして医師から余命宣告を受けていたため覚悟はしていたが、突然のことで混乱。
アイスホッケーの練習中だったパトリック。彼も心の準備ができていたようで父の訃報に取り乱すことはなかった。パトリックを病院に連れていき ジョーの遺体と対面させた後、車で帰宅。
今夜はリーも泊まっていくことに。パトリックも悲しみを紛らわすため
友人を家に呼び、彼女を家に泊めた。翌日、リーはパトリックを連れて兄の遺言書を保管している弁護士の元へ出向く。そこで意外な事実を聞かされる。
リーがパトリックの後見人に指名されており、この町に引っ越すための費用まですでに準備してあった。兄から何も聞かされていなかったリーは弁護士に「後見人なんて無理だ」と告げるが、もし自分が断った場合、パトリックには近親者がいないため(この時点で実の母親とは音信不通)リーは戸惑いながらも後見人を引き受ける。リーは父を亡くしたパトリックとともにこの町で新たな一歩を踏み出すことができるのか?
リーは自分が暮らすボストンにパトリックを呼ぶことを提案するがパトリックにとっては友達や彼女、生活のすべてがこの町にあるため、ここを離れたくない。また、ジョーが遺した自宅や漁船の処分を巡っても2人は揉めてしまう。
しかし、リーにはどうしてもこの町で暮らしたくない理由があった…。
リーもかつてはこの町で家庭を持っており妻と3人の子供と幸せに暮らしていた。
しかし、自分の不注意で自宅が火事になり眠っていた子供たちを焼死させてしまうつらい体験をしていたのだ。警察での事情聴取の際、警官から拳銃を奪って自殺を図るほど自分を罰しようと苦しんでいた。
ジョーの葬儀が行われる春までとりあえずリーはこの町でパトリックと暮すことにした。そんな時、パトリックが音信不通だった母親と密かにメールでやり取りしていることをリーは知る。
実の母が後見人になれないかパトリックに様子を見に行ってもらうが母親や再婚相手との気まずい距離感に後見人を頼むのは無理と判断。
ある日のこと、リーは町で偶然、元妻のランディと出会う。
新しい夫との間に生まれた男の子をベビーカーに乗せていた。この場から立ち去りたいリーを制止してランディは謝罪の言葉を述べた。
「”あの時”は自分のことで精一杯であなたの心の痛みまで理解してあげられず散々責めてしまってごめんなさい。もうあなたのことは恨んでいないし、まだあなたを愛している」とランディの涙ながらの謝罪に感謝しつつもリーは逃げるようにその場を立ち去る。
動揺が収まらないリーは近くのバーへ。わざと他の客に因縁をつけ、殴り合いに。友人のジョージが止めに入ったが、リーは顔面から流血。
すると、死んだはずの娘たちが「パパ、私たち燃えているの?」と…。
あまりにもリアルな夢にリーは驚いて飛び起きるが、部屋の中は煙に包まれていた。
幸い火事にはならなかったが自分には後見人の資格がないと悟ったリーはふたたびジョージの家を訪問。パトリックが高校を卒業するまでサポートしてもらえないかと頼む。そしてリーは今後のことについてパトリックに話をした。
高校卒業まではジョージ夫妻の家に住み、今住んでいる家は貸し出すことに。
そして、パトリックが成人を迎えたら管理している遺産をすべて譲るつもりだと。思いがけない提案に戸惑うパトリック。
この町で一緒に暮らせないかと尋ねるがリーの返事は「どうしても乗り越えられない・・・」。つらい過去を克服できない叔父の気持ちを汲んだリーはその提案を受け入れた。
春が来て、ようやくジョーの遺体を埋葬。そこにはランディの姿もあった。
その帰り道、リーとパトリックは拾ったボールでキャッチボールをしながら「ボストンで部屋が2つあるアパートを借りるつもりだ。パトリックがいつでも泊まれるように…」リーは楽しそうにパトリックに話した。ジョーが遺した漁船に乗って、現在のリーとパトリックが沖へ向かう。
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主演を演じたケイシー・アフレックは、俳優・監督としても名高いベン・アフレックの弟。ケイシー・アフレックは、2010年にドキュメンタリー映画「容疑者、ホアキン・フェニックス」を監督・主演しているが、ホアキンとケイシーが仕掛けたジョークであることが発覚して映画は興業的に失敗。「マンチェスター・バイ・ザ・シー」に主演の予定だったマット・デイモンが、ケイシーに役を譲ったと言われる。ケイシー・アフレックは、アカデミー賞の他、この年の男優賞を数多く受賞する名演を見せた。
元妻のランディ(ミシェル・ウイリアムズ)と主人公のリー・チャンドラー(ケイシー・アフレック)が再会するシーンで、ランディの涙ながらの「”あの時”はごめんなさい」は見応えがあった。
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