家の所有権を巡る争いの先に待ち受ける救い難い悲劇を描いている。
登場人物すべてが不幸になるという結末で暗い映画だが見ごたえはあった。
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夫と別れたショックで茫然自失の日々を送る主人公・キャシー(ジェニファー・コネリー)は、亡き父が残した海辺の美しい家で一人暮らしている。ところがわずか数百ドルの税金を滞納したため、当局に家を差し押さえられ、即刻競売にかけられてしまう。
弁護士に相談した結果、行政の手違いが判明したものの、そのときすでに家は競売にかけられ、市場価格の4分の一の低価格で、イランからの移民一家に買われてしまっていた。
家の新所有者となった家族の長たる男・ベラーニ(ベン・キングズレー)は、イランで軍の高官をつとめていたためプライドが高い。彼は妻・ナディ(ショーレ・アグダシュルー)と息子とともに亡命してきたのだが、米国では最底辺の肉体労働者として屈辱の日々を送っていた。
そのため全財産をはたいて買ったこの家は、故郷と同等の暮らしに戻る最大のチャンスであり、よってそれにかける執着は強い。
それに対し元所有者であるキャシーは、この家がなくなればホームレスになるしかない。この家自体が愛する父が人生をかけて遺してくれた遺産であり、思い出が染み付いている。
この対立がどのように展開されていくのか、引き込まれた。
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イラン出身のアラブ人べラーニを演じるベン・キングズレ―が、投資目的に競売の家を買い叩いて、それを転売して儲けようとする悪い奴ふうに当初は描かれるが、最後には、元の家主の女性のケガや悩みなどを知るうちに自身の野望を捨て、助ける人間味を見せる。ところが息子が誤って警官に撃たれると、生きる希望を無くし、壮絶で驚愕の行動をとる。
レスターという警官が登場し、妻子がありながら、キャシーに惹かれ、のめりこんでいく様は、浅はかさが見える。何不自由ない生活と、妻と子供二人からも戻ってくるよう懇願されてまで、すべてを捨てる理由がわからない。
警察バッジをタテに、外国からの移民であるべラーニに対して、「移民局に知り合いがいる。送還もできる。(引っ越しのための)運送屋に連絡したほうがいい」とキャシーのためとはいえ脅かすのだ。警官から脅されたとべラー二は警察の上司に訴え、警察からレスターは呼ばれるのだが・・・。
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映画は一言でいえば、誇り高き軍人でありながら亡命イラン人として家族を支える男性の存在が、女性と対比されて描かれる悲劇といえる。
辛い日々を送る女性が、父の遺した家まで奪われ苦悩する一方、地道に努力して異国で一歩一歩幸せに近づこうとする家族、両者の接点である家、そして、イラン人家族が予期しない悲劇に向かうクライマックス。
この映画の見どころは、タイトルの霧というように、背景画面の雰囲気がすばらしい。砂のようにはかなく、霧に覆われたような「家」(安住の地)を巡る、すさまじいまでの争いが、弁護士なども登場して、リアルに再現されている。
先日見た「アウトバーン」にも、ジェニファー・コネリーとベン・キングズレ―が偶然にも共演している。ベン・キングズレ―の名優ぶりを改めて堪能させられる。
主な出演者:
イラン人で気位の高い元大佐。アメリカに亡命してからは、土木作業やコンビ二で仕事をして、何とか生活している。競売にかけられていた家を安価で買い、それを転売して再起を図ろうとする。一方、売店のバイトや肉体労働をしていることを家族に告げられずにスーツに着替えて帰宅する。
父親と二人暮らしをしていた女性。父親が失踪し、所得税の納付免除を申請していたが、役所の不手際により申請が通っておらず、未納分の支払いのため、家を競売にかけられてしまう。
副保安官(警官)。家を競売にかけられたキャシーの世話をする内に、彼女に恋をし、妻子がいながらキャシーと関係を持つ。キャシーのために、彼女の家を買ったベラーニを脅す。
ベラーニの妻。実直で思いやりがある。
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