”暗闇の中のダンサー”というのは、失明してしまう主人公が不遇な環境の中で、空想で明るく踊る、といった意味だ。
会話の主の方にカメラが左右に動く手持ち撮影中心のカメラワークやセピア調のような色合いの画面展開が印象的だ。
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オープニングの画面は、うす暗いぼやけた画面に音楽のみが流れる。盲目の世界を暗示しているものだ。
セルマは遺伝性の目の病気を持っており、現在は弱視で、もうすぐ失明すると言われている。セルマの目の病気は息子・ジーン(ヴラディカ・コスティック)にも遺伝していた。しかし主治医の言葉によると、手術をすれば失明から逃れられる。
セルマは仕事を増やしてでも、お金を稼ごうとした。
そんなセルマの楽しみは、ミュージカルの舞台で歌いながら踊ることだった。舞台の稽古も必死でおこなっていた。セルマの目の障害を知る周囲の友人は、優しく接してくれた。
工場に提出するセルマの健康診断の視力検査の際には、書かれている文字を大きく書いてセルマに暗記させ、検査をパスさせる。眼科医もセルマが暗記したのを知りながら見て見ぬふりをする。
セルマは大切な友人・キャシーのことを「クヴァルダ」と呼びかける。セルマが考える、キャシーの別の名前。隣人にあたるビルとリンダ夫妻は、トレーラーハウスを格安でセルマに貸していた。
舞台稽古では「My Favorite Things」を歌いながら踊るが、手渡されるヤカンの位置も分からないほど。大好きなミュージカルの舞台も、そろそろ限界に来ていた。
仕事でも、鉄板の位置が分かりづらく、誤って2枚プレスしそうになる。これはキャシーが気づいて、止めてくれた。
隣家のビルとリンダ夫妻は、一見裕福な暮らしをしているようだった。妻・リンダはよくセルマに「ビルは遺産が入ったから」金持ちだという発言をする。
しかしある夜、ビルがリンダにぼやく。実は想像以上にリンダが浪費家で、遺産はとうに食い潰してしまっており、銀行が家を差し押さえている状態だった。
セルマはビルを慰め、ビルも弱音を吐いたことを恥じた。
セルマは「私も秘密を言っていい?」と、今年中に失明することと、息子の手術のことを話す。それまで誰にも言わなかったことだった。
チェコからアメリカに渡ってきたのは、アメリカでならジーンに手術ができるからだった。セルマは自分が失明するのはショックではないが、目の病気が遺伝すると知っていて生んだ息子・ジーンの目は助けたいと考えていた。
父への送金も嘘で、手術の費用ももうすぐ貯まるとビルに告げる。セルマが貯金していることを、ビルは知った。
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運命のいたずらというのか。
警官のビルがひどい。セルマがコツコツと貯めたお金を奪ってしまうとは。
しかも、セルマを悪人に仕立ててしまうのだ。ビルに金を返してほしいと告げるセルマは、ビルと口論に。
ビルは、なんと銃を持ち出してセルマを脅す。
ビルとセルマは揉み合いになり、ビルに弾が当たった。ビルが決意を決めたことは「死んでも自分と妻・リンダを守る、そのためにはセルマを悪者に仕立てあげる」と。あまりにも自己チュー。
ビルは、1階にいたリンダに通報しろと言って被害者を装い、リンダがいなくなった隙に、セルマに自分を撃てと強要。撃たないと金を渡さないと言われ、セルマは無我夢中で撃つ。
ビルからやっと金を取り戻し、セルマは友人・ジェフと待ち合わせしている場所に行く。その足で眼科医に手術代を払いに行ったセルマは2056ドルと10セントを渡す。
セルマは、警官に逮捕され、裁判では「最も残忍で用意周到に計画していた」「障害を隠れ蓑に周囲を欺いていた」「冷酷無比」と言われ、世間には残忍な行為に映った。セルマに第一級殺人罪として絞首刑が言い渡された。
セルマは、未練がなくなり、「最後から2番目の歌」を思いながら、死刑執行を受けた。
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裁判の厳しさの中で、セルマが空想で踊りだしたり、陪審員も傍聴席の人もみな一斉に動き出したり、というのはミュージカル・ファンは納得だが、ミュージカルが苦手な人には「?」と映るかも知れない。
ラストシーンは、残酷で悲劇的な結末。裁判をやり直していたら、別の結果になったのでは、これでいいのか、という疑問は残る。大女優カトリーヌ・ドヌーブがこの役柄で出演している必然性もあまり感じられない。
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監督・脚本・カメラオペレーター:ラース・フォン・トリアー
製作:ペーター・オールベック・ヤンセン
音楽:ビョーク
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