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「名作に進路を取れ!」…映画とその他諸々のブログです。

映画「天国と地獄」(1963):5回目の鑑賞。

 
黒澤明監督作品の中でも「七人の侍」「椿三十郎」と並んで群を抜く娯楽作品である「天国と地獄」を改めてみた。劇場での鑑賞を含めて今回4度目か5度目か。何度見ても面白い。
 
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映画の冒頭、不安を煽るような音楽を背景に京浜地区(横浜)の工場地帯が映し出され、タイトルと出演者のクレジットが画面に現れる。松下電器のNATIONAL(現在のパナソニック)のネオンも見える。
 
横浜の丘の上にそびえ立つ、大手製靴会社「ナショナル・シューズ」社の常務・権藤金吾(三船敏郎)邸では、会社の社長を除く役員たちが集まり、会社の発展を阻んでいる”ガン”は、25%の株式を保有して株主総会の行方を握る社長と結論付け、
 
持ち株13%の権藤を取り込むのが目的だった。この役員たちの考えは、現在の靴はコストが高すぎ、デザインも古いし、丈夫すぎるという。適当に壊れなければ困るとい論法だ。
 
一方、権藤は、「帽子はただ頭に載せるだけだが、靴は女のめかた(体重)を載せるもの」でしっかりしていなければならないという考えだ。
 
役員たちは、思惑が外れて、すごすごと権藤邸を後にするが、見送りにいた権藤の秘書の河西(三橋達也)に「権藤はなぜ強気でいられるのか」と河西に探りをいれる専務などの役員たち。
 
「知りません。直接聞いてくださいよ」と返事する河西だったが、のちに、懐柔されて権藤に刃を向けることになる。
 

 
ある夕べ、権藤の元に、「あなたの子供はわたしが攫(さら)った」という男からの電話が入る。しかし確かめてみると息子の純(江木俊夫)は誘拐されておらず、その代わりに社用車の運転手である青木の一人息子・進一の姿が見つからなかった。誘拐犯は二人だけで遊んでいた子供を取り違えたのである。
 
その間、警察に連絡すると刑事たちは、運送会社の人間になりすまし車で権藤邸に入り、犯人からの連絡を待つことに。
 
権藤は誘拐した子供がひと違いと分ればすぐ返して寄越すと考えるが、誘拐犯からの電話が再びかかり、意外にも「3000万円、オマエが出すんだ」と身代金を要求してきた。しかも誘拐犯は親族を攫って脅かしているのではないから、脅迫には当たらない、などとうそぶいてみせるのだった。

実は、権藤には、そのとき身代金を支払えない理由があった。
翌日までに全財産5000万円を投げ打って自社株を取得しなければ、会社から追放されかねないという事情があったのだ。その小切手は、今日中にも河西を通じて大阪に届けなければならない。

子どもの命と、自身の社会的地位との間で揺れ動く権藤。
「考えることは何もないはずですよ。金を出したら我々は破滅です」と権藤をけしかける秘書の河西。「お願いします。進一を助けてやってください」とむせび泣く運転手の青木。「権藤はきっと払います」と、夫を信じる権藤の妻・伶子(香川京子)。
 

 
警察の戸倉警部(仲代逹矢)は、時間稼ぎのため、犯人には、身代金を支払うよう権藤に要望する。権藤は、他人の子どもの命を助けるために、株式の取得を諦めるのであった。それは権藤にとっては死刑を宣告されたようなものだった。

戸倉警部の「手加減はいらん。それこそあの人のためにも、犬になってホシ(犯人)を追うんだ!」という犯人逮捕に向けた執念の言葉が響き渡る。

「天国」のように周辺を見下ろす高台にある権藤邸と「地獄」に見立てられた木造長屋の並ぶ犯人・竹内の住む三畳間のアパート。両者の対極が、本作のタイトルを物語る。
 
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犯人からは高台の権藤邸が見えることから横浜・浅間町(せんげんちょう)周辺の電話ボックス、アジトの捜索を行うが、刑事たちも「ホシの言いぐさじゃないが、あの家はほんと、頭に来るな。お高く構えやがって」と思うのだった。
 
現金3,000万円の受け渡しは、7センチ以下の厚みのカバン二個に、1万円札、5千円札、千円札を犯人の指定通りの枚数にして詰めていれ、「特急第二こだま」に乗ることになる。
 

 
列車を舞台にした映画は数々あるが「天国と地獄」ほどスリリングでサスペンスフルな映画はないだろう。
 
犯人に3,000万円を渡し、子供は返ってきたものの、これからが犯人を追及する戦いが始まるのだった。
 
捜査会議では、「苦しい時は、権藤氏のことを考えろ!」と戸倉警部の檄が飛ぶ。
捜査会議には、捜査本部長(志村喬)、捜査一課長(藤田進)などの顔があった。
 

外国人向け飲食街、麻薬患者の巣窟では禁断症状の女たち、ダンスホールなど当時の横浜界隈の風俗も描かれている。
 
天丼100円、オムライス100円という値札もあった。伊勢崎町の木賃宿では「ご休憩100円」の看板も。
 
犯人を現状で逮捕しては、刑期は最大15年になるが、さらに泳がせて、犯行を再現させることで、刑を極刑に持ち込む戸倉警部の執念もすさまじい。
 

煙突に桃色の煙
が混じった光景、子供が描いた富士山の左に沈む太陽のスケッチ、江の電のきしむ音、麻薬患者の走り書きメモ、踊りながらのヘロインと現金の受け渡しのシーン、二人の子供の服装の取り違え、犯人のカバンの処分を想定しての細工、などなど最初から最後まで息つく暇のない展開で、何度見ても飽きさせない映画である。
 
映画は、黒澤明が読んだというエド・マクベインの小説「キングの身代金」(1959年、「87分署シリーズ」のひとつ)に触発されて映画化された。
 
この映画の身代金誘拐を模した事件が当時多発したことで、社会的な話題にもなった。
 
誘拐罪が、これを機に重くなったといわれる。また、昭和の最大の誘拐事件とされる「吉展(よしのぶ)ちゃん」誘拐事件は、この映画をヒントにしたとされている。
 
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