「恋妻家宮本」 (2016)を見た。主演は阿部寛と天海祐希。
脚本が面白いと映画もかくも面白くなるものか(笑)。タイトルの“恋妻家”は造語。これを作ったのは「家政婦のミタ」(2011)「偽装の夫婦」(2015)などの脚本家・遊川和彦。今回監督としてデビュー。
子どもが巣立って2人きりの生活を送る中年夫婦を主人公に、妻が隠していた離婚届を見つけしてしまった夫の戸惑いと優柔不断男の”あるある”と混乱をコミカルに綴る。共演には菅野美穂、相武紗季、富司純子、佐藤二朗、工藤阿須加、早見あかり、奥貫薫、など。
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50歳の中学校教師、宮本陽平(阿部寛)は、何ごともすぐに決断できない優柔不断男。ファミレスのメニューも、決められない。妻、美代子(天海祐希)は専業主婦。
一人息子が結婚して家を出たことで、できちゃった婚だった2人は初めて夫婦2人きりの生活を送ることになる。しかし、どこかぎこちなさが拭えず、居心地の悪さを感じてしまう2人。
そんな中、陽平は本棚の「暗夜行路」の本に隠してあった美代子の捺印済みの離婚届を見つけてしまう。理由が分からず困惑する陽平。優柔不断な陽平は直接問いただす勇気もなく、ただオロオロするばかりだ。
1年前から通い始めた料理教室で仲間に相談するも、“奥さんが不倫しているに違いない”と言われ、ますます混乱してしまう陽平だったが…。
妻の携帯を覗く夫。
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妻・美代子から「あなたって本当に結婚に向いてないよね」と言われる陽平。阿部寛が主演の人気ドラマ「結婚できない男」を皮肉ったようなところがおかしい。プロポースの時も「あなたが作る味噌汁を死ぬまで食べたい」と言ったことを引き合いに出されて「なんて自分はいい人、と自分に酔っている」とまでいわれてしまう。
不器用でダメダメ男が、中学の活発な女子生徒から「先生にも向いていない」と言われる始末。そんな陽平があるクラスの”ドン”と呼ばれる男子生徒の家庭の問題を解決するなどで、教師らしさを身につけていく姿などが描かれる。
人気脚本家の初監督作品ということで、ストーリーのテンポもよく見ごたえがある。原作が「ファミレス」で、舞台は”デニーズ”のシーンが多い。
もしあの時、別な人生だったら…と言った妄想シーンも散りばめられ面白い。
料理教室に通うグループの女性たちとの関係もコミカル。あわやというシーンもいろいろあるが、結局はおさまる所に収まるエンディング。
それにしても今どきの中学生は、小生意気というか、教師を自分たちと同じレベルの仲間のように見るとは・・・。生意気な男子生徒の「先生、悩みがあるなら相談に乗ってもいいぜ」や、しっかり女子生徒の「先生に向いてないんじゃない」など、一人前の口をきく(笑)。
妻がなぜ離婚届を準備していたかなどが明らかになっていくくだりもいい。
結婚向きでない、教師向きでない、などさんざん言われる中で50歳にして、自信を持つに至る教師を、阿部寛が熱演する。
天海祐希は、駅での線路を挟んで夫に語りかける一人芝居が絶妙。途中で口をはさもうとする夫に「話は最後まで聞いて」といい、離婚届の理由を説明。「こちらからは以上です。どうぞ」が抜群にいい。中学生の母親が浮気などで家庭を顧みないことから、愛想を尽かした祖母が孫の面倒を見ると厳しく当たろうとするが、そうした昔気質の方針に固執する頑固な祖母を富司純子が演じ、一見正論だが「正しいことをすることと優しいこととは違う」と陽平から言われ、ハットする。
ラストにかかる吉田拓郎の名曲「今日までそして明日から」では出演者全員が歌うシーンは意表を突くミュージカル仕立て。いろいろ問題を乗り越えてハッピーエンドというのが心地いい。
スタッフ
監督・脚本:遊川和彦