東京新聞の望月衣塑子記者の同名ベストセラーが原案。
監督は、伊坂幸太郎原作の映画「オー!ファーザー」で長編デビューを果たした32歳の気鋭の藤井道人。ただ、数十年前にロッキード事件を扱った「不毛地帯」のような豪快なエンタメ性がないのがやや残念だが、首相直轄の内閣情報調査室という、知られざる組織の一端が垣間見えるのが興味深い。薄暗い密室のような部屋に、若手からベテランまで、パソコンに向かって調査している光景が、ある意味強烈だ。
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ある日、東都新聞あてに、大学新設計画に関する極秘情報が匿名FAXで送られてきた。内閣府が主導し、民間が運営するという点が通常とは異なっており目を引く。若手記者・吉岡エリカ(シム・ウンギョン)は、編集長から誰が送ってきたのか調査するよう命じられる。
吉岡は、日本人の父と韓国人の母のもとアメリカで育ったが、日本の新聞社で働くことを選んだ。吉岡の父は、優秀な記者だったが、誤ったスクープということで、自殺してしまった。しかし吉岡は父の死の原因は別にあったのではないかと考えていた。
父は自殺をするような人間ではなく、強い人物だったからだ。
久々に再会した外務省時代の元上司・神崎俊尚(高橋和也)が、その数日後に自殺し、杉原は葬儀で吉岡と出会う。杉原は神崎の死に疑問を持っていたのだ。神崎の死の理由を追う杉浦と吉岡の2人は、官邸が強引に進めている驚愕の計画を知ることになるのだった。
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女性記者・ジャーナリストが登場する映画としては「金融腐蝕列島・呪縛」(1999)でブルームバーグテレビジョンの女性アンカー和田美豊を演じた若村麻由美や「ハゲタカ」(2009)で現場取材も行うニュースキャスター三島由香を演じた栗山千明などがいるが「新聞記者」では、ややたどたどしい日本を話す女性記者の登場に最初は戸惑った。ハリウッド映画「SAYURI」の芸妓役に日本人でない中国人チャン・ツィイーが演じた違和感だった。
この女性記者役には、宮崎あおいや満島ひかりなどにオファーされたが事務所サイドから断られたという。内容が反政府的だったため、そういったイメージが付くのが嫌われたようだ。そのため、設定も帰国子女で、韓国人とのハーフということで韓国女優のシム・ウンギョンが出演、映画デビューとなったという経緯がある。
大スクープ記事が誤報とされ自殺に追い込まれた真相を追うために新聞記者になった吉岡エリカと、国側に居ながらも、内部の矛盾の真相を究明し、事実を知りたいという2人が、権力と闘っていく・・・という展開。
女性新聞記者と、外務省から内閣情報調査室に配属されてきた杉原の動きに築き始めてきた内閣情報調査室の責任者・多田を演じる田中哲司の”圧力”もみどころ。
吉岡と杉原に、東都新聞の編集長も加わり、3人は、内閣府が日本に、大学の設立という隠れ蓑の裏で、実は・・・という大学を作ろうとしているという結論に達するのだが・・・。かなり怖い話ではあった。
アメリカでは新聞記者を題材にした映画では「大統領の陰謀」(1976)や、第88回アカデミー賞最優秀作品賞を受賞した「スポットライト 世紀のスクープ」(2015/トム・マッカーシー)や、スピルバーグの「ペンタゴン・ペーパーズ 最高機密文書」(2017)、ロブ・ライナー監督作品「記者たち 衝撃と畏怖の真実」(2017)などがある。実際の事件に基づいた新聞記者たちの勇気と正義の物語を数多く制作している。
“忖度”という言葉が飛び交う今の日本で、こうした社会性のある作品を作るのは難しいとされるが、東京新聞・社会部記者、望月衣塑子の同名ベストセラーを原案とした本作は、予想以上にストレートに、日本の政界の暗部と、マスコミ事情に踏み込んでいる。
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