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「名作に進路を取れ!」…映画とその他諸々のブログです。

映画「淵に立つ」(2016)

 
淵に立つ」(英題:Harmonium2016を見た。日本・フランス合作のドラマ映画である。監督「歓待」「ほとりの朔子」など深田晃司、主演浅野忠信
 
第69回カンヌ国際映画祭にて「ある視点」部門の審査員賞を受賞
キネマ旬報・日本映画ベスト・テンの第3位
 
この映画はすごいとだけ言って、あとは「見てください」といいたい映画。
登場人物はわずか数人。しかも、それぞれが奥底に秘密を抱えている。
内面まで全くリアルに演じて最後までぐいぐいと引き込まれる。 
 
言い古された言葉だが、まったくの予備知識なしで見るべき映画。
それだったら書くなといわれそうだが、書かないと見てみようかという気が起こらない(笑)。
 
・・・(以下、若干のネタバレあり、注意)
カンヌ映画祭で話題になった・・・くらいの情報で見たので”ラストの衝撃”(←ネタバレしている?)が大きかった。
 
主役の浅野忠信は、演じる役柄について「俺にぴったり」と語ったとか。
それは得体のしれない男。言葉も丁寧で、常に身支度を整え、姿勢もまっすぐで、一見して紳士のようだが、実は・・・と根底にある狂気(←ネタバレしている?)。
 
下町で小さな金属加工工場を営みながら平穏な暮らしを送っていた夫婦とその娘の前に、夫の昔の知人という男が現われる。奇妙な共同生活を送りはじめる彼らだったが、やがて男は残酷な爪痕を残して姿を消す。8年後、夫婦は皮肉な巡り合わせから男の消息をつかむ。しかし、そのことによって夫婦が互いに心の奥底に抱えてきた秘密があぶり出されていくといったストーリー。
 
・・・
あらすじ(Wikiより: ”一部”ネタバレあり):                           町工場を営む鈴岡利雄古舘寛治は、妻子との会話はあまりないもののとくに波風の立たない穏やかな家庭を有していた。
 
そこにある日、利雄の古い友人である八坂草太郎浅野忠信が現われる。八坂は11年ぶりに刑務所から出獄してきた身の上であり、その身を案じる利雄はさっそく自宅の一室を彼のために貸すのだった。
 
突然のことに動揺する妻・章江筒井真理子)だったが、八坂の人当たりの良さと誠実さに好感をもった。通っている教会での演奏会のためオルガン練習に余念のない娘・蛍篠川桃音も、演奏に長けアドバイスしてくれる八坂になついてゆくのだった。
 
 
すっかり家族同然になった八坂は、あるとき章江に殺人を犯したことを告白するが、すでに彼に揺るぎない信頼を寄せていた章江にとっては、むしろ八坂への感情が愛情に変わるきっかけとなるばかりであった。
 
家族が八坂を核として動き始めた実感を得たとき、彼は章江を犯そうとし、拒絶されたことで蛍に矛先を向け乱暴を働いた。すべてを目の当たりにし狼狽する利雄をおいて、八坂はその姿を消し二度と戻らなかった。
 
8年の月日が流れた。町工場は平穏を取り戻してはいたが、成長した蛍は正気を失い車椅子生活を送っていた。彼女の介護に没頭する章江も、著しい潔癖症から脱することはできなかった。
 
彼女らのため失踪した八坂を探偵を使って探させる利雄だったが、時の流れがいつしか諦めの気持ちを彼に抱かせていた。利雄の工場ではといえば、勤めていた青年・設楽篤三浦貴大の退職に伴い後継者として山上孝司太賀という若者が出入りするようになっていた。
 
熱意をもつ孝司は好意的に迎えられていたが、ふとしたことから利雄に、自分の父親が八坂であることを洩らす。孤児であり父親の記憶はない、と弁明する彼だったが、家族の忌まわしい記憶を掘り起こさせるには十分であった。八坂と共謀して人を殺めたことを利雄は妻に明らかにするが、もはやそれは遅すぎた告白であった。
 
 
探偵の調査の結果、撮影された八坂とおぼしき写真をたよりに、家族と孝司は自動車で地方の小村へと向かう。だが、発見された男の正体は全くの別人だった。すべての希望を奪われた章江は、起き上がらせた蛍とともに破滅的な行動に出るのだった・・・
 
 
・・・
出所した男・八坂が犯した殺人などは詳しく描かれていない。
男は、自分で決めた約束事があったようだ。それは何か・・・。
 
 
八坂鈴岡家で食事をするときに、鈴岡の妻・章江と娘だけが食事前に祈りをささげるが、夫は、勝手に食事を始める。無表情で、家族の行動には無関心ということを知る。八坂自身は監獄での習性が抜けずに、ごはんやおかずをかき込むように口に入れ、さっさと食器を片付け自分で洗う。
 
八坂は章江と歩いているときに、プロテスタントですかと聞く。
そこで、八坂は信仰心(宗教)には2種類あると語
サル型の宗教とネコ型の宗教だという。サル型は、子ども(信仰する人間)が、自分から親(神様)にしがみつくもの。ネコ型は、親(神様)に、子ども(信仰する人間)が首根っこをくわえられるモノだというのだ。
 
章江は「私はけっこう神様にしがみついていると思ったけどな〜」と語っていたが、じっさいのところは、八坂言うように、ネコ型の信仰心しか持ち合わせていなかったようだ娘が不随状態になり、娘とともに自殺をしようとする章江にとって、信仰は無意味に思えたのだった
 
八坂が川釣りに出かけ、河原でいきなり態度を豹変させるシーンにハッとさせられる。今まで、紳士然としてきた男がついに本性を見せたのか・・・。八坂が利雄にいう。「お前は本当に小せえヤツだな。俺がクみたいな生活をしている時、お前はックスまでして子どもを作ってよ。何でこの生活が俺じゃねえのかって思うよ」と言ったのは、11年の長い刑務所生活のせいで心がゆがんだだけではなく「利雄がどこかで約束をやぶったからだと思ったからだった驚く利雄に「冗談だよ」とフォローするのだが・・・。根底には、やくざの本性が潜んでいる。
 
・・・
主人公の前科者の男・八坂(浅野忠信に翻弄される人妻を演じる筒井真理子がすばらしい。最初に八坂を見た時は、動揺を隠せなかったが、実はオルガンが弾けて、娘にオルガンを教えている姿を見てすっかり安心し、やがてはこの男に”よろめいていく”人妻の心理の変化を巧みに表情であらわしてうまい。
 
 
筒井は、前半と後半(8年後)では、内面の変化だけでなく、身体面の変化も必要と提案して、撮影の3週間で、体重を13キロ増減させたという。潔癖症で、手のせっけんでの洗い方も数えていたり、預かった小物を、徹底して拭いたり・・・。
 
そのかいあってか、国内の映画賞で筒井真理子は主演女優賞をほぼ総なめ(「横浜映画祭」「高崎映画祭」「毎日映画コンクール」ほか)。筒井真理子は、「アキレスの亀」「希望の国」「探偵はBARにいる2」「ルームメイト」などに出演。
 
利雄を演じる古舘寛治は、つかみどころのない、ひょうひょうとした人物を自然体で演じている。これまでに出演している映画では「ぐるりのこと。」「南極料理人」「夢売るふたり」「海よりもまだ深く」などがある脇役俳優である。
 
浅野忠信は、今や国際俳優のひとりで、この映画での抑えた怪しさ、不気味さは底知れない雰囲気だった。
 
深田監督は、カンヌ映画祭で、記者からストーリーの着想を聞かれ「描きたかったことのひとつは、私たちの日常を唐突に、理由もなく破壊する暴力です」と説明。「事故や自然災害など、因果関係や罪と罰があるわけでもなく、唐突に日常を破壊してしまう。暴力そのものを一切描くことなく、暴力性を映したいと思っていました」と語っている。
 
絶対にネタバレしてはいけないラストは、一切触れない。
まとまりがつかない、アタマを整理できない・・・ということもあるが(笑)。
 
英題:Harmonium
2016/日本、フランス 上映時間119分
監督・脚本:深田晃司
音楽:小野川浩幸
主題歌:HARUHI
出演:
筒井真理子- 鈴岡章江
古舘寛治- 鈴岡利雄
太賀- 山上孝司
三浦貴大- 設楽篤
篠川桃音- 鈴岡蛍
真広佳奈 - 鈴岡蛍(8年後)
 
☆☆☆☆
 
 
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