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「名作に進路を取れ!」…映画とその他諸々のブログです。

映画「愛すれど心さびしく」(1968)

 
愛すれど心さびしく」(原題:The Heart is a Lonely Hunter, 1968、日本公開1969)を見た。テーマは重いが、見ごたえがある。「ダーティ・ハリー」で馴染みのあるソンドラ・ロックが、新鮮に映る。それもそのはず、これがデビュー作だった。
 
「禁じられた情事の森」のカーソン・マッカラーズの小説「心は孤独な狩人」をトーマス・C・ライアンが脚色、「今宵限りの恋」のロバート・エリス・ミラーが監督した文芸篇。
 
出演は「暗くなるまで待って」のアラン・アーキン、映画デビュー作となるソンドラ・ロック、「間違えられた男」のローリンダ・バレットステイシー・キーチチャック・マッカンほか。
 
ろうあ者や黒人差別なども描かれており、なかなかテレビでも放送されず、見る機会の少ない映画の1本かもしれない。アメリカのストウ夫人の小説に「アンクル・トムの小屋」(=トムじいの小屋)というのがあるが、映画でも”アンクル・トム”という言葉が登場する。これは、黒人が奴隷時代に使われた黒人の蔑称である。
 
父親が病で働けず経済的な厳しさに直面している家族の物語であり、男同士の友情物語でもあり、報われなかったラブ・ストーリーでもある。”薄幸”の人がほとんどといってもいい物語でもある。
 
 
ストーリー:
口もきけなければ、耳も聞こえない2人の若者が、アメリカの西部の町に住んでいた。シンガー(アラン・アーキン)は彫版師、アントナパウロス(チャック・マッカン)は、いとこの食品店を手伝っている。
 
2人は薄幸な身の上をかばい合う、このうえもない親友であった。
しかし、精神薄弱気味のアントナパウロスは病状がこうじ、いとこの手で病院に送られてしまった。
 
この日からである、シンガーに本当の孤独がやってきたのは。
彼はアントナパウロスが入院している病院のある大きな町に引っ越し、ケリー夫妻の家に下宿した。
 
夫妻にはミック(サンドラ・ロック)という14歳の娘がいる。ミックは、骨折した父の治療費を払うため下宿人をおかなければならない家庭の事情を知ってはいたが、自分の部屋を空け渡さなければならないことに不満を持っていた。そのために下宿人のシンガーを憎みさえした。
 
やがてシンガーは新しい町で2人の友人を得た。
その1人は、黒人の医師コープランドである。娘にそむかれ、白人にはいわれのない憎しみを持っている男。彼もまた、心は淋しい人間だった。
 
シンガーとコープランドは人種を超え、徐々に心を開いていった。
そしてミックも、音楽をかけ橋にして、シンガーに親しみをおぼえていった。ミックは耳の聞こえぬシンガーに音楽の素晴らしさを何とか伝えようとし、またシンガーもミックのためにレコードを買ってやるのだった。
 
 
しかし、ミックは少しずつ大人に成長しはじめる年頃。シンガーを意識しながらも、家庭の経済状態から学校を退めなければならなくなり自暴自棄の行動に出てしまった。ほかの男に体を与え、シンガーを避けるようになったのだ。
 
また、ある事件をきっかけに、娘との仲をこじらせていたコープランドだったが、彼が病気で余命いくばくもないことを知ったシンガーの尽力で、娘と和解する。父と娘が抱き合う姿を見たシンガーは、自分がもう彼らには必要のないことを悟る。
 
そのうえ、親友アントナパウロスが、シンガーの努力にもかかわらず、知らぬ間にさびしく死んでしまっていたことを知る。孤独に打ちひしがれたシンガーはついに自殺を決意するのだった。
 
それから数ヵ月後、シンガーの墓の前で泣いているミックの姿がみられた。
「知ってほしいの、心からあなたを愛していました」・・・同じ言葉を何度も何度もくり返すミック。彼女もまた、心は淋しい人間の1人なのであろう(MovieWalker)。
 
・・・
淋しいのはお前だけじゃない」というドラマ(1982年、西田敏行主演)があったが、「愛すれど心さびしく」では、様々な孤独な人間模様が描かれている。
 
アラン・アーキンが、思いやりのある、人のいいシンガーというろうあ者を演じているが「暗くなるまで待って」(1967)の悪役と同じ人物とは思えないほどの善人ぶりで、手話などで熱演。唯一の理解者だった同じろうあ者が亡くなって、あとを追うという悲劇が描かれる。シンガーの孤独の深さは、残された友人の黒人医師や、好意を寄せていたミックですら理解し難いほどだったようだ。
 
黒人の治療しかしないという黒人医師は、白人に対して偏見を持っていたが、シンガーのひたむきさなどを知って、黒人のろうあ者の患者の通訳をシンガーに頼んだり、人種の壁を越えて心を開いていく姿も共感できる。
 
シンガーの孤独に苛まれた姿をみたミックは、自分だけが孤独だと思い込んでいた多感な娘だったが「孤独は私だけじゃない」と悟ったり、クラシック音楽で孤独感を癒したり、遊園地でデートして楽しんだりと、孤独を克服していくのだが・・・。
 
ろうあ者で知恵遅れのアントナパウロスは、親友のシンガーを困らせる行動ばかりを起こすが、食い意地が張っており、食べ物に執着し、シンガーがチョコレートを使って、”馬に人参”の戦法で車に乗せるシーンは、見事。車が走り出したら、チョコレートを窓から捨ててしまうのだ! シンガーは、アントナパウロスに対して、”ったくもう”と思っても、孤独から解放される唯一無二の親友だったのかもしれない。
 
墓地におけるラスト・シーンも印象的だ。
差別的な用語もポンポンと飛び出してくる。
自由な国アメリカの根底に潜む差別はいまだに根強い。
 
監督:ロバート・エリス・ミラー 製作総指揮:トーマス・C・ライアン トーマス・C・ライアン 脚本:トーマス・C・ライアン 原作:カーソン・マッカラーズ 撮影:ジェームズ・ウォン・ハウ 編集:ジョン・F・バーネット 音楽:デイヴ・グルーシン
 
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GH字幕さんから提供されたDVD(字幕:GH字幕、非売品)により見ることができた。
☆詳細はこの映画の”字幕”を作った本人・GH字幕さんのブログ記事で:
 
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