アルフレッド・ヒッチコックに進路を取れ!の第2弾として「逃走迷路」(1942)を見た。原題は仏: saboteur (サボタージュ)。英語ではsabotageで、破壊工作のこと。日本語の「サボタージュ」は「怠業、サボること」で、若干意味が異なる。この映画も日本での公開は1979年4月と、製作後30数年を経て公開されている。
・・・
無実の青年が警察の追跡を逃れながら真犯人を探す、ヒッチコック得意の“巻き込まれ方サスペンス”の代表作。監督はアルフレッド・ヒッチコック、脚本はピーター・ヴィアテル、ジョーン・ハリソン、 ドロシー・パーカーが担当。撮影はジョゼフ・ヴァレンタイン。編集はオットー・ルドウィグ。
・・・
真犯人の手がかりは、燃える工場から飛び出してきた男フライ(ノーマン・ロイド)と、彼が落とした封筒にあった住所“ディープ・スプリングス牧場”だけだった。
バリーは警察の手を逃れ、“ディープ・スプリングス牧場”に向かう。
だが、牧場主のトビン(オットー・クルーガー)は、フライという男など知らない、と言い放つ。あきらめて帰ろうとするバリーに、トビンの子供がじゃれついてきた。
その子は父親の上着のポケットから取り出した紙切れをバリーに渡す。
それは、フライからの電報だった。そのとき、トビンの通報によって駆けつけた警察に、バリーは逮捕される。護送の途中、渋滞で車が橋の上に止まっているとき、スキをついてバリーは川に飛び込んで逃げる。
人目のつかない小屋に避難したバリーは、そこでミラー(ボウハン・グレイザー)という紳士に助けられる。ミラーの姪パット(プリシラ・レーン)はバリーの身柄を当局に引き渡そうとするが、無実を主張するバリーに心動かされ、犯人捜しを手伝うことに。
そこでは、逃れたはずのパットがトビンに捕えられていた。バリーはパーティーの客たちに主催者がナチの工作員であることを告げようとするが、地下に監禁される。そこでスプリンクラーを作動して消防隊を呼び、騒ぎに乗じてマンションを逃げ出す。
新聞で、キアニーヤードで戦艦の進水式があることを知ったバリーは、工作員のひとりが何度も「キアニー」という言葉を口にしていたことを思い出す。やつらの目的は、戦艦爆破だったのだ。キアニーヤードに急行したバリーは、ついにフライとめぐりあう。自由の女神像の上で格闘の末にフライを倒し、パットも救いだしたバリーは、自分の無実を晴らすのだった(MovieWalker)。
・・・
濡れ衣を着せられて逃走しながら真犯人を追うというスタイルは、のちの「逃亡者」そのもの。「北北西に進路を取れ」のケーリー・グラントも事件に巻き込まれていった。ヒッチコック映画の面白さのひとつは、小道具。
「逃走迷路」でも、郵便の宛名がヒントとなっていた。背景も有名な場所をうまく使っている。自由の女神像の冠の部分(展望台)や、たいまつ部分での格闘などが描かれる。「北北西に進路を取れ」では、巨大な4人の大統領の顔の彫刻があるラシュモア山モニュメントが有名。
1940年代初頭のアメリカの町並み、特にニューヨークなどの背景が描かれていて興味深い。自由の女神も実際に近くで見るとそれほど大きくは感じなかったが、中には、展望台までの螺旋(らせん)階段とエレベーターまであるようだ。
映画はその当時の時代背景を色濃く反映している。映画が製作された1942年当時といえば、第2次世界大戦中。ヨーロッパではヒトラーが台頭し、ファシズム・全体主義の嵐が世界を席巻していた時代。そんな時代背景で製作された映画ということで、真の「愛国者」とは、正義とは、社会において人間とはどうあるべきかなど、現代に続く重要な問題が問われていると言える。組織ぐるみの破壊工作といったテーマも、時代を考慮しないとなかなか理解しにくい。
初期のヒッチコックの未見作品なども追いかけていきたい。
☆☆☆