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「名作に進路を取れ!」…映画とその他諸々のブログです。

映画「張込み」(1958)を見た(再見)。松本清張原作・野村芳太郎監督コンビの第1作。

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張込み」(1958)を見た(再見)。テレビも再三リメイクされ、1・2作はみていた。映画は高峰秀子大木実が出ていたなくらいでほとんど忘れていた。野村芳太郎にとっては今作が松本清張原作の映画化の第一作。

このあと「ゼロの焦点」「影の車」「砂の器」「疑惑」など数々の松本清張野村芳太郎コンビの名作が生まれた。その意味では、日本映画の歴史を変えた作品といえる。戦後数年の1950年代の風景、交通機関(市電、蒸気機関車)、通信手段(電報、手紙が中心)などが現代との時代の格差を感じさせる。

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警視庁捜査第一課の下岡(大木実)と柚木(ゆのき、宮口精二)は、質屋殺しの共犯・石井(田村高広)を追って佐賀へ発った。逮捕された主犯の自供によると、石井は兇行に使った拳銃を持っていて、三年前に上京の時に別れた女・さだ子に会いたがっていた。

さだ子(高峰秀子)は今は佐賀の銀行員・横川仙太郎(清水将夫)の後妻になっていた。石井の立寄った形跡はまだなかった。両刑事は、その家の前の木賃宿然とした旅館で張込みを開始した。

さだ子はもの静かな女で、熱烈な恋愛の経験があるとは見えなかった。ただ、20歳以上も年の違う夫を持ち、不幸そうだった。猛暑の中で昼夜の別なく張込みが続けられた。

日目。四日目。だが石井は現れなかった。柚木には肉体関係までありながら結婚に踏みきれずにいる高倉弓子(高千穂ひづる)という女がいた。近頃二人の間は曖昧だった。

柚木には下岡の妻の口ききで、風呂屋の娘・信子(川口のぶ)の条件の良い結婚話が持ち上り、弓子の方には両親の問題があったからだ。

一週間目。柚木が一人で見張っていた時、突然さだ子が裏口から外出した。あちこち探した末、やっと柚木は温泉場の森の中でさだ子と石井が楽しげに話し合っているのを発見した。

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彼が応援を待っていると、二人はいなくなった。再び探し当てた時、さだ子は石井を難きつしていた。だが彼女は終いには彼に愛を誓い、彼と行動を共にするといった。

しかし下岡刑事が到着し、石井はその温泉宿で逮捕された。この張込みで、柚木は女の悲しさを知らされ、弓子との結婚を決意した。「今日からやり直すんだよ」柚木は小声で石井を慰めた。それは自分へ言い聞かせる言葉でもあった。

 

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若い刑事(大木実)とベテラン刑事(宮口精二)の2人が、東京駅で列車に乗り過ごし(新聞記者に捕まって、と後で説明がある)、横浜駅から夜行列車に飛び乗り、東海道線山陽本線を下って佐賀市へと向かう導入部が素晴らしい。当時は新幹線はなく「鹿児島行き急行」といっても、蒸気機関車(SL)。汽車の車両の天井には「扇風機」が回っている。乗客は、暑さのせいでランニング姿も多い。佐賀駅に到着するまで10分以上も列車内の光景が映し出されたあと、下岡(大木実)が「(佐賀で)さあ張込みだ」と声を上げると、画面いっぱいに「張込み」のタイトルが現れ、下岡と柚木の目のアップや、出演者の名前が出る。ド迫力のオープニングだった。

真夏の列車内は、通路まで乗客が座り込む窮屈さ、蒸し暑さはいやが上にも伝わってくる。さらにこの息苦しさは「備前屋」という商人宿の2階の狭い部屋に閉じこもり、張り込みを始めてからも変わらないのだ。  

2人の刑事は東京で起きた強盗殺人事件の犯人が昔の恋人のところに会いにくると踏んで佐賀まで出てきたのだ。共犯者の「女に会いたがっていた」という証言に賭けたのだ。その女は、宿の向かいに住んでいて、毎日、時間を計ったように規則正しく、3人の子供を送り出し、銀行員の夫を送り出すのだった。

そのあとは、掃除を2時間、ミシンを踏み、庭に洗濯物を干す。出かけるのは午後、たまに買い物に行くときくらいだ。「備前屋」の女将とも親しいようで、お金の用立てをして欲しいと300円借りたりする。女中らによると、気難しい旦那がケチで、買い物代として毎日100円を手渡すだけだという。

映画の前半は、張込みの状況が描かれ、数日はなんの動きもなく、物語自体が単調だったが、後半に動きが出てからが、一気に面白くなっていく。

後妻に納まっている平凡な女に見えたさだ子が、3年ぶりに男と逢ってからの情念、その変化ぶりには、柚木刑事も驚かされた。

さだ子は表面的には幸せだが、毎日がだるく、「張り合いがない。生きがいがない」と、今の生活から抜け出して、石井とともに生きていく決心をしていた。ところが石井は、東京での状況を一通り話したあと「宿に戻って、すべてを話す」と言って宿に戻る。しかし、宿では、刑事が石井を逮捕。さだ子は、はじめて石井のおかれた立場を察して号泣するのだった。

 

主な登場人物:

大木実(柚木刑事)

宮口精二(下岡刑事)

高峰秀子(横川さだ子)

田村高広(石井キュウイチ)

菅井きん(下岡の妻・満子)

竹本善彦(下岡の長男・辰男)

清水将夫(さだ子の夫・横川仙太郎)

伊藤卓(仙太郎の長男・隆一)

高木美恵子(仙太郎の長女・君子)

春日井宏行(仙太郎の次男・貞二)

内田良平(石井の共犯者・山田)

高千穂ひづる(柚木の恋人・高倉弓子)

藤原釜足(弓子の父)

文野朋子(弓子の母)

町田祥子(弓子の妹)

高木秀代(弓子の妹)

磯部玉枝(弓子の妹)

浦辺粂子(旅館の女主人)

山本和子(旅館の女中・秋江)

小田切みき(旅館の女中・喜和子)

川口のぶ銭湯の娘・信子)

北林谷栄(信子の母)

玉島愛造(銭湯の釜焚き)

南進一郎(深川署署長)

近衛敏明(深川署刑事課長)

松下猛夫(深川署刑事)

土田桂司(深川署刑事)

鬼笑介(深川署刑事)

芦田伸介(捜査第一課長)

大友富右衛門(佐賀署署長)

多々良純(佐賀署刑事)

小林十九二(洗濯屋の主人)

清水孝一(洗濯屋の小僧)

大友純飯場の親方)

山本幸栄(町工場の主人)

草香田鶴子(製本屋のおかみ)

末永功血液銀行の係員)

福岡正剛(タクシーの運転手)

今井健太郎(巡査)

竹田法一(関西弁の男)

小林和雄(ある通行人)

稲川善一(郵便屋)