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「名作に進路を取れ!」…映画とその他諸々のブログです。

映画「白痴」(1951)ドストエフスキー原作、黒澤明監督。

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黒澤明監督の「白痴」(1951)を見た。”今頃見た”シリーズ。黒澤監督のドストエフスキーの原作(1868年発表)への思い入れ、撮影への執念は凄まじかったと言われ、2月の札幌での撮影もリテイク続出だったという。

原作発表時の舞台を、昭和20年代の札幌に置き換えている。札幌観光協会後援。当初の尺は4時間25分だったが、松竹の意向で大幅にカットされ、黒澤明も怒り心頭だったようで「そんなにカットしたいならフイルムを縦にカットしろ」という黒澤も166分で折り合ったようだ(笑)。

 

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不思議な雰囲気を醸し出す森雅之、野獣のようなギラギラした三船敏郎、凛とした美貌の中に性格のきつさがにじみ出る原節子の演技が見ごたえがある。

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沖縄から復員して来た亀田欽司(森雅之)は、癲癇性痴呆性で白痴だと自ら名乗る無邪気な男だった。青函連絡船の中から欽司と一緒になった男に赤間伝吉(三船敏郎)と軽部(左卜全)という男がいた。

軽部は、欽司が札幌の大牧場主・大野(志村喬)の親類だというとペコペコし、伝吉が、札幌の大金持ち・赤間家の息子というとまた驚いて見せた。伝吉は、政治家・東畑(柳永二郎)の囲い者・那須妙子(原節子)にダイヤの指環を贈ったことから父に勘当されるが、その父が亡くなったので家へ帰るところだった。

 

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 欽司は札幌に着いて、狸小路写真屋に飾られた那須妙子の写真を見せられ、その美しさにうたれる。大野は欽司が帰って来たのを見て、ちょっとあわてた。欽司が父から遺された牧場を大野が横領した形だったからである。

しかし欽司は一向にそんなことには気にかけず、大野から香山睦郎(千秋実)の家へ下宿させてもらう。

その香山睦郎は、東畑の政治的野望の邪魔になって来た妙子を、60万円の持参金つきで嫁にもらうことになっていた。

札幌へ帰ってその噂を聞いた赤間伝吉は、100万円の札束を積んで、妙子を譲りうけに行った。妙子は、100万円を東畑や香山の前で暖炉に投げ込んで、赤間とそりに乗って去って行った。

 

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 赤間と妙子が東京へ行ったと聞くと、欽司も、大野から贈られた牧場の少なからざる利益金を懐にそのあとを追って行ったが、やがて赤間も妙子もそして欽司もまた札幌に舞いもどって来た。

妙子は赤間とはどうしても結婚する気にならず、自分を憐れんでくれるような亀田欽司にはひかれるが、やはり反発するものがあるのだった。

 

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大野の娘・綾子(久我美子)は、欽司を一番深く理解し、欽司も綾子にひかれていたが、妙子の危なっかしい生活ぶりがよけいに彼の心をひくのだった。

綾子は、妙子に捨て去られた香山と結婚する決心をし、妙子は欽司と綾子とを結びつけるのが本当だと考える。しかし、伝吉が、ついに妙子を刺してしまったことから、欽司は伝吉と一緒についに精神病院の一室で生涯を送る身になった。

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美しい雪のシークエンス、室内劇の大胆な切り返しは、黒澤作品の他に類をみない独特の雰囲気を醸しだしている。往来する路面電車や馬そり、札幌駅、北大のポプラ並木や中島公園の氷上カーニバル、雪祭りなど札幌の風景も登場している。

俳優陣のアップの画像が多いが、とくに囲われている女・那須妙子を演じる原節子の眼力がすごい。60万円の手切れ金とともに追い出された格好の妙子が、香山家にやって来るが、「取り次いで頂戴」と上から目線でキツイ性格で皮肉たっぷりな態度だった。「私みたいな女が、こんな立派な家では歓迎されないかと思って、バカですわ」。

ここに伝吉(三船敏郎)が割って入り、60万、70万、100万円と釣り上げるのだ。「40万だけ私の値が上がったわ」と妙子。すると亀田欽司(森雅之)は「あなたはそんな人じゃない」というと妙子は不気味な反応を示して「その通りなんです」だった。妙子は、大野の娘・綾子(久我美子)が「自分の失ったものをすべて持っている」として、そうした理想をなくしたという。しかし、結局は、ヤキモチ焼きのお嬢さんを天使のように思っていた人はバカだ、だった。亀田欽司にどちらを選ぶか妙子が迫る「ようござんすか」の形相が凄まじい。

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白痴という言葉は、一般的に知恵遅れ、バカといった意味でネガティブに使われるが、原作のドストエフスキーは、白痴は善良な人物でありまともであると前向きに捉えている。

 

主な登場人物:

那須妙子(ナスターシャ):原節子

亀田欽司(ムイシュキン公爵) : 森雅之

赤間伝吉(ロゴージン):三船敏郎

大野綾子 (アグラーヤ): 久我美子

大野(エパンチン将軍):志村喬

大野里子(リザヴェータ夫人):東山千栄子

大野範子(アレクサンドラ):文谷千代子

香山睦郎(ガーニャ):千秋実

香山順平(イヴォルギン将軍):高堂国典

香山の母(イヴォルギン夫人):三好栄子

香山孝子(ワーリャ):千石規子

香山薫(コーリャ):井上大助

軽部(レーベジェフ):左卜全

東畑(トーツキイ):柳永二郎

東畑家VIP:岸恵子(ノンクレジット)