
映画「ストレンジャー・ザン・パラダイス」(原題:Stranger Than Paradise、1984)はかつて一度見ているが、Netflixで配信されていたので再見した。監督・脚本はもちろんジム・ジャームッシュで、長編映画第2作で、商業映画としては初の監督作品となった。カンヌ国際映画祭でカメラ・ドールを受賞。ロードムービーとしても傑作。
全編モノクロ。ワンシーン、ワンカット、固定カメラで撮影されたという。ニューヨークを舞台にする「新世界(The New World)」クリーブランドが舞台の「1年後(One Year Later)」フロリダが舞台の「パラダイス(Paradise)」の3部構成。
Wikiによると、ヴィム・ヴェンダースから「ことの次第」の撮影で余った40分ほどのフィルムをプレゼントされ、第一部「The New World」を作る。
フィルムを無駄にしないために入念なリハーサルを行いながら撮影。1983年にロッテルダム国際映画祭で第一部の上映後、ポール・バーテルから資金提供を受けて第二部、第三部が作られた。
出演はハンガリー出身俳優で、孤独感がよく表れていた。

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<ストーリー>
■The New World(新世界)
ハンガリー出身で、今はニューヨークでギャンブラーとして生計を立てているウィリー(ジョン・ルーリー)の元に、クリーブランドに住むロッテおばさん(セシリア・スターク)から電話がかかってくる。
おばさんが入院するため、10日間、ブダペストから来た従妹のエヴァ(エスター・バリント)を預かるよう頼まれてしぶしぶ引き受けた。

両手に荷物を下げながらウィリーの部屋にやって来るエヴァ。風変わりなエヴァと無愛想なウィリーのあいだではなかなか会話がかみ合わない。
そんな中、ウィリーの相棒エディ(リチャード・エドソン)が部屋に遊びに来る。つっけんどんなウィリーと違い、親しみやすい性格のエディ。二人は競馬に出かけるが、エヴァは連れて行ってもらえない。
ある日エヴァが掃除機をかけたいと言うと、ウィリーは「ここでは掃除機をかけるとは言わずワニを窒息させると言う」とジョークを言う。
エヴァは「じゃあ窒息させる」とノリで返す。また別の日にはウィリーの好きなTVディナー(冷凍ワンプレート)やタバコを、お金を使わずに調達してくるエヴァ。
そんな日々を過ごすうちにウィリーとエヴァはお互いが似たような感覚を持っていることがわかり、打ち解けていく。

ある日、ウィリーはエヴァにドレスをプレゼントするが、どうやら彼女の趣味には合わなかった様子。そしてエヴァが部屋を去るクリーブランド行きの日、彼女はそれを着てアパートを出て行くが、路地裏ですぐに脱ぎ捨てる。
そこをエディに目撃されるが、構わず別れを告げて立ち去る。
■One Year Later(1年後)
1年後、エディといかさまポーカーで儲けたウィリーは、共に車で雪に覆われたクリーブランドまでエヴァに会いに行く。
まずロッテおばさんを訪ねると、エヴァはホットドッグ店でアルバイト中だと言う。こっそりホットドッグ店を訪ねるとエヴァは驚き、二人との再会を大いに喜ぶ。
エヴァにはビリー(ダニー・ローゼン)という恋人もいるが、どこかしっくり行っているようには見えない。映画デートの際、ニューヨークからやってきた男二人がついてきて、おまけに映画代も払わされるビリー。

二人の訪問は完全にビリーの不満を買ったようだ。そんなことは気にも止めずウィリーとエディは数日を過ごすが、雪に閉ざされたクリーブランドに退屈し、ニューヨークへ帰ることにする。同時にエヴァも「ここは退屈」と漏らす。
ウィリーとエディがニューヨークに帰る日、エヴァは「競馬で儲けたらわたしをさらいに来て」とジョークを言い、二人を見送る。
■Paradise(パラダイス)
出発したあとウィリーは突如としてフロリダへ行くことを思いつき、エヴァも連れて行くと提案する。
そしてすぐに引き返し、ロッテおばさんの猛烈な反対を押し切って、エヴァを連れてフロリダへ向かう。

バカンスを求めてフロリダにやってきた3人は安モーテルに泊まる。明日は競馬に挑もうとするウィリーにドッグレースを提案するエディ。
翌朝エヴァが目覚めるとウィリーとエディがいない。どうやら二人だけでドッグレースに行ったようだ。
苛立ちを抑えながら待っていると、二人は大損して戻りバカンスどころではなくなる。怒り心頭のウィリー、言い訳するエディ、取り残されたエヴァの仲は険悪になる。
ウィリーは馬ならうまく行くと、今度は競馬に挑む事に決める。ついて行こうとするエヴァを、またもやモーテルに取り残すウィリー。さすがにここで仲違いになり、二人は行ってしまう。

仕方なくエヴァは海岸をうろつくが、そこで麻薬の売人に見間違われ、大金を手渡される。帽子をかぶった女というのが売人にとっての目印で、別の女に間違われたのだった。驚きつつも急いでモーテルに帰り、エヴァは書き置きの用意を始める。
競馬で大儲けに成功したウィリーとエディが意気揚々とモーテルに帰ってくると、そこには「空港へ行く」との書き置きと大量の金が置いてあり、エヴァの姿はなかった。二人は慌てふためく。
急いで空港に向かう二人。空港でウィリーは搭乗券を買い、出発直前の飛行機の中までエヴァを呼び戻しに行こうとする。
空港の外で待っていたエディは、ウィリーを乗せたままブダペストへと飛んで行く飛行機を見送り、呆れながらも車でニューヨークへ帰って行く。
その頃エヴァは飛行機に乗ることなく、ただ独りモーテルに戻って来るのだった。
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サブカルチャー映画と言われる傑作。
白黒映画。数分おきに暗転(ブラックアウト)でつなげるぶつ切りカット映像が特徴。主人公の二人がギャンブラーで競馬好きであり、競馬のレースでは、競走馬の名前が小津安二郎の作品名の「バクシュウ(麦秋)」「トーキョーストーリー(東京物語)」は小津監督へのリスペクト。
ハンガリーと言えば、本作の5年後の1989年5月隣国オーストリアとの鉄条網が開かれ鉄のカーテンが崩壊、同じ年、ベルリンの壁崩壊、共産圏ブロック崩壊に至る出発点になった国だった。
そのハンガリーの冷えきった国がこれから春に向かう微かな兆しを本作は裏側で表現しているのかも知れないというのだが。
登場する主要人物3人はアメリカではハンガリー人など全員が異邦人(ストレンジャー)。アメリカではパラダイスと言われるフロリダに行っても孤独から逃れられなかった。
ウィリーは10年もNYで暮らしており、ハンガリー人であることを捨て忘れようとし、米国人に成りきろうと努力すればするほど孤独。その孤独はクリーブランドの寒々しい氷雪でも表現されている。
結局、エヴァという言い訳(口実)を得てウィリーはハンガリーの首都ブダペストへの直行便に乗り、逃げ帰るのだった。
エヴァもまた結局、米国にいても孤独であることを感じ、ハンガリーに帰ろうとするが、一人では寂し過ぎると悟り、帰国するよりはまだましとモーテルに戻った。
劇中でエヴァが聴くスクリーミン・ジェイ・ホーキンスの掛かる曲は「I Put a Spell on You」(1956年のヒット曲)。
<主な登場人物>
■ウィリー:ジョン・ルーリー…ハンガリー出身でニューヨークに暮らす。
■エヴァ:エスター・バリント…ハンガリーからクリーブランドの叔母を訪ねてやってくる。
■エディ:リチャード・エドソン…ウィリーの遊び仲間の友人。ウィリーがハンガリー人とエヴァがやってきて初めて知る。
■ロッテおばさん:セシリア・スターク…エヴァの叔母。英語をあまり話せないハンガリー人。
■ビリー:ダニー・ローゼン…エヴァの恋人。
■札束を持つ男:ラメルジー…麻薬の売人の仲介をするラッパー。
■空港のスタッフ:トム・ディチロ
■工場労働者:リチャード・ボーズ
■ポーカーの男達:ロケッツ・レッドグレア、ハーヴェイ・パー、ブライアン・J・バーチル…ウィリーの参入で勝ち逃げされいらだつ。
■帽子の女:サラ・ドライヴァー…売人からのお金を受け取る役。
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