
映画「ブルータリスト」(2024)を見る。第97回アカデミー賞では10部門ノミネートされ、主演男優賞(エイドリアン・ブロディ)/撮影賞/作曲賞を受賞した。アメリカ/イギリス/ハンガリー合作。
物語はフィクションだが、ホロコーストをくぐり抜けた後、アメリカンドリームを追うユダヤ人建築家の半生を壮大に描いている。上映時間が215分(インターミッション15分含む)と3時間越えと長いのが難点。睡魔に襲われそうになる。もやもや感が残る映画(※)。
タイトルの「ブルータリスト」は“荒々しい”という意味の「Brutal」と接尾辞の「-ist」を合わせた言葉で、建築様式の「ブルータリズム」が元になっている。
ブルータリズムは1950年代から出現した建築様式で、コンクリートを多用し装飾を排した簡素で大型の建築物がその特徴。
出演は「キング・コング」のエイドリアン・ブロディ、「ビリーブ 未来への大逆転」のフェリシティ・ジョーンズ、「L.A.コンフィデンシャル」「メメント」のガイ・ピアーズなど。
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1940年代、ナチスによるホロコーストを生き延び、移民としてアメリカへ渡ったハンガリー系ユダヤ人建築家のラースロー・トート(エイドリアン・ブロディ)。
妻のエルジェーベト(フェリシティ・ジョーンズ)と姪のジョーフィア(ラフィー・キャシディ)とは離れ離れになっており、ラースローは1人移民船でアメリカに上陸する。
いとこのアッティラ(アレッサンドロ・ニヴォラ)に会うためフィラデルフィアへ向かい、彼からエルジェーベトの生存を伝えられて歓喜するラースロー。
移民船で友人となったゴードン(アイザック・ドゥ・バンコール)とともにアッティラの家に滞在することになり、彼の家具ビジネスを手伝うことになる。
アッティラは建築家であるラースローに依頼者のハリー(ジョー・アルウィン)を紹介。ハリーは実業家ハリソン・ヴァン・ビューレン(ガイ・ピアース)の息子であり、これがラースローとハリソンが出会うきっかけになる。





建築家ラースロー・トートのハンガリーでの輝かしい実績を知ったハリソンは、ラースローの才能を認め、彼の家族の早期アメリカ移住と引き換えに、あらゆる設備を備えた礼拝堂の設計と建築をラースローへ依頼した。
しかし、母国とは文化もルールも異なるアメリカでの設計作業には資金面、人間関係など多くの障害が立ちはだかる。
ラースローが希望を抱いたアメリカンドリームとはうらはらに、彼を待ち受けたのは理想と現実、過去のトラウマ、家族との絆と葛藤など大きな困難と代償が複雑に重なっていくのだった。
ナチスから逃れ、新天地アメリカへ移住したものの、そこは変わらず金と力がものをいい、差別が蔓延る土地だった。ラースローたちが自分たちのアイデンティティを求めた結果、イスラエルという目的地にたどり着いたのは運命だったといえる。
よく言われるような努力次第で誰でも平等に成功できるというアメリカン・ドリームとはかけ離れた人生を送ることになったラースローたち。
特に、自由の国アメリカに根付く差別意識と、世界一の経済大国へと繋がる大量生産や商業主義という壁。
ラースローのパトロンでもあるハリソンや彼の友人たちは、すでに著名な建築家であったラースローやオックスフォードを卒業した彼の妻を、ただホロコーストを生き延びた可哀想なユダヤ人として扱おうとした。
こうした態度からは、移民に寛容とされるアメリカにおける、受け入れる側の無意識的な階級意識が伺える。
劇中上映される古いモノクロ映画は少々過激なシーンがある。
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2002年公開の「戦場のピアニスト」でアカデミー主演男優賞を受賞したエイドリアン・ブロディは当時29歳343日。この受賞記録は、現在でも史上最年少記録である。
「ブルータリスト」でブロディは2度目のアカデミー主演男優賞を受賞。アカデミー賞史上最長となる5分40秒のスピーチを披露し、グリア・ガースン以来82年ぶりにギネス記録を更新したことでも知られる。
最終的には、過去(戦争/トラウマ)をどう抱えながら生きるか、家族との関係、そして“建築”を通して自己表現と贖罪のようなものを試みるドラマとして終わる。
<主な登場人物>
■ラースロー・トート:エイドリアン・ブロディ…ハンガリー系ユダヤ人の建築家。ホロコーストを生き延びた後、アメリカに渡る。自らの理想を建築という形で表現しようとする人物。
■エルジェーベト・トート:フェリシティ・ジョーンズ…ラースローの妻。トートの建築家としてのキャリア/決断と密接に関わる。離ればなれになったり再会したりする。
■ジョーフィア:ラフィー・キャシディ…ラースローの姪。戦争の混乱の中で家族と引き離される。
■ハリソン・ヴァン・ビューレン:ガイ・ピアース…裕福な実業家。ラースローと出会い彼の才能を見込む。依頼主・パトロンとして建築プロジェクトを持ちかけるが、その関係には “支援” と “制約” の両面がある。
■ハリー・ヴァン・ビューレン:ジョー・アルウィン…ハリソンの息子。
■アッティラ:アレッサンドロ・ニヴォラ…ラースロー・トートのいとこ。



(※)映画評論家の町山さんが「この映画は一般向けでなくマニア向け」と語っている。おもしろいかというとそうは言えない、と。
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