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ドラマ「夜の来訪者」(原題:An Inspector Calls、2015、BBC)を見る。極上サスペンス・ミステリー。

ドラマ「夜の来訪者」(原題:An Inspector Calls、2015、BBC)を見る。二転三転するストーリーに心が揺さぶられる、謎が徐々に明らかになっていくサスペンスミステリー

とにかく面白く、セリフの応酬と展開にワクワク、ゾクゾクとさせられる。アガサ・クリスティ原作やヒッチコック映画を彷彿とさせる。ブロンソンの「夜の訪問者」と間違えないで(笑)。原作はイギリスの劇作家 J・B・プリーストリー(1894年~1984年)による舞台劇。何度もこれまでに何度も舞台化、映像化されてきた。監督は「刑事ヴァランダー2 白夜の戦慄」のアシュリング・ウォルシュ

登場する一家の5人(1人は長女の婚約者)の強烈な個性。一言で言えば階級の悲劇といったらいいのか。

英国の階級制度を理解しないとなかなかわかりにくい。舞台となるバーリング家は、一見すると英国の上流階級一家のように見えるが実際には「アッパー・ミドル・クラス」(中流階級)のようだ。

最上位に位置するアッパークラス(上流階級)は貴族のような層のことで、アッパーミドルとの間には超えられない壁がある。

アッパーミドル・クラスまで上り詰めたバーリング家の最後は、どんでん返しがあり地獄が待っているという未来だった。

原作が戯曲ということもあって、ほぼ場面はバーリング家の屋敷の一室だけの会話劇が続くワンシチュエーションドラマ

<さっくりこんな話>
1912年のイギリス。ある夜、バーリング家では長女シーラと、バーリング家とライバル関係にあるクロフト家の息子ジェラルドの婚約を祝う食事会が行なわれていた。

地方出身だが事業で成功した父アーサー、上流階級出身で特権意識の強い母シビル、そして酒飲みで頼りない弟エリックも2人の婚約を祝福していた。

その祝宴中、唐突に、グール警部と名乗る人物が訪れ、3時間ほど前に服毒自殺したエヴァ・スミスという若き女性に関することを聴取に来たことを告げる。

グールという警部は、若き女性が自殺したことを家族に伝えると、家族はそれが我々とどんな関係があるのかと一様に疑念を抱くが、何人かの表情が変化していく。そして、ある一枚の写真を個別に見せられると、心当たりがあって緊張した表情に変わっていく…。

家族の間で、言い争う声が飛び交うが、グール警部は「親子喧嘩は私が帰ってからしてほしい」ときっぱり。

アーサーが息子エリックが刑務所いい気になるかもしれないことから、庇おうとすると、エリックは罪に向き合う態度を示し「刑務所へ行くほうが、ここの家にいるよりはマシだ」とキレ、アルコールを口にする。

果たして運命は…。

・・・
エヴァ・スミスを破滅へと追いやった5人の悔恨の顛末”というのがこの映画のテーマ。エヴァ・スミスというのは登場する主人公の名前だが、これは誰でもがエヴァ・スミスになりうると同時にバーリング家の人々にもなりうる、ということことを象徴している。

・・・

            グール警部(デヴィッド・シューリス

娘シーラの祝賀の席に、突然訪れたグール警部(デヴィッド・シューリス)と名乗る人物から屋敷の主人であるアーサー・バーリング(ケン・ストット)は、この女性に見覚えがないかと女性の写真を見せられた。

 アーサー(ケン・ストット

大勢の従業員を抱えているからとシラを切るアーサーに「覚えているはず」と詰め寄ると、アーサーの工場で二年前におきた賃上げ要求ストライキの際、他の従業員を扇動したという理由で有無を言わせず解雇した女工エヴァソフィー・ランドル)であることを思い出した。

が、アーサーは、その後エヴァがどのような苦しい生き方を強いられたかについては責任はないと突っぱねる。

次に写真を見せられたのは娘シーラ(クロエ・ピリー)。シーラは、ある大手洋品店で自分がドレスを見立てているとき、一人の女店員がクスリと笑ったのを咎め、責任者を呼びつけて「次に私が来た時にこの女店員がいたら、店との関係を無くす」と大袈裟に騒ぎ立てたため、その女店員が解雇されたことを思い出した。女店員はエヴァの別の名前だった。

 シーラ(クロエ・ピリー)

警部の次の質問はシーラの婚約者ジェラルド(カイル・ソラー)に向けられた。ジェラルドには、ある酒場で品性を欠く男に言い寄られて困っている女性の危機を救ったことがきっかけとなって彼女と関係を結んだ記憶があった。それがエヴァだった。

 ジェラルド(カイル・ソラー)

そして、次に質問されたのが母シビル(ミランダ・リチャードソン)。シビルは町の慈善協会幹事として、二週間ほど前、妊娠した女が救いを求めに来たのをすげなく追い返したことを指摘され、警部が見せた写真を見て彼女がエヴァであることを知った。

 シビル(ミランダ・リチャードソン

そのときシビルは、彼女をそんな境遇に落としいれた男に責任を被せるべきだと主張したが、その男がまさか、自分の息子エリック(フィン・コール)だとは知らなかった(あとでわかる)。

 エリック(フィン・コール)

警部の前で、既に自分の罪に苛まれていたエリックは、エヴァと関係を持ったこと全てを白状した。

エヴァに対する一同の非道と罪を暴いた後、グール警部は全員に対し悔い改めるよう求め、断罪すると、バーリング家を去っていった。

 エヴァ(ソフィー・ランドル)

・・・
断罪の内容は、以下のようなものだった。
これだけは覚えておきなさい。一人のエヴァ・スミスは、この世を去った。しかし、何百万人ものエヴァ・スミスとジョン・スミスは、まだ私達と共にいる。彼等の人生・希望・恐れ、幸福と苦しみは、私たちの人生、私たちの発言・思考・行動に、密接に関係していることに想いを致すのです。

私たちは一人で生きているのではない。互いに責任を持っていることに気付きなさい。
そして、もし人間がこの教訓を学ばないのなら、血と炎と苦悩の中でそれを教えられる日が直ぐにでも来ることを、私は貴方がたに告げておく。

・・・
グール警部が去った後、残されたバーリング家では、グール警部に不信を抱いた父親とジェラルドが警察の知り合いに電話をしてみたところ、新しい刑事もグールという名前の警部も、所轄には居ないことが判った。

また、病院に問合せてみたが、その夜に自殺者はいないとのことだった。では、あの警部と名乗る男は一体誰であったのか、自殺したという女の話は何の謎かけだったのか?
一同は、一杯喰わされたと憤慨する。もしかしたら、彼らがそれぞれ関わったエヴァという女性が同一人物ではないのではないか。

写真は夫々が個別に見せられたことからして、自分たちの責任によってエヴァという女性が死んだのではないのかもしれないと安堵し、そのような女性はいないのだとばかり、先ほどまでの罪悪感も忘れて、笑いくつろぎ始めるのだった。

しかし、その時、エヴァはまだ生きていた。命を絶つ前の最後の想いをノートに綴っていた。

そして、グール警部がバーリング家を去ってしばらく経った頃、エヴァは公園で自殺を図り、彼女は自室に、バーリング家の人々やジェラルドとの関係をつづった日記と一枚の写真を残したのだった。

しばらくして、バーリング家に警察から電話がかかり、若い女性が自殺したことと担当警部が調査に訪問することが告げられ、一同が驚愕におののくのだった。

・・・
次のシーン。暗い路地からグールは窓辺のエヴァを見上げていた。しかしエヴァからは無人の路地しか見えていなかった。

彼女が出かけると、留守の部屋に入ったグールは、彼女の日記と写真を手にする。公園についた彼女は消毒薬を飲み干すのだった。

病院に運ばれた彼女の目にグールの姿が映る。彼は亡くなった彼女の手をそっと握るが、看護師が覗いたその部屋には、エヴァの亡骸しかなかった。

警部グールの正体はだれかが気になったが、正体というよりも「各人物が自分の行動とその社会的影響にどう向き合うか」が核心で、警部はその“道徳的裁き”を行う象徴的存在として描かれている。

<主な登場人物>
■アーサー・バーリング:ケン・ストット…成功した実業家、保守的で自信過剰。労働者や社会保障には冷淡。工場でストを起こしたエヴァを首謀者として解雇。
■シビル:ミランダ・リチャードソン…上流階級意識が強く、冷酷で形式主義。慈善活動も選別的。慈善委員会でエヴァの援助を拒否。
■シーラ:クロエ・ピリーバーリング家の長女。ジェラルドと婚約中。明るいが自己中心的な面あり。物語中に最も成長し、罪を認める。働いていた店でエヴァを嫉妬から解雇させた。
■エリック:フィン・コール…シーラの弟。甘やかされ自制心に欠け、酒癖が悪い。良心はあるが弱い。エヴァとの関係で妊娠させ、金銭援助を試みたが会社から盗んだ金だった。
■ジェラルド・クロフト:カイル・ソラー…シーラの婚約者。社会的地位の高い家の出身。表向き紳士的だが自己保身的。一時期エヴァを愛人にし、金を与えたが結局別れた。
■グール警部:デヴィッド・シューリス…表向きはエヴァ・スミスという若い女性の自殺事件を捜査する警部。彼の登場は時間・空間の常識から外れており、事件を知っている以上に未来や全員の行動を見通している。エヴァの残した日記を見て、エヴァを窮地に追い込んだバーリング家を訪問。エヴァに対する罪に向き合えと言い残し去っていく。
エヴァ・スミス:ソフィー・ランドル…貧しい女工だが、正義感が強い。

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