映画「海の沈黙」(2024)を見る。倉本聰が50年間温めていたという脚本・原作による「美とは何か、芸術とは何か」という問いを凝縮した“美の本質”をめぐる作品。
倉本聰が映画の脚本を手掛けるのは「海へ 〜See you〜」(1988)以来、36年ぶりということで期待したが、主人公が刺青師でもあるなど物語を複雑化していて、もう少しシンプルにわかりやすくしたほうがよかったかもしれない。
贋作事件をテーマにしたサスペンスフルな映画で、主人公の本木雅弘が中盤に初めて登場するという意外性があるが、そこから一気に変化する展開が面白くなっていく。
主演の本木雅弘と小泉今日子は1982年にデビューした同期で32年ぶりの共演。主人公の竜次を中心に、芸術・愛・別れ・死が交錯。「真贋」「芸術家の宿命」「見る者の感動」という多層的テーマを寓話的に描いている。
竜次(本木雅弘)がキャンバスに向かって殴り描きする様は迫力があり、出血した血が飛び散り、それが画の上にまき散らされるのだ。
余談ながら「最後から二番目の恋」の中井貴一と小泉今日子が並んで歩くシーンもあり「二番目」を思い出してしまう(笑)。
<ストーリー>
世界的に著名な画家、田村修三(石坂浩二)の展覧会で贋作(がんさく)が発覚する。田村本人にしか見抜けないほどの美を持つその作品が贋作だとは…。
大臣が招かれてスピーチをしたり、各方面に案内を出しているので、主催者は、田村に展覧会がが終わるまでは、事実は伏せて欲しいと願い出るが、本人は、贋作をそのまま展示できないと突っぱねる。
新聞では、大きく贋作が報道され、世間に公表されたとたん、逆にこの作品に魅せられ、これを市の予算で購入した村岡(萩原聖人)は追い詰められていき、その後自殺してしまう。
その頃、北海道で女の死体が発見される。その女のからだには、美しい刺青がまるでカタログのように全身に入れられていた。
この二つの事件の捜査上に、かつて新進気鋭の天才画家と呼ばれながら、人々の前から姿を消した津山竜次(本木雅弘)が浮かび上がる。田村の妻、安奈(小泉今日子)はかつて竜次の恋人だった。
贋作画家として追われる身である竜次に30年来仕えている番頭のスイケン(中井貴一)は、安奈に竜次の病状を知らせ、安奈は北海道へと向かう。
・・・
「海の沈黙」というのは竜次が描いた絵のタイトル。この作品はどうなったのか、もう一度見たいという安奈など関係者たちには、海に流し残っていないというのだが、実は…という仰天するような形になっていた!
(ネタバレ:竜次はキャンパスなどの基底材を購入するお金がなく「海の沈黙」の画の上に、著名な画家が回顧展で目玉としている作品「落日」の改良版を描いていたのだった!)。
贋作かどうかは関係なく、いいものはいいというスタンスだった。実際に、田村修三は、自分が描いた画よりもよくなっていることを認めている。
<主な登場人物>
■津山竜次:本木雅弘…かつて天才新進画家と呼ばれたが姿を消し、現在は贋作師かつ刺青師。末期の肺がんに侵されながら最後の作品を描く。
■田村安奈:小泉今日子…竜次のかつての恋人。現在は世界的画家・田村修三の妻。北海道で竜次と再会し彼の最期を見守る。
■田村修三:石坂浩二…世界的著名な画家。自身の回顧展で贋作が発覚し、混乱に巻き込まれる。
■薄井健司(スイケン):中井貴一…竜次に仕える影の番頭。資金や世間との交渉を担当し、彼の創作を30年間支え続ける。
■清家:仲村トオル…元中央美術館の館長。贋作事件を追い本作の“真贋”問題に関与する。
■村岡:萩原聖人…地方美術館の館長。贋作購入後、自身の選択に苦しみ、自殺する。
■牡丹:清水美砂…北海道で刺青を施された遺体として発見。本作の象徴的存在。
■あざみ:菅野恵…「マロース」のバーテンダー。竜次に魅せられた女性。刺青を受け、作品の一部となる。
■杉田勝:田中健…「落日」を所有していた画商。
■半沢院長:村田雄浩…津山竜次の担当医。竜次に余命2ヶ月、持って半年と宣告する。
■桐谷大臣・佐野史郎…文部科学大臣。有名画家の個展でスピーチする。
■店のママ:三船美佳
■占い師:津嘉山正種…田村安奈を占う場面で、過去に男の影があると指摘。
<スタッフ>
脚本:倉本聰
監督:若松節朗
プロデューサー:佐藤龍春
音楽:住友紀人
絵画協力:高田啓介
撮影:蔦井孝洋
照明:緑川雅範
録音:鶴巻仁
美術:瀬下幸治
編集:新井孝夫
配給・宣伝:ハピネットファントム・スタジオ
製作会社:イン・ナップ
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