映画「悪い夏」(2025)を見る。生活保護制度が不正受給、貧困ビジネスなどにより正当な利用者がもがき、制度そのものが崩壊しかねない現状を描くヒューマン・サスペンス・ドラマ。監督は城定秀夫、脚本は「ある男」の向井康介。原作は2017年に発売された染井為人の「悪い夏」(第37回横溝正史ミステリ大賞優秀賞)。
シリアスなテーマの群像劇だが最後に関係者全員が一堂に会して乱闘劇の修羅場になるのは滑稽でもあり痛烈な風刺コメディとなっている。
俳優陣が演技達者が集結といった印象。まずは河合優実。情緒不安の表情や自分を見失った行動。伊藤万理華は、正義感の塊の職員。ところが隠された過去が明かされてからの、それまでの知的雰囲気をかなぐり捨てた「女」の迫真の演技(笑)。
手が付けられないチンピラヤクザの窪田正孝や、竹原ピストルのクズ男ぶりも堂に入っている。主演の北村匠海に至っては、まじめ100%だが、頼りなさそうな風貌が、ある時から「やってられるか」と豹変してからの形相は病的なまでの迫真さが迫る。
<ストーリー>
市役所の生活福祉課に勤める公務員・佐々木守(北村匠海)は、同僚の宮田有子(伊藤万理華)から「先輩の高野洋司(毎熊克哉)が生活保護受給者にセクハラをしている」という相談を受け、真相を確かめ始める。
そこで出会うのは、シングルマザーの林野愛美(河合優実)。愛美は高野との関係を否定するが、実は裏社会で暗躍する金本龍也(窪田正孝)らとつながりがあり…。
・・・
生活保護制度を悪用し「不正受給→搾取→貧困ビジネス」の連鎖が描かれている。たとえば山田吉男(竹原ピストル)は、ヤクザと共謀して不正に保護を受け、金本らが仲介して利益を得ている。
主人公の佐々木は、公務員として、ケースワーカーとして“正義”を貫こうとするが、予告編でもあったが「愛美との出会いが地獄への始まりだった」というように、愛美の関係と裏社会による脅迫により、次第に自らも負の連鎖に巻き込まれ、闇落ちしていく、その豹変ぶりがすさまじい。
まじめで正義感の強い佐々木が、ある母親と娘が生活保護申請に来た時の、それまでの対応と180度異なる形相で怒鳴り散らすシーンはすさまじい。
ヤクザの金本(窪田正孝)が「”ナマポ”をもらえたのは私のおかげだよね」と山田(竹原ピストル)を脅し、完全に支配下に置くのだ。ナマポは生活保護を指す言葉。
山田の不正受給をただす佐々木に、山田が「いつまでそうやって強気でいられるかなぁ」というと佐々木は「どういう意味ですか」と訝(いぶ)かるが、のちの伏線になっている。
豪雨の中での暴力的な乱闘、各々が追い詰められるが、その中でも、佐々木・愛美・愛美の子供たちにかすかな救いの兆しがあり、救いと余韻が残されていた。
<主な登場人物>
■佐々木守:北村匠海…気弱で真面目な市役所職員。正義感から調査を始めるが、愛美に惹かれ、やがて闇落ちする。
■林野愛美:河合優実…育児放棄寸前のシングルマザー。不安定な生活から脱しようとするも、金本らの縄張りに巻き込まれる。佐々木に惹かれるが。
■金本龍也:窪田正孝…裏社会の黒幕。愛美、山田、佐々木らを巧みに利用して、自分たちのビジネス(貧困ビジネス、風俗店など)を拡大する。
■宮田有子:伊藤万理華…佐々木の同僚。強い正義感から調査を主導し、佐々木を巻き込む。高野との関係が終盤で明らかに。
■高野洋司:毎熊克哉…佐々木の先輩。立場を利用し生活保護受給者の弱みにつけ込みセクハラ行為をし、宮田の調査対象となる。
■梨華(りか):箭内夢菜…愛美の悪友。高野を通じ金本の縄張りに加担し、事件の関係を複雑にする。
■山田吉男:竹原ピストル…生活保護の不正受給者で薬物販売にも関わる。金本グループに属し、貧困ビジネスの一端を担う。
■古川佳澄:木南晴夏…夫に先立たれたシングルマザー。万引き依存に陥り、パートはクビにされ、家の電気も止められる。生活保護申請にいくが、窓口で説教され追い返されて、自殺未遂を図る。
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