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映画「東京湾炎上」(1975)を見る。タンカーをシージャックするパニックムービー。

     

東京湾炎上」(1975)を見る。1970年代以降流行ったパニック映画の1本。監督は「喜劇 三億円大作戦」「父ちゃんのポーが聞える」の石田勝心

石油を満載したタンカーをシージャックしたテロリストやその脅威にさらされた乗組員たちの人間模様と、事態を秘密裏に解決するために情報操作を行う政府関係者を描いたパニック映画。

1970年代半ばは「日本沈没」(1973)や「ノストラダムスの大予言」(1974)などのパニック映画が流行していた。そのうえ、前年に発生した第十雄洋丸事件などの石油タンカー爆発事故が相次いでいたため、これらに影響を受けて製作されたのが原作が田中光二の「爆発の臨界」。主題歌は「あなたは旅人」(歌:橋本葉子)。

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20万トン級タンカー「アラビアン・ライト」は航海を終え、31名の乗組員を乗せて日本へ戻ろうとしていた。石油技師の館次郎(藤岡弘)にとっては2年ぶり、他の乗組員にとっては半年ぶりの帰国となる。

館は初山船医(金井大)や寺田司厨長(しちゅうちょう、下川辰平)たちとメスルームで話した後、伊豆の風景を見るためにブリッジヘ行くことにした。彼は途中で五十嵐無線局長(久野四郎)や宗方船長(丹波哲郎)と会話を交わす。

館は宗方船長に「いよいよ海から降りられますね。陸にあがると重役とか専務とか呼ばなきゃきけませんね」というと、宗方船長は「キャプテンでいいよ。どうも俺はデスクワークにはむかん。次はオンボロ貨物船の船長だ」

ブリッジに辿り着いた館は伊豆を眺めながら、江原一等航海士(北村総一朗)に思い出を語る。江原は館が日本に恋人の未知子を置いて来たことを知っており「一番大切な山を見つけておきながら、そいつに気が付いていないようだな」と告げる。

すると館は「今度は、それを確かめに戻ったんです」と述べた。館は未知子(金沢碧)から「常に手の届く所にいてほしい」と求められた時のことを回想する。

遭難信号が打ち上げられ、6人の男たちを乗せた救命ボートが近付いて来るのを江原は発見した。江原の連絡を受けた宗方は、エンジンを停めて6人を救助するよう指示した。

しかし双眼鏡を覗いた宗方は、男たちが銃を隠し持っていることに気付いた。彼は慌てて「縄梯子を外せ」と叫ぶが、男たちは銃を構えて乗組員を脅した。

五十嵐は第三管区海上保安本部にメイデーの通信を送った。男たちは乗組員を制圧して伏せさせ、船に爆雷を仕掛けてからエンジンをスタートさせた。

一味のリーダーであるシンバ(ケイ・アモア)は、東京湾へ向かうよう宗方に命じた。その時、新聞記者の岩動達也(渡辺文雄)を乗せた取材ヘリが接近した。

特ダネを掴むことに意欲を燃やす岩動は、アラビアン・ライトの写真を撮影する。しかし民間飛行禁止エリアを飛んでいたため、自衛隊機の警告を受けたヘリは飛び去った。

シンバは宗方に対し「日本政府にメッセージを送る。船や飛行機を近付けるな。日本の港のどこかにいる船に爆雷をセットした。無事に東京湾へ入れば、港と船の名前を教える。断ればタンカーは爆破する」という。

テロ集団は、日本人のムンク水谷豊)を介してタンカーの原油タンクに時限爆弾を仕掛け、喜山CTSを爆破したうえで、その様子をテレビ中継しなければ、東京湾の中央に停泊させたアラビアンライト号を爆破すると要求するのだった。

はたして日本政府の対応は…?

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冒頭、「東京湾炎上」というタイトルが大きく表示された後、オープニング・クレジットと共に橋本葉子が歌う主題歌「あなたは旅人」が流れる。

ムード歌謡映画を思わせるような始まりで場違いのようなタイトル。タイトルにも偽りありで、結局、東京湾は炎上しなかった(ネタバレ)。

メロドラマ風の始まりだが、歌詞は主人公・館次郎(藤岡弘)の恋人・未知子(金沢碧)の心情を歌い上げているが、2人の映像は過去のフラッシュバックが数分描かれるだけで、あとは、ほぼタンカー内の描写。女性キャラは完全に付け足しのようで不要に思える。

今から振り返ると体裁は「ジャガーノート」(1974)と「カプリコン・1」(1974)を足して2で割ったような作品だったが、シージャッカーたちのゆるゆるさも目立った。

ジャガーノート」は豪華客船に爆弾を仕掛けたという話。「カプリコン・1」は、宇宙飛行を別撮りカメラで偽装する話。片言の変な日本語を話すゲリラたちと、その仲間に日本人が一人という設定の不可思議。

丹波哲郎のこの頃(1975年)の映画出演数は半端なく多い。前年の1974年には「砂の器」「直撃地獄拳 大逆転」「ノストラダムスの大予言」などが公開され、1975年には「少林寺拳法」「新幹線大爆破」「暴力金脈」「神戸国際ギャング」「水滸伝 杭州城決戦」などが相次ぎ公開された。同時にテレビでは「Gメン'75」がスタートし、第1話(1975年5月24日)から第355話(1982年4月3日)まで続く活躍を見せている。

日本人のテロリストを誰が演じているのかわからなかったが、水谷豊だった。水谷豊は脚本を読んで予定の役柄とは逆の立場のテロリスト役を志願したという。日本人が、大義のために同胞の日本人を追いつめる役を演じた。水谷豊は、翌1976年の「青春の殺人者」でキネマ旬報主演男優賞を最年少(24歳)で受賞した。

<主な登場人物>
■宗方:丹波哲郎…大型石油タンカー「アラビアンライト号」の船長。
■館次郎:藤岡弘…地質学者。恋人・未知子を残し中近東など長期滞在が多い。
■小佐井:宍戸錠…「アラビアンライト号」の機関長。
■未知子:金沢碧…恋人・舘が長期にわたり海外にいることが不満。
■西沢:内田良平…「アラビアンライト号」の甲板長。
■岩動達也:渡辺文雄…新聞記者。
■葛城対策本部長:鈴木瑞穂…テロ対策本部長。対テログループの日本政府の代表窓口。
■深見久:佐藤慶
■江原:北村総一朗…一等航海士。
■井上:潮哲也…三等航海士。
■片岡:富川澈夫…「アラビアンライト号」の機関士。
■五十嵐:久野四郎…無線局長。
■初山:金井大…船医。
■寺田:下川辰平…司厨長(しちゅうちょう)。
■担当官:加藤和
■若林進:佐竹明夫…特撮監督。
防衛庁長官:入江正徳
■有島:高杉哲平…海上保安庁長官
ムンク:水谷豊…ゲリラ(テログループ)の唯一の日本人。
■キファ…:ケン・サンダース…ゲリラのメンバー。両親を戦争で日本人に殺され、日本人を憎んでいる。
■シンバ:ケイ・アモア…ゲリラのリーダー。先進国と途上国(自身のアフリカ)の格差を訴え、テロ行動を起こす。
■ザンバ:ウイリー・ドーシー…ゲリラ・メンバー。
■テンボ:マスド・ラシド・ローン…ゲリラ・メンバー。
■ムボゴ:イクバル・ハニフ…ゲリラ・メンバー。

<スタッフ>
製作:田中友幸、田中収
監督:石田勝心
特技監督中野昭慶
原作:田中光二「爆発の臨界」(1974年、祥伝社
脚本:大野靖子舛田利雄

 

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