「スオミの話をしよう」(2024)は脚本・監督 三谷幸喜の5年ぶりの最新作で「記憶にございません!」(2019)に続く9本目にあたる作品。MOVIXさいたまにて鑑賞。
サスペンスコメディで、人によって印象が変わる女性“スオミ”を中心とした「三谷ワールド」が展開される。撮影後の編集期間が1年近くあったといい、最近番宣で「最高に面白い作品ができた」と語っていた三谷監督。
導入部が、身代金の入ったバッグなどが登場する黒澤明の名作と同じ設定ではないかと思ったら、もともとその映画から着想、ヒントを得たということで納得。
ある日、大富豪の妻・スオミが突然姿を消す。彼女の失踪を知り、スオミを愛した年齢も職業も異なる個性的な5人の男性たちが、夫の住む大豪邸に集まる。彼らはそれぞれスオミについて語っていくが、浮かび上がる彼女のイメージは見た目も性格も異なっていて…というのが映画パンフなどの宣伝文句。
それはともかく、タイトルのスオミという名前が聞きなれない名前だなと思ったら、その意味も分かってくる。脚本がよく練られているので、細部の伏線などを確認するため、配信になったら再見したい。
脚本と監督の三谷幸喜と主演の長澤まさみが映画で初のタッグ。共演は西島秀俊、松坂桃李、遠藤憲一、小林隆、坂東彌十郎ら豪華キャスト陣(ということだが、前作「記憶に~」は及ばず)。
役者陣では、遠藤憲一が笑撃で、ほかの共演者も演技の見せ所を堪能させられるが、5人+αの演技を足したすべてをも上回るカメレオンぶりを見せる長澤まさみには脱帽する。
チャイナドレスで中国人になり切り中国語を駆使し、あるときは清楚でお嬢様言葉を使い、三つ編み姿になるとヤンキー言葉にもなる長澤まさみの七変化。「まさみの話をしよう」というタイトルでもいいほど。
三谷作品9本すべて見たが、旬の(監督)お気に入り女優をクローズアップさせることに集中しているように思える。日本版ウディ・アレンじゃないか(笑)。鈴木京香、深津絵里、綾瀬はるか、竹内結子、そして長澤まさみ!
「トロフィーワイフ」という言葉があるそうで、女性と結婚している男性は社会的に成功しており、妻とは年齢が離れていて年上であることが多い。2番目の夫・十勝が現在の5番目の夫・寒川のスオミの扱いを評して語っている。高級な服やジュエリーを与えながら、自由を与えていないというのだ。
「トロフィーワイフ」とは、男性が自分のステータスシンボルとして容姿の良い女性を妻にすることを指す単語。
ほぼ大邸宅内のワン・シチュエーション映画で、舞台劇と言ってもいいほど。夫を5人も次々に変え、その5人が一堂に会して「家族ゲーム」のように1~5番まで順に並ぶというのもあり得ないが笑わせる。
5人並ぶと「おっさん」「二枚目」「おっさん」「二枚目」「おっさん」の順だという(2番目の夫・十勝(松坂桃李)のセリフ…確かに。笑)
ラストにかつてのMGMミュージカル風のミュージカルシーンがあり「ヘルシンキ」(フィンランドの首都)をアピールするとともに、5人の夫たちへの思いも明かされる。「コンフィデンスマンJP」などでコメディエンヌとしてもトップ女優に躍り出た長澤まさみだが、歌って踊るミュージカルでも、いかんなくその魅力を発揮している。
<主な登場人物>
■スオミ/時恵:長澤まさみ…???生まれはフィンランド?
■1番目の夫・魚山大吉:遠藤憲一…体育教師時代に中学生であるスオミに惚れこみ、成人するのを待って結婚。中学生という年齢は年長者からコントロールされやすい年頃。ツンデレが好み。スオミはそれに合わせてツンデレな人格を演じていた。
■2番目の夫・十勝左衛門:松坂桃李…自信満々な性格。情報商材やマルチ商法を行なって検挙された経験を持つ怪しげなYouTuber。風貌は成金趣味。スオミは強い女性像を演じていた。
■3番目の夫:宇賀神守:小林隆…警察官。スオミと宇賀神の間の言葉の壁。スオミは十勝のアドバイスで逮捕されたときに咄嗟に上海出身の中国人のふりをしたため、宇賀神に対してずっと中国語で話していた。宇賀神は中国語で話す妻に対してとりあえずイエスと言い物を買い与えていた。そのため、スオミが何を考えていたかはほとんど理解していなかった。
■4番目の夫:草野圭吾:西島秀俊…警察官。スオミを直接的にコントロールしようとしており、モラハラ夫と言える。バスタブなどの購入ではスオミの希望を無視して、自分の好みを優先。スオミは貞淑な女性を演じる。
■5番目の夫:寒川しずお:坂東彌十郎…身勝手な芸術家。スオミは車の運転が上手で息子のお弁当を作ってくれていた女性だった。スオミは寒川の息子の学校で役員も務めてくれるなど良妻賢母だった。
■島袋薊(あざみ):宮澤エマ…スオミの同級生で親友。スオミとともに、5人の夫とは仕事などを通じて関わっていた。神出鬼没。ある計画を持っている。
■小磯杜夫:瀬戸康史…新人警察官。草野の部下。好奇心は旺盛。6番目の夫候補?
■高級レストランの給仕:梶原善…客を選ぶような物腰を感じさせる。
■乙骨直虎:戸塚純貴…出版社の編集者で寒川を担当。
■阿南健治…雑誌取材のインタビューアー。
三谷監督の興行収入ランキング。「スオミ~」は目標30億円という(興収20億円が損益分岐点とされる)が、いくかどうか。
1位 「THE 有頂天ホテル」(3作品目)興行収入60.8億円
2位 「ステキな金縛り」(5作品目)興行収入 42.8億円
3位 「ザ・マジックアワー」(4作品目)興行収入39.2億円
4位 「記憶にございません!」(8作品目)興行収入 36.4億円
5位 「清須会議」 (6作品目)興行収入 29.6億円
「スオミの話をしよう」は、9月13日より全国でロードショー。
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