「マルコム&マリー」(原題:Malcolm & Marie、2021)は、コロナ禍の制約を逆手に取った意欲作と言われ、登場するのは役者がふたりだけ。舞台も主人公の邸宅の中だけというワンシチュエーション。一見の価値ありの映画。
二人の会話だけで物語が進行。危機に陥ったカップルの一夜をスタイリッシュにモノクロ映像(35mmフィルム/モノクロ撮影)で映し出している。
出演は「ブラック・クランズマン」「TENET テネット」と話題作が続くジョン・デヴィッド・ワシントンと「スパイダーマン」シリーズ、「グレイテスト・ショーマン」のゼンデイヤによるふたり芝居。
ジョンは、名前の通り名優デンゼル・ワシントンの息子だが、もう「デンゼルの息子」とは言わせないというほどの迫力ある演技を見せている。
監督・脚本は、TVシリーズ「EUPHORIA/ユーフォリア」の原案・脚本で近年注目を集めているサム・レヴィンソン。製作:Netflix
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新作映画のプレミア上映会が成功した後「最高の日だ」と上機嫌のマルコム(ジョン・デヴィッド・ワシントン)と元女優マリー(ゼンデイヤ)は、帰宅後に、互いの恋人としての関係と映画内容のプロットについて一晩中喧嘩をすることになる。
マリーが気にしていたのは、レッドカーペットで映画監督としてのマルコムのスピーチの中で、エージェント、製作者その他関係者に感謝の言葉があったが、マリーの名前が漏れていたことも不満のひとつだった。
主役のイマーニュをテイラーという女優が演じたことも、マリーには不満で、自分の分身は自身が最もよく知っていて、演じられるというのだ。「私がいなくても、名作になったか」と聞くと、マルコムは「ノー」と応えた。
また、マリーは信念からして、マルコムがスパイク・リーと異なるのは、マルコムが家族がみな裕福で、観客は(マルコムが)”凡人”だというのも引っ掛かっていたのだ。
そうした不満をぶつける怒鳴り声や、マルコムの迫真の長々としたセリフなどが真に迫っていた。
口論、言い合いの中身は、ロサンゼルス(LA)タイムズ紙の女性記者が、マルコムのデビュー作映画について、スパイク・リーになれると高評価が出たので、二人は完全に仲直りした様に思えたが、マリーは最後の質問をする。
その質問は観客も映画が始まった時から思っていたのと同じ疑問だった。
「映画の中の主人公のイマーニュにどう息を吹きかけたのか。イマーニュの歩き方などは、私(マリー)がヒントになったのか。私を支えてきた理由というのは(映画の)題材として利用したのか」といったものだった。
マルコムの返事は「それは元カノのジェスでブルックリンの思い出がある」といったもの。
LAタイムズ記者のスパイク・リーになれる発言に対して、マルコムはワイラーはどうかと返す。すると記者は「ワイラーも黒人ですか」ときた(笑)。
「(ウイリアム)ワイラーは「我等の生涯の最良の年」「ベン・ハー」「ローマの休日」の監督だ」と説明する。記者は失言に恥じるのだった。
これらはマルコムがマリーに話す会話の中で語られるので、記者などは画面には一切登場しない。
物語の最初は、マリーが単に拗(す)ねているだけかと思ったら、実はもっと深いところにつながっていて、ますます不穏な空気になる。
二人の会話は、それぞれの過去、それぞれが抱える問題、ふたりの関係性がはらんでいる問題をあぶり出していくことになるのだった。
劇中の音楽も効果的に使われている。
<登場人物>
■マルコム:ジョン・デヴィッド・ワシントン…新進気鋭の映画監督・脚本家。
■マリー:ゼンデイヤ…元女優。マルコムの恋人。
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