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映画「怪物」(2023)を見る。カンヌ国際映画祭「脚本賞」受賞。

      

怪物」(2023)を見る(TOHOシネマズ日比谷スクリーン1)。監督は是枝裕和監督。脚本は「花束みたいな恋をした」の坂元裕二で、カンヌ国際映画祭脚本賞を受賞した。

映画祭の上映終了後、9分間、スタンディング・オベーションがあったという。音楽は坂本龍一で、3月に亡くなったことから、映画の最後に「坂本龍一に捧ぐ」という字幕があった。

映画の予告編の「怪物、だーれだ」といった宣伝があったなという程度で予備知識なしで見た。映画を見て、あまりにも内容が深いのか、咀嚼(そしゃく)しきれずに呆然とした気分になった。

余韻が残る映画で、迷路に入り込んでしまったようなサスペンスもあった。生徒同士のいじめ、学校側の争点ずらしや隠ぺい、父兄側の学校でのいじめの実態の対応を求める声など様々が描かれる。

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ストーリー:

シングルマザーの早織(安藤サクラ)は、息子の湊(みなと、黒川想矢)と大きな湖のある町に暮らしている。ある夜、ベランダを眺めていると、それほど遠くない建物で火災が発生している光景が見える。湊とともに燃える家屋を眺める早織。

湊は同級生の依里(より、柊木陽太)と仲が良く、子供たちは自然の中で穏やかな日常を過ごしていたが、ある日学校で喧嘩が起きる。双方の言い分は食い違い、大人やメディアを巻きこむ騒動に発展していき…。 

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物語は、学校のイジメやシングルマザー、シングルファーザーの家庭、学校という組織、そうした環境下で抑圧された子供、SNSで飛び交う流言、そしてLGBTQと言った現代的なテーマを複合的に描いている。

冒頭から、学校、教師がみなクズ…といった描写が続き、辟易とさせられる。そんな中、生徒のいじめに対して学校に状況を聞きに行ったシングルマザーの追及はすさまじいが、学校側は暖簾(のれん)に腕押し状態。

映画ははっきりと何部構成とは示していないが、ざっと三つのパートに分かれているようだ。

パート1は、湊(みなと)の母親・早織の視点。
パート2は、教師・保利の視点。
パート3は、こども(湊と依里)の視点。

そして、それぞれの視点で、同じ時間軸の話が繰り返される。同じ時間軸の物語を、別々の登場人物の視点で繰り返して描くことで、前のパートで疑問だった部分がフォローされて理解されるという手法。

これは「羅生門」スタイルと言われる。女と武士と百姓の言い分が異なり、真実は…というもの。一つだけの情報で判断すると、真実を見誤るということ。

子供を媒介として教師側、父兄側、それぞれの立場があり、教師側は、学校内のいざこざ(いじめなど)は、大事(おおごと)にしたくはなく隠ぺいしたいと動く。

一方、学校でのいじめが、親たちに伝わると、突き上げを食うことになり、できるだけ避けたいと思うのだ。

 

さらに学校側は、父兄側の中には、なにかと意見、苦情をを言うモンスター父兄がいるとみている。早織の苦情もそんなものと受け止める。ただ、学校が何より恐れるのは、そうした問題が教育委員会で取り上げられることだ。

子供が普通に学校に通っている中で、学校に通わせる親、通う子供にもリスクがあることを感じさせる映画だった。教師は教師で、子供同士のけんかなどを見て、対応に苦慮することもあることも描かれていた。

タイトルの「怪物」は〇〇だ、という結論はなく、誰でも「怪物になり得る」というもののようだ。ひどい教師だな、ひどい校長だなと最初は思わされるが、その背景、隠れていた事情を見ていくと、それほど悪い奴でもないと思わせるのだ。

演技陣が見どころ。校長を演じる田中裕子は、感情のかけらもない人物として登場。生徒の母親の訴えに対して、マニュアル通りの紋切り型の回答を繰り返すだけで、訴えるシングルマザーから「眼が死んでいる。私が話しているのは人間か」と畳みかけられるが、驚きもしないのだ。

田中裕子のこの押し殺したような表情は、かつての「北斎漫画」「天城越え」などの同じ女優とは思えないインパクトがある。

なんと言っても安藤サクラが圧巻。学校教師が校長以下、数人並んで型通りの謝罪で頭を下げるが、はぐらかすような返答に怒り狂う表情がすごい。

アイロンがけなども丁寧にしわを伸ばすなどまっすぐな性格で、子供の味方。子供に違和感を覚え、だんだんとモンスターになっていく。

永山瑛太は、怪しい雰囲気で登場。生い立ちが過保護だったのか、甘やかされて来たのか、謝ることに抵抗を示す。不敵な笑みを見せることもある。いい加減な教師かと思ったら、案外生徒の味方だったが…。

生徒役の黒川想矢、柊木陽太は、いずれも迫真の演技だった。是枝監督は、子役たちの自然体の演技を引き出すのが得意のようだ。

この映画で描かれているもう一つのストーリーについては触れないでおく。

結局、怪物探しというよりも、怪物がいるかもしれないという恐怖の心理自体を描いたのかもしれない。豚の脳みそ、逆さ文字の意味…。

学校、生徒というのは「無垢で好奇心の無知集団」が集まった小さな社会かもしれない。そうした狭い社会から飛び出して自分たちの世界、秘密基地のようなところへ行こうとするのは子供の本能かもしれない。湊と依里が秘密基地から出てくるところを、湊の母が発見してしまい…。

よりよく理解するには、2回くらい見ないとわからない類の映画かもしれない。

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【主な登場人物】
麦野早織(安藤サクラ):湊(みなと)の母親。シングルマザー。
保利道敏(永山瑛太):湊と依里(より)の担任教師。
麦野湊(黒川想矢):小学5年生。早織の息子。
星川依里(柊木陽太):小学5年生。清高(中村獅童)の息子。
伏見真木子(田中裕子):湊と依里が通う小学校の校長。最近、夫が自宅の駐車場で孫を轢いてしまったため孫を亡くしている。
正田文昭(角田晃広):湊と依里が通う小学校の教頭。
品川(黒田大輔):学年主任。校長にバインダーを見せ早織への謝罪に参加。
神崎(森岡龍):湊が2年生のときの担任の先生。
八島万里子(北浦愛):保利先生よりも年下の同僚。
鈴村広奈(高畑充希):保利(永山瑛太)の恋人。
星川清高(中村獅童):依里の父親で、シングルファーザー。
ミスカズオ(ぺえ):女装タレント。
伏見の夫(中村シユン):校長・伏見の夫。孫を轢いた罪で拘置所にいる。

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