「パリタクシー」(原題:Une belle course、2023)を角川シネマ有楽町(読売会館8F)で見る。終活に向かうマダムを乗せたタクシー運転手が、彼女の人生をめぐるパリ横断の旅に巻き込まれていく姿を描いたヒューマンドラマ。
原題は「ある美しき旅路」という意味で、92歳の老婦人マドレーヌが、自宅を売って老人ホームに入居するために乗ったタクシーで、自分に縁のあるパリの色々な場所を横断するという最期の「旅路」に、92年間の波乱万丈の生涯の「旅路」を重ね合わせた物語ということになる。
パリのタクシー運転手と過去を振り返る締めくくりの旅を送る92歳の老婦人の交流と友情を描き、現在と老婦人の70年前の壮絶な人生の2つの時代が交互に描かれる。
そして、感動的なラストが待っている。終活に入る旅で人生を語る老婦人マドレーヌを演じたのは、94歳のリーヌ・ルノー。フランスでは偉大な歌手の一人だという。
この女優がすばらしい。共演は「ヒューマニティ通り8番地」などに携わってきたコメディアンのダニー・ブーンがぶっきらぼうな運転手を演じる。
エッフェル塔、シャンゼリゼ通り、ノートルダム寺院、凱旋門、パルマンティエ大通り――。美しいパリの街の景色は見どころの一つ。
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パリでタクシー運転手をしているシャルル(ダニー・ブーン)は、金もなければ休暇もなく、免許停止寸前という人生がけっぷちの状態にあった。
リース契約した黒のルノーで1日12時間、週に6日、1年で地球3周分の距離を走る。看護士の妻と共働きだが生活は苦しい。友人や歯科医の兄への借金返済も滞っている。
おまけに交通違反続きで残り2ポイント、何かやらかしたら即免停だ。苛立ちは募るばかり。
そんな時、パリの反対側まで走る依頼が舞い込む。指定の場所でクラクションを鳴らすと、背後から「近所迷惑よ」と声がする。
依頼主のマドレーヌ(リーヌ・ルノー)だ。ゆったりと車に乗り込むと「私は92歳。長年住んだ家を離れて介護施設に転居する」と告げる。
パリ郊外のブリ=シュル=マルヌから施設があるクルブヴォワへ、直線距離で約20キロのドライブが始まる。
引越のいきさつを話し始めた彼女は「ちょっと寄り道して」と言い出す。まわり道になると応じた運転手に「長い人生の10分だけ」だと優雅に微笑む。
マドレーヌが寄り道して訪れるのは思い出が詰まった場所だった。道草は自分が生きた軌跡を辿る旅だった。タクシー運転手は、マドレーヌと行動を共にするうちに、イライラもなくなっていき、笑顔も出てくるのだった。
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マドレーヌの言葉では「ひとつの怒りでひとつ老い、ひとつの笑顔でひとつ若返る」という言葉が印象的。
マドレーヌが若い時に夫から受けた暴力などに対して取った行動は壮絶なもので、当時は女性の社会的な地位も今ほど認められていなかったことから、裁判で正当防衛が認められず服役することになる。
介護施設にタクシーで送り届けたときに、マドレーヌが「タクシー料金をまだ払っていない」というと、シャルルは、今度訪ねてきたときに受け取ると言い残し、帰宅する。
シャルルは、妻にもマドレーヌに会ってもらいたいと、後日二人で介護施設を訪れると、昨日マドレーヌは亡くなったという。号泣するシャルル。
施設からでてくると、公証人からシャルル宛に手紙が渡された。そこに書いてあったのは…。