「江分利満氏の優雅な生活」(1963) を見る。直木賞を受賞した山口瞳の同名小説を、井手俊郎が脚色し、岡本喜八が監督。アニメや特撮などの映像表現を盛り込みながら、高度成長期の世相と戦中派サラリーマンのボヤキを映像化している。
酒好きの主人公のサラリーマン・江分利(えぶり)氏を演じる小林桂樹の一人舞台といってもいいような嘆き節とグダグダ話全開の映画だ。
父親(東野栄次郎)が戦争などで財を築くが、金遣いが荒く、ギャンブル好きで、事業に失敗するなどで多額の借金を背負う。生活の浮き沈みの中で、自身の生活ぶりを書いて直木賞を受賞するという、原作者の自伝的な映画でもある。
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何をやっても面白くない。退屈な日々を過ごす洋酒メーカー(サントリー)勤務のサラリーマン、江分利満(小林桂樹)は、酒の席で編集者と意気投合し、雑誌に小説を書くことになった。
編集者は、居酒屋での酒の飲みっぷりと、くだ巻きの見事さに感心して、前から小説を書いてもらいたいと目をつけていたのだった。
満は自分の人生を振り返り、自分をモデルとした小説を書いて雑誌に発表。「江分利満氏の優雅な生活」と題された作品は評判を呼び、ついには直木賞を受賞。祝いの席上で、満はまたまたくだを巻いてしまうのだった。
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東京オリンピックが開催される前年の1963年、洋酒の寿屋がビールの発売を機に「サントリー」と社名変更した当時の伝説の「宣伝部」に勤める社宅住まいのサラリーマンの生きざまを悲哀を込めて描いている。
OP(オープニング)のシーンから、サラリーマンの江分利満(小林桂樹)は、夕方になると、同僚の誰かを誘って飲みに行こうと考えている。
目と目が合えば、あうんの呼吸で「一杯」となるところだが、みな江分利の酒のグダグダは知っているので、声がけされないうちに「じゃあ」といって、去っていくところがおかしい。事務所に残ったのは江分利ひとり。
それでも、居酒屋ののれんをくぐるのだ。飲み屋では「面白くない」が口癖。女将などからは、毎度聞かされているので、「黒犬ね、尾(お)も白くない」とダジャレを返される。
家に会社の後輩を呼んでも、江分利のグダグダとした理屈は朝方まで続く。江分利の妻(新珠三千代)も、江分利が飲んで午前様(朝の3時ごろ帰宅)でも待っているという、昭和の妻(笑)。
仕事が終わった後の同僚同士の飲み会の習慣は、昭和・平成の半ば頃までの伝統か。原作者である山口瞳も主人公・江分利も大正15年生まれ、すなわち昭和の年号と同じ年齢を刻んでいる。大正15年1月19日生まれだが、届けは11月3日にしたという。事情の一つは徴兵制をギリギリまぬかれることになるからだ。
戦中派の暮らしてきた時代を、アニメなどを使いながら、映し出し、戦中派の岡本喜八の作家性も感じさせられる。