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「名作に進路を取れ!」…映画とその他諸々のブログです。

映画「泥の河」(1981)キネマ旬報ベスト・テン第1位。アカデミー賞外国語映画賞ノミネート。

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泥の河」(1981)を見た。初見か?という声が聞こえてきそう。小栗康平の第1回監督作品。宮本輝の小説木村プロダクションが自主制作の形で映画化。当初は公開する劇場がなく、制作の木村元保が、大林信彦に相談し、知り合いの個人会館で3日間上映という状況だった。東映岡田茂会長がこれを見て気にいり、劇場公開されることになった。 

この映画は、4,500万円ほどの低予算映画だが、キネマ旬報ベスト・テン第1位に選出され、第5回日本アカデミー賞で最優秀監督賞を受賞するなどで日本映画の歴史に名を刻むことになる。さらに、国外でもモスクワ国際映画祭で「銀賞」を受賞し、第54回アカデミー賞では外国語映画賞にノミネートされた。

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昭和31年(1956年)の大阪。敗戦の11年後の話。この年は、経済企画庁が「経済白書」(「日本経済の成長と近代化」)で「もはや戦後ではない」と記述した年。世の中は神武景気謳歌していた時代だ。ところが、主人公の住む食堂は、橋の道路から石の階段を下った、コンクリ-トで固めた川岸にある。言ってみれば、「パラサイト 半地下の家族」(2019)で描かれているような底辺に住む人たちの話だ。

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昭和31年、舞台は高度成長期まっただ中の大阪の安治川のほとり。そこで「なには食堂」という店を営む板倉晋平(田村高廣)と貞子(藤田弓子)夫妻と、息子で小学3年生の信雄(朝倉靖貴)が住んでいた。

夏、忙しくない時には、店先で「きんつば」を焼き小銭を稼ぐ父、晋平に信雄は「かき氷ちょうだい」とねだる。「きんつば」ならやるという父に、暑い時には食べたくないと駄々をこねる。常連の馬引きのしている客(芦野雁之助)が自分のかき氷を分けてやると、優しく信雄を呼んだ。

信雄は客の耳が酷く潰れている事を見つけ顔を強ばらせる。客もそれに気付き、恐ろしい顔に一瞬なる。が、何事もなかったかのように二人はかき氷をつつき、客は来週、新しい中古のトラックを買うと意気込んでいた。今、使っている馬はお前にやると、信雄に冗談をいう。

ところが、この翌日、彼は橋のたもとに止めておいた馬車を動かして橋を渡ろうとして、悲劇に見舞われる。鉄屑を満載した馬車の重みで往生した馬が後から来た自動車に驚き、後ずさりしたため、男は逆進する馬車の車輪に引かれ、死んでしまうのである。 その男の死は、店の主人の晋平(田村高廣)の心に暗い「死の想念」を呼び覚ます。

戦争の経験がある晋平は、生きながらえてきたが、戦争で多くの知り合いを無くしている。あのような残酷な死に方をするのなら、戦争で死んだ方がよかったのではないか、と思うのだ。

ある日、河向こうに一隻の船宿や停まっているのに気づく信雄。今の時代、船宿で生活など大変だと同情する両親を横目に、じっと窓から見える舟を見つめる信雄。ある雨の日、馬引きの男が残した、鉄くずが乗った荷馬車をじっと見つめるずぶ濡れのの少年。

「鉄はな、たこう売れるんやで」「でも、これはおっさんのもんや、取ったらあかん」二人はいつしか並んで河を見つめる。名前も互いに知らぬまま泥河を跳ねる巨大な「お化けコイ」の事を話す二人。「これはお前と俺との秘密やで」

「わかった」と、一度は別れた信雄だったが、対岸にいる少年が気になって仕方がなく船宿へこっそり尋ねていった。粗末な舟の側にはバケツで水を運ぶ少年と彼の姉がいた。 

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少年の名前は喜一(桜井稔)、姉の名前は銀子(柴田真生子)。二人は舟のすぐ側で転けて泥だらけになってしまった信雄の靴を洗い、汚れた足も綺麗にしてくれた。船の中は雑然としていてとても狭い。水が欲しいと望む声だけ聞こえる母親(加賀まりこ)に水を持っていく銀子。

信雄は船上で暮らすきっちゃんと銀子の姉弟を夕食に招く。晋平と貞子は心づくしの料理を作って精いっぱいのもてなしをする。特に貞子は、船宿一家の家事を一手に引き受けている銀子に胸を打たれ、彼女を誉める。すると、きっちゃんはむきになって「僕かて、ぎょうさん歌知ってるでェ」と言い出して、直立不動になって「戦友」を歌いだす。「 ♪ここは御国(おくに)を何百里 離れて遠き満州の 赤い夕陽に照らされて 友は野末の石の下♪」

晋平は格別の思いで、きっちゃんの歌を聞いている。そして、きっちゃんに「その歌、最後まで知ってるか?---全部聴かせてェな」と頼んで、長い歌を気張って歌ってもらうのである。

その歌は、晋平に、戦争で死んでいった戦友や自分が負傷したこと、そして戦後復員してからあっけなく死んでしまった仲間のことを今一度つくづくと思い出させた。そして自分もすかたんのように死んでいくのではないかという恐れが彼の意識の中に浮かび上がってくるのだ。彼は、いまの日本の好景気(神武景気)が、隣国の戦争(朝鮮戦争)による特需景気であることにやりきれない思いを抱いているのだった。

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加賀まりこの登場シーンはわずかだが強烈だった。二人の子供を養うために、船の中で売春をしていたのだ。汚れた衣類の子供たちだが、信雄がたまたま船を訪ねた時に、銀子は水汲みで不在で、銀子の母親から、顔を見せてといわれて、別室にいる銀子の母を初めて見るシーンは、信雄ならずともハッとさせられる。化粧をして和服のなまめかしい女がいたからだ。

 

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子役たちが素晴らしい演技を見せてくれた。信雄役の朝倉靖貴、きっちゃん(喜一)役の桜井稔、銀子役の柴田真生子の演技は忘れがたい。

当時の世相も映し出される。ラジオからは、「赤胴鈴之助」の音楽が流れ、テレビでは、相撲中継で、44代横綱栃錦若乃花(初代)の対戦があり、若乃花が小手投げで勝利したシーンだ。銀子が、米櫃(こめびつ)の中に手を入れて「中はぬくい(暖かい)」というシーンなどが印象的だった。

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小栗康平の作品はほかに「伽耶子のために」(1984)、「死の棘」(1990)、「眠る男」(1996)、「埋もれ木」(2005)、「FOUJITA」(2015)がある。寡作な作家である。

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