セルゲイ・M・エイゼンシュテインの長編デビュー作「ストライキ」（原題：Strike, 1925，日本公開1970）を「HD」画質で見た。”名作に進路を取れ！”。帝政ロシア時代、待遇改善を求めてストライキを敢行する労働者の姿を描いた傑作サイレント映画。
もくもくと煙を吐き続ける2本の工場の煙突。豚面の工場主。しかし､水面下では着々とストライキの準備がすすめられていた。労働者たちのストライキとそれを鎮圧しようとする醜悪な資本家たちの権力の姿を描き出す。
ソ連時代に製作された作品で、前時代的な社会体制を痛烈に批判していると同時に、労働者階級の存在意義を労働者自身にアピールした作品でもある。
堅苦しい映画かと思うとそうではなく、スピード感があり、ニュース映画的な手法のドキュメンタリーのようでもある。見やすく面白い。
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全体の構成が【パート１】「工場すべて異常なし」（At the factory all is quiet）【パート２】「ストライキの理由」（Reason to strike）【パート３】「工場が停止」（The factory dies down）【パート４】「ストライキ発生」（The strike draws out）【パート５】「挑発と失敗」（Provocation and debacle）【パート６】「駆除」（Extermination）の6つからなる。
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1900年代初め、帝政ロシア治下のある大きな鉄工場の労働者たちは苛酷な労働条件と低賃金に不満を持っていた。彼らはロシア社会民主労働党の組織を中心にストライキの準備を進めていた。
不穏な動きを察知した経営者側は警察と軍隊に連絡して対策を協議した。スパイが選ばれ、彼らは変装して労働者の中へ潜入していった。労働者たちは便所や河の中、ピクニックを装ったりして討議を続けた。
ある日、一人の労働者が道具箱をあけると、高価な検尺器が盗まれていた。彼は職工長に報告したが逆に泥棒の汚名をきせられてしまった。彼は悩み、仲間に「自分は泥棒ではない」と遺書を書き、工場内で首をつった。
真相を知った労働者たちの怒りは爆発し“ストライキ”が訴えられ、機械は止まり、工具は投げ出され、集会がもたれた。
ストライキの第１日が明けた。闘争の勝利には誰もが楽観的だった。彼らは森で討議し、一日８時間労働、30％の賃上げ等を決議したとき、資本家の反撃が始まった。騎馬警官隊がとり囲み、追い散らしたのだ。
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深々としたソファーでタバコを吸う資本家たち。
株主などの経営陣、資本家と労働者の生活環境や身なりが対比的に描かれている。資本家の男たちは恰幅のいい体格でスーツを身にまとい、葉巻や高級酒を優雅に嗜（たしな）むが、労働者はその大半が貧相な体つきをしていてボロボロの衣服を着ている。労働者たちが食べるのにも苦しむ中、シャンパンを飲みダンスに興じ、高笑いをしているのだ。一方、労働者の小さな子供は「パパ、お腹減った」とひもじい日常。
一般労働者を演者に起用し、彼らを主人公にするという点も興味深い。 支配階級側が労働者の中に複数のスパイを送り込む。同時に猿、ふくろう、狐、ブルドッグなどの動物が登場するが、その動物たちが、人間の顔に変化していくところが面白い。スパイのコードネームというわけか。
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静止画写真の人物が次には動き出すシーンや、レールの上を走る1両のクレーン付きの貨物車の動きを捉えるカメラワーク。大きなガラス玉に逆さに映る人物や背景。
オレンジを絞り出すジューサーで、オレンジが靴にこぼれるシーンなど微細な描写が印象に残る。また、もぐらたたきのような丸い大きな穴が映し出されるがそこからもぐらでなく人間が顔を出すシーンなど壮観。それぞれの中は底に水が溜まって井戸のようになっていた。
警官隊による大量の消防ホースでの群衆への放水により水責めのシーンも圧巻で人間が吹き飛ばされるほど。ラストシーンの殺戮された労働者の死体と､屠殺場で殺される牛のモンタージュ。牛の首をナイフで刻むシーンのバックに流れるグワッ、グワッ、グワッという音が不気味。そして軍隊の一斉射撃。見渡す限りの死体の山。淀川さんではないが「まぁ、すごいですね、これぞ映画ですね」。
