東宝創立50周年記念作品として公開された「海峡」(1982)を見た。「日本沈没」(1973)「八甲田山」(1977)「動乱」(1979)の森谷司郎監督が、青函連絡船洞爺丸事故から約30年にわたり青函トンネルの工事に執念を燃やす国鉄技師らの物語を描いた映画。撮影は木村大作。音楽は南こうせつ。
国鉄(現JR)などの鉄道建設事業を行っていた特殊法人「日本鉄道建設公団」(略称は鉄道公団、2003年解散)などが協力。
「動乱」で初共演した高倉健、吉永小百合が再び主演。ほかに、森繁久彌、三浦友和、小沢栄太郎、笠智衆、大滝秀治、大谷直子、伊佐山ひろ子など豪華出演陣。オーディションで新人2人(約6000人から中川勝彦、約12000人から青木峡子)が出演。文部省特選。
映画のラストでは作業員達がトンネル貫通に湧くシーンが描かれたが、実際の先進導坑貫通は本作公開の翌年1983年、本坑全貫通は1985年。
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地質学を修めた鉄道員、阿久津剛(高倉健)は青函トンネルを実現するために、地質調査に龍飛に訪れた。 そんな折、岸壁から身を投げようとしていた女、多恵(吉永小百合)を救い、呑み屋に世話する。
再び生きる気持ちになった多恵は、何かと阿久津の世話をし始める。 国鉄の人事によって、阿久津が他の土地に転勤になり、当時の国鉄総裁の方針などで、なかなか計画の進まない時も訪れる。
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戦後の昭和30年代から50年代初めにかけて、青函トンネル(青森⇔函館間)の建設に関わり”トンネルさん”と仲間たちから呼ばれた阿久津(高倉健)らの苦闘と報われないラブストーリーを織り交ぜ描いている。旅館の女将だった多恵(吉永小百合)は火災で従業員を失くし、自身を責める気持ちと生きる希望を失ったことで、極寒の地で身投げするところを阿久津に助けられる。以来、単身赴任の阿久津に尽くすのだが・・・。
阿久津の父(笠智衆)の看病をしている妻(大谷直子)は、北国の生活は性分に合わずに、トンネル開通に使命を感じている阿久津とは別々に暮らしている。時は流れて25年。
多恵の飲み屋に現れた阿久津。仕事で、何十年も酒を絶っていたが、熱燗を飲むことに。阿久津の隣に来て、お酌をする多恵。「25年も経ったんですね」と多恵。阿久津は酒を飲み干したおちょこを多恵に渡し、徳利で酒を次ぐ。
多恵は飲み終えるとおちょこを阿久津に返して、もう一度酒を注ぐ。横で涙を抑えられない多恵。決して心の内を言葉にはしない阿久津だが、心情が伝わる名シーンだ。男と女は心の中では相思相愛だが、ふたりの間に横たわる”海峡”が埋まることはなかった。「駅 STATION」での飲み屋の倍賞千恵子とのシーンにもかぶさる。
「八甲田山」と比べると、ダイナミックさやスケール感に乏しい。142分も長さを感じさせる。
撮影当時、吉永小百合36歳、高倉健51歳。小百合は26歳から51歳、高倉健は30代から60歳くらいまでを演じている。高倉健、小沢栄太郎、笠智衆、森繁久彌、大滝秀治など多くの名優はいまはいない。