「2人のローマ教皇」(原題:The Two Popes、2019)を見た。イギリス、イタリア、アルゼンチン合作。2012年当時のローマ教皇だったベネディクト16世と翌年に教皇となるホルヘ・マリオ・ベルゴリオ枢機卿の二人の友情と対話を通して、カトリック教会における歴史的転換点の裏側を描き出すNetflix映画。
今年の洋画「マイベスト・ワン🐶」映画!
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知られざるローマ・カトリック教会のトップの内側をわかりやすく知ることが出来るという点で”知的好奇心”を刺激する作品で面白かった。
ベルゴリオ枢機卿をジョナサン・プライス、ベネディクト教皇をアンソニー・ホプキンスが演じる。監督は「シティ・オブ・ゴッド」のフェルナンド・メイレレス。2019年12月13日よりNetflixで全世界同時配信されているが、日本では配信に先駆けて劇場にて限定公開された。
2020年(第77回)ゴールデン・グローブ(GG)賞のドラマ部門作品賞には、ノミネート5作品中3作品がNetflix作品という”超”異例の事態。3作品は「アイリッシュマン」「マリッジ・ストーリー」「2人のローマ教皇」。
候補5作品中、Netflixの3作品と「ジョーカー」を見たが、作品賞は「アイリッシュマン」と予想していたが、「2人のローマ教皇」を見てしまうと、予想が大いにぐらついた。「1917 命をかけた伝令」だけ見ていないが、現時点でいえば、fpd予想は…。
◎「2人のローマ教皇」
〇「アイリッシュマン」
▲「マリッジ・ストーリー」
GG賞の主演男優賞も「ジョーカー」のホアキン・フェニックスで固いと思っていたが、「2人のローマ教皇」のジョナサン・プライス以外には考えられない、という結論に達した。にじみ出る人間性がとにかくすばらしい。もうひとりの教皇を演じた名優アンソニー・ホプキンスはノミネートされていない。
映画に登場するホルヘ・マリオ・ベルゴリオ(Jorge Mario Bergoglio)は、先日来日したローマ・カトリック教会のフランシスコ法王の実名。法王の来日に合わせて、日本での呼称は「法王」から「教皇」に変更された。外務省によると、カトリック関係者をはじめ一般的に教皇を用いる例が多いことと、バチカン・サイドで教皇の表現で問題がないことが確認できたのが理由という。
ジョナサン・プライス(GG賞主演男優賞にノミネート)
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1人の教皇の対比が面白い。音楽の趣味などから全く異なる。進歩派のホルヘが「ABBA」のダンシング・クイーンを口ずさんでいると、保守派のベネディクト16世は、何の曲だ?と聞く。「ABBAか?」とそっけない。ビートルズの「イエロー・サブマリン」もいいというと「黄色い潜水艦か」とそんなの知らんといった態度。ただ、ベネディクト16世は、後にホルヘが帰るときにおみやげを渡すが、なんとビートルズの「アビー・ロード」というCDだった!
ベネディクト16世は、自らピアノを弾く音楽好きではあるが、戦前の歌手であるツァラー・レアンダーがお気に入りという。
ヨハネ・パウロ2世(ポーランド出身)が2005年に亡くなった時に、コンクラーベで跡を継いだのがアンソニー・ホプキンス演じるラツインガー(ベネディクト16世)だった。
映画は、2005年と2012年の「コンクラーベ」と、アルゼンチン出身のホルヘ・マリオ・ベルゴリオの過去がフラッシュバック(モノクロ・シーンがいい)して描かれる。ホルヘは、1956年頃は、若い科学者として実験などに関わっていて、結婚寸前の女性がいたが、あるとき、司祭と運命的な出会いがあり、「大切な人」がいたにも関わらず分かれることになり教会の道を歩んでいった。
ホルヘは、人望はあったが、イエズス会の属していたことが壁になって、1983年にブエノスアイレスに左遷のような形で戻っていた。2012年に枢機卿を辞意したいと手紙を教皇に送っていたが、返事がなかったために、直接「辞表」を持ってローマに出向くことにした。航空券の予約をした後に、ホルヘは後から知ったが、教皇から会いたいのでローマへ来るようにという連絡があったのだった。
教皇がホルヘを呼び戻した理由というのが、面白い。ホルヘに辞職されたら、ローマ教会に対する不満や抵抗があると思われるから引き止めたかったことと、自身がペースメーカーを入れていて、左目が見えなくなっていることなどから、ホルヘに次期教皇になってもらいたかったのだった。
辞職したかった枢機卿がまさかの教皇になる、まさに転換の「2012年コンクラーベ」だった。ホルヘは、名誉欲などの欲がなく、もともと教皇になるつもりはなく、余生を故郷のブエノスアイレスで過ごしたかったというのが本音だった。
ブエノスアイレスでは、イエズス会の管区長として若い時から活動してきたホルヘは、国から常に監視されるという「暗黒の時代」を経験。仲間の上司なども、反政府分子とみなされて逮捕されたり殺されてきたいきさつも描かれる。
2012年教皇になったホルヘ(フランシスコ法王)は「必要なのは、壁ではなく橋だ」と宣言する。ホルヘの質素で庶民的なところも印象的だった。
ホルヘがラツインガー(ベネディクト16世)に「お腹がすいていないか?」と聞くと「腹が減った」というので、「最高に美味しいものがある」と勧めたのが、街中のレストランのピザの持ち帰りだった! 付き人が買ってきたのは、四角のボックスに入ったピザとファンタオレンジだった。このピザを食べるシーンもいい!(笑)。
「このピザ、いけるでしょう」
イエズス会のジョークをホルヘがラツインガーに紹介するくだりもいい。
司祭と神学生の会話で、神学生が「祈りの最中にタバコを吸ってもいいか?」と聞いたら…「ダメに決まっている」だが、別の学生が「タバコを吸っている時に祈ってもいいか?」と聞いたら「いいとも」だ。
ホルヘが、辞職したかったのは、ローマ教会のそれまでの旧態依然のやり方では、「売るものがないので販売できない」と考えていたからだ。単なるセールスマンにはなりたくないと漏らしていた。
ベネディクト16世は、退任表明の時に、ラテン語を使っていた。以前から、言いにくいことは「ラテン語」を使うと便利だとホルヘに語っていた。ラテン語なら2割の人しかわからないからだが理由。この表明で、会場はざわつく。「確かか?」と。
2014年の「サッカー・ワールドカップ」をテレビ観戦するふたりの教皇。
ベネディクト16世はドイツ、ホルヘはアルゼンチンを応援。奇しくも決勝戦はドイツとアルゼンチン。「アルゼンチンは乱暴だ」「プレーのうちだ!」などの会話が飛ぶところがおかしい。ここでもピザとビールだった。
■「コンクラーベ」とは、日本語の”根比べ”に似ているが、教皇選挙会のこと。全世界55カ国から枢機卿が集まり、次期教皇の投票を行う集まりだ。
枢機卿は,カトリック教会における教皇の最高顧問で、重要案件について教皇を直接に補佐する「枢機卿団」を構成。個々の枢機卿は、教会全体にかかわる日常的な職務について教皇を助ける役割を担う。115人ほどの枢機卿がいるが、第1回投票で一定の票(映画では77票)に達しない場合は、その結果が、黒い煙が挙げられることで、投票の推移が一般に知らされる。決定した場合は、白い煙が挙げられる。
新教皇決定を知らせる「白い煙」
2時間程の映画だが、”根比べ”は必要ないほどに面白い。
最初の1,2分の導入部がサイコーだが、その場面が最後にもう一度登場する。はははと大笑い必死だ。映画史に残る傑作の登場だ。
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