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「名作に進路を取れ!」…映画とその他諸々のブログです。

映画「震える舌」(1980、松竹)を見た。恐るべき子役の演技。

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震える舌」(1980、松竹)を見た。監督は「砂の器」などの名匠・野村芳太郎。カメラは名キャメラマン川又。音楽は芥川也寸志。原作は三木卓が1975年に発表した小説で、破傷風に侵された少女と、その両親を題材にした作品。三木が自分の娘が破傷風菌に感染した時のことをモチーフとして描いている。ホラー色が強い人間ドラマ。

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カメラが湿地で遊ぶ少女をとらえ、そのまま移動すると団地のベランダで布団を干す母親を映し出すシーンから始まる。不穏な空気がある。この先になにか起こりそうな予感を漂えわせる。

5歳くらいの少女・昌子(若命真裕子わかめ・まゆこ)はドブ川の汚れた水辺で泥遊びをしていたが、指先に小さなケガをして、血が出て来る。それが原因か、異常な様子を見せはじめるのだ。歩行がおぼつかなくなり、気力が失せて、一時的な痙攣(けいれん)を起こして舌を噛んで、口から血があふれてしまう。娘の父・三好昭(渡瀬恒彦)が「口を開けろ」というと昌子は「開けたくない」と突っぱねる。

近所の病院に連れて行くが、医者は「難しい病気だ。原因はわからない.検査をしないときちんとしたことは言えない」と言うので、大学病院(東京医科大附属病院)に入院することになった。そこで小児科医長(宇野重吉)から告げられた病名は破傷風(はしょうふう)だった。医長によると「指の傷から菌が入ったもので、毒素が入ったため、痙攣を起こしているので安心はできない」という。2万人に一人の病期で、一般的に、発病から5日以内で全例死亡、10日以内で79%の死亡率だという。ここから家族3人の壮絶な闘病が始まるのだった。

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隔離診察室で、手術が行われるが、今から40年前の医療設備など、現在の「ドクターX」などの最先端医療装置と比べると、麻酔なしで抜歯をする場面など痛々しい。とくに昌子の顔の口周りが真っ赤な血で覆われて、一歩間違うと、「エクソシスト」と間違う程のホラー的な描写が続く。”破傷風”という病気がこれほど恐ろしい病気かと改めて思わせる。

昌子は、音に対して敏感で、強い音を聞くと、体が反応し大声を上げ、苦しむ。見守る母・邦江(十朱幸代)も半狂乱状態になってしまう。昌子は死ぬに違いないと思い込んで、「産まなければ良かった。(夫にも)会わなけらば良かった」と叫ぶ。

暗い病室で娘に付き添う両親の憔悴しきっていく様子がリアルに描かれる。渡瀬恒彦キネマ旬報主演男優賞、十朱幸代はブルーリボン主演女優賞をそれぞれ受賞している。しかし、すごいのは子役少女役の若命真裕子で、ほとんどが寝ているシーンだが、その迫真の演技が強烈だった。

 

  f:id:fpd:20191223191635j:plain ほとんど「エクソシスト」?

病室のシーンは、限度ギリギリの少ない光量での暗いシーンの撮影が続き、リアルさが増している。その一方で、途中で挿入される明るい子供の表情などが入るコントラストが印象的。

とにかく、病状が悪く悪くと進んでいき、どん底へまっしぐらかと思ったが、最後には、奇跡的な大逆転劇が起こる。

「チョコパンが食べたい!」と昌子が笑顔で話すのだ。結局嫌いなチョコパンは相変わらずで、ポテトチップスがいいということになるのだが・・・。当時の自販機で、りんごジュースが100円など、あまり金額が変わっていない。

この映画を当時見た子供は、トラウマになった子供もいたというほど、その描写は強烈だった。大学病院の女医として、昌子の診断を担当していたのが中野良子だった。落ち着きすぎた丁寧な言葉遣いなど、冷静すぎて逆に違和感が少々(笑)。昌子役の若命真裕子は、翌年の1981年に「典子は、今」(東宝)で典子の少女時代を演じている。

 

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破傷風破傷風は土壌に広く生息する破傷風菌による感染症。動物の腸の中や糞にも存在する。破傷風菌は強力な神経毒素を産生し、中枢神経を侵し命に関わる症状を引き起こす。特に野外活動が増える季節に多くみられる。

 

■主な出演:

三好昭:渡瀬恒彦

三好邦江(昭の妻):十朱幸代

三好昌子(昭夫妻の娘):若命真裕子

能勢(昌子の主治医):中野良子

江田 :村松公一

大学附属病院小児科医長:宇野重吉

昭の母 :北林谷栄

昭の兄 :梅野泰晴

山岸(昭の親友):蟹江敬三 

貞恵:中原早苗 

私立病院医師:矢野宣 

ほか