第90回アカデミー賞作品賞・監督賞ほか4部門受賞の「シェイプ・オブ・ウォーター」を見た。アンデルセンの人魚姫の逆バージョンのような話。怪獣でホラーであるにも関わらず、ゴールデングローブ賞の2部門に続いて、アカデミー賞を獲得するなど、今回の受賞はハリウッドではかなり異例のようだ。
不覚にも前半の20分くらいはウトウトしてしまったが、中盤以降、ハイテンポでサスペンスタッチになり引き込まれた。
ストリックランド(左)と科学者
とりわけ研究所警備担当の役人で悪玉のストリックランド(マイケル・シャノン)という男は、007で登場した銀歯が特徴の”ジョーズ”とダブって見えた(笑)。いつも鏡を見て「俺は強い」と言い聞かせる男で「積極的考え方のパワー」という本の愛読者。
主人公イライザ(サリー・ホーキンス)は、声を発することのできない女性。イライザは映画館の真上の部屋に住み、研究機関の施設で清掃の仕事をしている。同僚のゼルダ(オクタヴィア・スペンサー)は、夫の無関心に悩むアフリカ系女性で、イライザの隣の部屋に住む画家ジャイルズ(リチャード・ジェンキンス)は同性愛者。
高級車のキャデラックがステータス・シンボルで、社会においてはアフリカ系アメリカ人など「マイノリティ(少数者)」が、差別や偏見の目で見られていた時代。そこに米ソの開発競争や、スパイの存在なども垣間見える。さらにアマゾンで捕獲され連れてこられた“外国人”である半魚人も、そうしたマイノリティに含まれていた。バーなどでは、アフリカ系(黒人)というだけで、席はないと追い払われる。掃除婦というだけで蔑まれる現実。
社会のなかで異端的な扱いを受ける、孤独な存在であるイライザと半魚人は研究所で出会い、人知れず意思を疎通し、交流を重ね、その物語はロマンスへと発展していくといった姿が描かれていく。
マイケル・シャノンが演じるストリックランドは、成功を手に入れた男として描かれるが、その実像は残忍そのもので、この映画で一番印象に残る悪党だ。
ストリックランドは研究所の警備責任者の地位を利用して、アマゾンで捕獲された半魚人を拷問器具で虐待。さらに、アフリカ系のゼルダには人種差別的な言動をぶつける。言葉を発することができないイライザにはセクハラを行うなど独善的で暴力的な男だった。
ストリックランドは、半魚人を生体実験にして、自分の地位をあげようとし、一方でソ連のスパイたちは、半魚人の強奪を試み、半魚人に愛情を感じているイライザは、半魚人を救い出したいと考える。そのストリックランドが、半魚人を逃がしたのはソ連のスパイに違いないとソ連人を捕まえるが、連れ出したのは、予想だにしなかった人間であると知るシーンなどは圧巻。
果たして、結末は・・・。
”F・U・C・・・” 「(後ろで)見えないけど、ありがとう」です。
・・・
「シェイプ・オブ・ウォーター」とは、その言葉通り「水の形」という意味。
水には本来、形というものがなく、器の形によってどのようなものにでも順応して変化することができる。生物や人種、性別の多様的な価値観に対応することができる“普遍的な愛”の象徴といえる。特殊メイクによる半魚人の造形はよくできている。
一部の人、あるいは多くの人にとっては、怪獣や化け物を好むというのは理解しにくいし、気持ち悪いというのがある。
しかし、一方で、ある種の人間にとっては、そうした虚構や妄想の世界を楽しみたいということもある。最近でこそ、多様性を認めるという動きが活発になってきた。この映画でも、それぞれの多様な生き方を認めることが、人間全体の幸せにつながるということを示している。マイノリティへの偏見や侮蔑などを描いた作品が近年は特に多い。「グレイテスト・ショーマン」もそうだった。
ダイバーシティ(多様性)を認めようというテーマは、アカデミー会員を説得する材料にはなった気がする。
監督のギレルモ・デル・トロは、制作面で口出しをされるのを嫌って自ら2,000万ドル(20億円)出資したという。主演を美男美女にはしたくなかったようだ。
図る掃除婦。半魚人に心を奪われる。)
・マイケル・シャノン:ストリックランド(政府の役人で半魚人を拷問)
■配給:20世紀フォックス映画
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