「15時17分、パリ行き」(2017)を公開初日、初回(9:00)に見た。MOVIXさいたまにて。クリント・イーストウッドの監督作は、2006年の「父親たちの星条旗」以降、今回の「15時17分、パリ行き」まで11作品。そのなかで、実話の映画化は8本。これから見る人が多いので、イーストウッド作品だから間違いないだろうと期待してみると、賛否両論がありそうだ、ということだけにしたいくらい。2015年に起こった「タリス銃乱射事件」を映画化した作品。
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前作の「ハドソン川の奇跡」が、アメリカのトップ俳優、トム・ハンクスの名演もあって、スリリングな映画となったが「パリ行き」は、ヨーロッパを旅していた幼友達の3人が、事件に遭遇して、フランスとアメリカで英雄視されるまでを描いているが、オリジナルの脚本があったわけではなく、3人の行動を追いかけるシーンが多いので、前半は、残念ながら名所見物を淡々と描いている観光映画となっている。
事実とはいえ、後で起こる事件の遭遇との因果関係がない。そこに何かの伏線があるのなら判るがそうでもなく、盛り上がらない。むしろ退屈。その間にも、事件後の成り行きをカットで入れているので、これまで多く見られるスタイルだが少しは救いになっている。
列車にテロリストが乗っていて、このテロリストに対抗して乗客を救った勇気ある3人の若い男たちがいた、という事実だけだったら、映画にならなかっただろう。イーストウッド監督は、テロに立ち向かう強い力が生まれた背景を、14,5歳の学生時代から現在まで生きてきた足跡をバックストーリーとして加えることで、表面的な事象に深みを与えたということだろう。
体験したことを”追体験”で演じた演技経験のない3人だが・・・。
実際の事件に遭遇した当事者を役者として演じさせるという実験的な映画になっていた。アメリカなどの批評は、演技経験のない人物を使ったことで、ぎこちなさが目立つという意見もあるようだ。
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スペンサー・ストーンとアレックス・スカトロスは隣に住む幼馴染だった。
銃や戦争に興味を持つ、アメリカのどこにでもいるような子供だった。趣味で様々なモデル銃を集めていた。しかし、学校生活に馴染めず、度々問題を起こしてはシングルマザーである二人の母親が、学校に呼ばれていた。
銃や戦争に興味を持つ、アメリカのどこにでもいるような子供だった。趣味で様々なモデル銃を集めていた。しかし、学校生活に馴染めず、度々問題を起こしてはシングルマザーである二人の母親が、学校に呼ばれていた。
アレックス、スペンサー(中央)とアンソニー
やがて成長した3人は別々の道に進み始める。
アレックは州兵としてアフガニスタンに従軍、アンソニーは大学に進む。子供の頃から憧れだった軍隊に入隊したいスペンサーは、ある日を境にトレーニングを始め、数ヶ月かけて鍛え上げて、無事に運動試験を突破、空軍に所属する。
しかし、人を助けたいという願望が強く、戦闘捜索救難任務の部隊の所属を希望するが、奥行知覚に問題があるため、却下されてしまう。失意は大きかったが、別の空軍部隊に所属し、訓練に励む毎日を過ごした。
月日は流れ、アフガニスタンで任務についていたアレックが任務終了で帰国した。その機会を利用して祖父出身のドイツを始めとしたヨーロッパ旅行を計画し、スペンサーとアンソニーもそれに合わせてヨーロッパを一緒に旅行することになった。
アレックがドイツで過ごしているころ、スペンサーとアンソニーはイタリアを旅行し、やがて二人がドイツに移動して、3人が合流した。最初の予定ではドイツのあとでフランスに向かう予定が、バーで知り合った男性の勧めからオランダ・アムステルダムに立ち寄ることにした。
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イーストウッドは、スペンサーという人物の生き方に共鳴したのではないかとふと思った。スペンサー(スキンヘッドの男)が映画の中で語る言葉だが、「自分は、目には見えない何か大きな力によって動かされているのではないか」といった言葉だ。
主人公たちはいう。「僕らはこうやっているけど、生きるっていうことは何らかの目的に向かっているんじゃないかと思うんだよね」。それが、後に惨事になるほどの事件に遭遇し、奇跡に結びつくということにはなるのだが。
否定的に書いてきたが、アメリカの抱える問題のいくつかをあぶりだしている。
例えば、シングルマザーの子供に対する、教える側の偏見(極論だが、父親がいないから、子供が反抗的になりグレる)など。ほとんどが素人の俳優だが、ドイツや、ベニスの水上タクシーなどで3人が出会う女性たちは、美人だった(笑)。
主人公のスペンサーの子供時代の部屋には映画「フルメタル・ジャケット」のポスターが貼ってあり、服装もいつもネイビー系の服装で、友人からは、ダサいといわれていた。