「フルートベール駅で」(原題:Fruitvale Station、2013)を見た。
映画の冒頭、実話に基づくとある。近年、実話ベースの映画が多い。
その事件は2009年1月1日早朝、サンフラシスコのフルートベール駅で起きた。22歳の丸腰の黒人青年が鉄道警官に射殺され、全米で抗議集会が行われるなど、大きな波紋を巻き起こした事件だ。
ライアン・クーグラー監督・脚本、マイケル・B・ジョーダンらの出演で、黒人青年が事件に巻き込まれる前の「人生最後の日」を描くことにより、人種差別という面だけではなく、一人の人間の死がいかに悲しく、周囲の人を傷つけるものなのか、一人の人間の命が、いかに重く尊いものなのかを訴えている。
事件のあった日から4年後の2013年元旦、”オスカーに正義を示せ”タチアナ・グラント(殺されたオスカーの娘)のプラカードと抗議の風景、タチアナの実際の映像が最後に映し出されている。
ストーリー:
サンフランシスコのベイエリアに住んでいる22歳のオスカー・グラント(マイケル・B・ジョーダン)は、前科者だが心優しい青年。2008年12月31日、彼は恋人ソフィーナ(メロニー・ディアス)と、彼女とのあいだに生まれた愛娘”T”ことタチアナと共に目覚める。
恋人ソフィーナ(メロニー・ディアス)
母親ワンダ(オクタヴィア・スペンサー)
オスカーを見送るタチアナは「恐いの。鉄砲の音がする」と不安を口にするが、オスカーは「爆竹にすぎない。明日は、遊園地に行こう」と言い残し仲間たちとのカウントダウン・パーティに出かける。
パーティの後、花火を見た帰り、オスカーは電車内でケンカを売られる。刑務所にいた時の知り合いが声をかけてきて、仲間たちをも巻き込む乱闘さわぎとなった。そこに、鉄道警察(公安員)が出動し、フルートベール駅のホームにオスカー達を引きずり出す。
何ら弁明もさせず拘束する警官たち
何もしていないと必死に説明するオスカーだったが、聞く耳を持たない警官たち。
若い警官は、オスカーに銃を抜き、オスカーを撃ってしまう。
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白人警官の黒人に対する暴行事件のニュースが後を絶たないアメリカだが、この映画が公開された2012年の同じ時期に、フロリダで17歳の黒人の少年が夜回り警備をしていた28歳の男に射殺されるという事件の判決があり、無罪になったというニュースと映画の上映が重なったという。
撃った男は、正当防衛で無罪判決だった。殺された少年は、男が凶器(銃)を持っていることも知らず、フードをかぶったパーカーを着て怪しそうだというだけで撃ったというのだ。陪審員の全員が白人だけというのも問題だ。フロリダ州では15%が黒人というが、一人でも黒人の陪審員がいれば、判決は違ったものになったということのようだ。この判決には、デモが起こったようだ。
「フルートベール駅で」も、似たような状況だ。
被害者となった黒人青年も、前科があるというだけで、不当に拘束され、黒人というだけで「クズ」呼ばわりされて、銃で撃たれてしまうという現実。
「現場にいた数名がカメラやビデオで記録していた。その税像が抗議や暴動を引き起こした。警官と鉄道の幹部が辞職し、撃った警官は殺人罪で起訴された。だが”テーザー銃(ワイヤー針スタンガン、写真)と間違えた”との主張で、陪審員は、過失致死罪であると認め、懲役2年となったが、11ヶ月で釈放された。オスカー・グラント三世は、2009年1月1日午前9時
15分に死亡。オスカーはまだ22歳であった」。
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映画は、人種差別を描くというよりも、被害者が現実にはどのような人生を送っていたのかにフォーカスしている。そうすることで、事件の悲惨さを改めて浮き彫りにしている。映画の冒頭では、警官が黒人の若者たちに暴力を振るうシーンで始まる。
「警官は市民に使えるのではないのか。警官の暴力だ」と訴える映像だ。
アメリカでは、州によって法律なども異なるというが、フロリダ州などは特に、黒人に対しては、正当防衛の規定がゆるやか?で白人に有利になっているようなのだ。黒人に前科があろうものなら、現在まじめに働いて生活していても、いざちょっとしたいざこざが起こると、射殺しても正当防衛になってしまうという不条理が付きまとっているようだ。
監督:ライアン・クーグラー
脚本:ライアン・クーグラー
出演:マイケル・B・ジョーダン(オスカー・グラント)
ほか
主人公オスカーの母親・ワンダ役のオクタヴィア・スペンサーが、なかなかよかった。オクタヴィア・スペンサーといえば「7つの贈り物」(原題: Seven Pounds、2008)「ヘルプ~心がつなぐストーリー」(原題:The Help、2011)などが印象的だった。
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