「湯を沸かすほどの熱い愛」(2016)を見た。
昨年10月に劇場公開され、見た人の評判がよく、日本アカデミー賞では、最優秀主演女優賞(宮沢りえ)、最優秀助演女優賞(杉咲花)などを受賞。「優秀賞」はそれぞれ5人いて、アメリカのアカデミー賞のノミネートのようなモノ。「最優秀」は一人で、昨年度の”女優部門を制覇”した作品だ。映画としての評価も、キネマ旬報の日本映画ベスト・テンでは7位にランクインした。
映画を見る前は、奇をてらったような少々気恥ずかしいタイトルだな、シングルマザーの肝っ玉母さんと娘の話かなと勝手に思い込んでいた。とんでもなかった。
映画が始まって、役者の名前もタイトルも一切なしで物語が進行。
2時間たって最後にタイトルが出る。”やられた!”と思うような衝撃(笑)。
評判通りスゴイ映画だった!
主人公の幸野双葉(宮沢りえ)が、学校でいじめにあっている娘や、突然蒸発した夫や、偶然出会ったヒッチハイカーなど、自身と関わる全ての人々に接する姿勢が”熱く”泣かせるほどで、胸が詰まり、号泣の一歩手前だった。
・・・
映画の冒頭、画面には「湯気のごとく店主が蒸発しました。当分の間 お湯は沸きません。幸の湯」という手書きの張り紙が映し出される。舞台は、銭湯なのだ。それで ”湯を沸かすほど”なのか。銭湯の女将さんが、戦闘モードで家族を勇気づける話だった。
安澄は、高校2年の女子高生。性格が内気で、ほかの友達の輪には加わらず孤立していた。今日も自分の机を抱えるようにしがみつく。なぜかなと思えば、クラスの女子高生たち数人が、一人一人安澄の机を蹴っていく。
絵を描くのは得意のようで、教師からは褒められるが、クラスメイトは勝手に絵の具のチューブを安澄の服の上や髪に塗りたくっていた。教師から聞かれても、自分で塗ったと言い張る。
安澄の制服が盗まれる事件が起こる。
安澄の母・双葉が「逃げちゃあダメ。自分の力で立ち向かわないと」というと、安澄は「私は立ち向かう勇気なんてないの。お母ちゃんとは違う」と言い返す。「お母ちゃんと安澄は何も変わらないよ。」と励ます双葉。
制服がない安澄は、体操着で学校に行った。クラスメイトは、体操の時間じゃないよ、とイヤミを言ってきた。安澄の取った行動は、大胆だった。
体操着を脱ぎ捨て、母親が万一のためにと買ってくれた”勝負下着”姿になったので、教師もクラスメイトも唖然としてしまう。「どうか、制服を返してください」と安澄。
いつのまにか、だれかがしばらくして教室に制服を投げ入れていた。
制服を着て家に帰ると母が待っていたが、母・双葉は驚きの声で「あ、制服。頑張ったんだ!」。細かいことは詮索しない母だったが「うん。お母ちゃんの遺伝子がちょっとだけあった。」と安澄は、一皮むけて成長したようだ。
ところで、この母娘の間には、安澄の知らない秘密があった。
蒸発した夫を探偵を使って居場所を突き止めたり、何と9歳の鮎子(あゆこ、伊東蒼)という隠し子がいたり、様々なことが双葉の上に降りかかってくる。
しかも、ある日、いつも元気な双葉がパート先のパン屋で急に倒れてしまった。
精密検査の結果、肺、肝臓、脳にまでガンが転移していて、ステージ4の末期がんを告げられる。余命2-3か月と下された。気丈な双葉は残された時間を使って、家族のために、生きているうちにやるべきことを着実にやり遂げようとする。
安澄は、母から小さい頃に「手話を習っておきなさい。いつか役立つときがくるから」といわれていたという。その意味が後でわかるシーンがあるが、泣かせる。
夫が外に作ったという鮎子という9歳の少女が、幸野家で暮らすことになる。
その鮎子がいうセリフ。「これからはもっと一生懸命働きます。できればでよいですが、この家にいたいです。でも、まだ(いつか戻ってくると言い残し去っていった)ママのことを好きでもいいですか」というのだった。子役(伊東蒼)もうまい。
結婚するときに約束した、エジプトに行こう、店を改装しようという約束も守られていない。「日本しか知らずに死んでいくなんて、人生もったいない」と冗談めかして言う双葉。
双葉自身も幼いころ母に捨てられた経験がある。
探偵を通じて、母親を探し出すも「そんな子は知らない」と無視されてしまう。母親を演じているのがセリフもないワンカット出演だが、昨年11月に亡くなったりりィだった。
病院のベッドで双葉の「こんなにもスケールの小さいお父ちゃんに子供を託して死ねないわ」「死にたくないよう」と叫ぶような声は悲痛だった。
北海道から旅しているというのはウソで、一度も北海道に行ったことがないという。「北海道に行くことを目標にしたら」と双葉がアドバイスをすると「目標を達成したら、報告に行ってもいいですか」と返答が。「いいですよ、でも”早めに”来てね」(←余命いくばくもないので)もぐっとくる。
宮沢りえは「紙の月」の好演につづき「湯を沸かす~」でも、死期が迫った鬼気迫る演技で女優根性を見せている。もはや日本を代表する女優の一人ともいえそうだ。
一方、その娘役の杉崎花は、出世作といえるのが、2013年1月より放送されたドラマ「夜行観覧車」。このドラマでは、鈴木京香の娘役で、家庭内暴力に荒れる娘役を好演。以降ドラマや映画に多数出演するようになった。
2014年、日経トレンディ主催の「2015年の顔」に選出された。
そのほか、脚本、セリフもいろいろちりばめてあり、見ごたえのある映画だった。
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