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「名作に進路を取れ!」…映画とその他諸々のブログです。

<span itemprop="headline">映画「あん」(2015)樹木希林の名演光る。</span>



昨年公開された「あん」(2015)を見た。
moreさん(モアひゃん)のブログで、樹木希林の演技を絶賛していたので、「わが母の記」などでもその自然体の演技で高い評価の樹木希林と最近は過去を背負ったような役柄の多い永瀬正敏(「64 ロクヨン」後編など)が共演ということで見た。

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縁あってどら焼き屋「どら春」の雇われ店長として単調な日々をこなしていた千太郎(永瀬正敏)のもとに、ある日、求人募集の張り紙を見た徳江(樹木希林)がやってくる。

仙太郎は、徳江をみて、案外力仕事だし、時給も600円と安いと断ろうとするのだが、時給は300円でもいいというが、どら焼きを手土産に持たせて帰らせた。



ところが、別の日に、お土産にもらったどら焼きを食べてみたと、徳江がまたやってきた。「皮はいいんだけどね、あんがね」と注文をつけるのだ。徳江は50年間もあんを作り続けてきたといい、自分で作ったあんをパックに入れて持ってきた。

徳江が戻った後、徳江の作ったあんをなめてみると、「味も香りも俺が使っているあんとは全然違う」と客として来ている女子中学生のワカナに言うのだった。

徳江の勢いにのまれ、どら焼きの粒あん作りを任せたところ、あんの味が評判となりあっという間に店は大繁盛。女子高生の常連客などは「粒あんが変わった」「レベルアップしたの!」「おいしくなった」という声が聞かれた。朝11時の開店の時には、行列ができるほどだった。



失敗し売れないどら焼きをもらいにくるワカナもだんだんと徳江に馴染んでいく。
しかし、徳江がかつて、不治の病といわれ隔離される病気だったらい病(ハンセン病)患者だったことが広まり、客が一気に離れていった。この状況に徳江は店を去り、千太郎やワカナの前から消えてしまう。それぞれの思いを胸に、二人は徳江を探すのだが・・・。

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監督・脚本の河直美は、2007年第60回カンヌ国際映画祭にて「殯(もがり)の森」グランプリを受賞するなど、カンヌや海外では知られている監督の一人。この監督の作品はほとんど見ていないが、周りの自然描写などを多く取り入れているような気がする。

「あん」では、桜の満開の季節、花が散った季節、緑の木々の季節などを、物語の折々の背景に入れて、時間の経過を示している。

「あん」の物語のベースに、らい病(ハンセン病)というのがある。
砂の器」でもあったが、本浦千代吉は戦後まもなく、不治の病といわれたらい病ということで、村から追いだされた形で、小さな息子と日本全国を行脚することになった。その後、治療法が見つかり、偏見は無くなったとされている。

「あん」では、徳江(樹木希林)が、戦争直後のころらい病で、伝染するとみられたことから隔離された経験を持つ。らい病患者の強制隔離が解除されたのは、ほんの20年前の1996年のことだったと、映画では語られていた。



そのらい病患者の手記ともいえる本の中で、「私も日の当たる社会で生きたい」という一行が引用されていた。差別・隔離されて生きてきた徳江がはじめて、どら焼きの匂いに引き寄せられて、どら焼き屋の千太郎を見た時に、自分と同じ悲しい目をしていると一瞬で悟ったという。

千太郎も、世間に顔を出せない一時期があった。けんかの仲裁に入って、相手を殴る側に回って服役していたこともさらりと語られていた。

どら焼きの店を任されたのは、店の先代からの借金で切り盛りしていたので、甘党ではないのに、甘いどら焼きを作っているというのだ。徳江が作った粒あんのどら焼きを食べた時に、「どら焼きを丸ごと1個食べるのは初めてだ」というのだ。

徳江がらい病であったということが広く知れ渡り、客はばったりと来なくなったので、徳江にも仕事を辞めてもらった。そんなとき、徳江から手紙が届いた。

「こちらには非がないつもりで生きていても、世間に押しつぶされてしまうこともあります。知恵を働かしていかなければならないと伝えるべきでした。どうぞ、自分の道を歩んでください。店長さんならきっとそれができます」という内容だった。

女子中学生のワカナが家出をしたといって訪ねてきたときに、千太郎は「世間って怖いよ。世間よりひどいのは俺だ。(徳江を)守れなかったんだからな」とつぶやいた。

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千太郎とワカナは、徳江が住んでいる、らい病を患った人々がまとまって暮らすアパートのような隔離された場所に徳江に会いに行く。そこでは、徳江が、すっかり老け込んでいた。よしこちゃん(市原悦子)という友達と暮らしていた。



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この映画は、樹木希林の代表作になったかもしれない。
小豆の豆を作るところのシーンなど、「水をまんべんなくかけてね。豆の渋みが残っちゃうからね。ゆっくりね」などという普通のセリフが自然でリアルすぎる。

千太郎は、いままで豆は注文して市販の「業務用あん」を使っていたので、徳江が何時間もかけてつくるので、一つ一つ「湯気の香り?」「ややこしいですね」と聞き返すのだ。徳江は、「豆が畑から、せっかく来てくれたんだからね。もてなしだ」というのだ。豆や自然に対して話しかけるので、千太郎は戸惑いを隠せない。

ハンセン病という病気を持った人たちがいることを忘れないでほしい、というメッセージ性もある映画だが、淡々とした物語の中で、樹木希林の演技が目立っていた。

らい病という病を患いながらも、療養所のようなところでは年配者たちが楽しそうに談笑している姿が印象的だった。また、徳江も、人生の終わりを迎える前に、思ってもみなかったどら焼きづくりの店で仕事ができたことが何よりもうれしく感じられ、思い残すことはなくなった、というところで救いも感じられた。

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