「汚名」(原題:Notorious!, 1946、日本公開1949)を見た。「断崖」「疑惑の影」のアルフレッド・ヒッチコックが「ガス燈」「ジキル博士とハイド氏(1941)」のイングリッド・バーグマンと「独身者と女学生」のケーリー・グラントを主役として監督した1946年の作品。バーグマンの30歳の時の作品で、その美貌が光る映画だった。
共演は「カサブランカ」で警察署長を演じ、イングリッド・バーグマンとは共演済みのクロード・レインズ、「ゾラの生涯」のルイス・カルハーン、映画初出演の舞台女優レオポルディーン・コンスタンチン、「少年牧場」のモローニ・オルセン、かつてドイツ映画の監督だったラインホルト・シュンツェルなど。
ハリウッドの美男・美女の共演でヒッチコック監督ということで期待が大きかったが、部分的には見せ場が何箇所かあって、ワイン・グラスや鍵などの小道具の使い方、カメラの写し方など、さすがヒッチコックとうならせるが、全体としては、ラストシーンも含めてやや物足りない印象だった。テレビでかつて放送されたが、集中してみなかったからか、全く印象がなかった。原題のNotoriousとは、悪名高き、の意味。
タイトルの「汚名」と中身があまり一致していなかったようだ。父の汚名を娘が晴らす、というような流れであればわかりやすいが・・・。
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アリシア・ハバーマン(イングリッド・バーグマン)は売国奴(スパイ)の父を持ったために心ならずも悪名高き女として全米に宣伝されていた。
首謀者セバスチャン(クロード・レインズ)をよく知っているアリシアを利用する目的で近づいたのだったが、やがてアリシアに強く引かれるようになった。一緒に南米に行き、リオ・デ・ジャネイロでの楽しいあけくれに、二人の愛情は日毎に深まり、アリシアはデブリンの愛によって、その昔の純情さを取り戻していった。
まもなく、アリシアは命令で首領セバスチャンを探ることになったが、セバスチャンがかつて父親の相棒だったことから、アリシアは容易にセバスチャン邸に入り込むことに成功し、計画通りにセバスチャンはアリシアを恋するようになった。
一夜、彼の邸でナチ・スパイたちの晩餐会が催されたが、その時出された一本のぶどう酒に対するハブカの態度とそれに次いで起こった彼の変死にアリシアは強い疑念を持った。
セバスチャンの花嫁となったアリシアは、家中を見回ることが出来たが、地下室の酒蔵にだけは入れなかった。デブリンとの打ち合わせによって、一夜またパーティが催され、アリシアは酒蔵の鍵をセバスチャンから盗み取りデブリンに渡した。
目的の酒瓶を辛うじて盗み出して彼は逃げ去ったが、嫉妬から絶えずデブリンを監視していたセバスチャンはかぎつけてしまった。
使命を終えて逃れようとしたアリシアは力つきて倒れてしまった。
愛する者の敏感さで、デブリンは彼女の身の危険を感じたのだ。
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デブリン(ケーリー・グラント)という男は、アリシア(イングリッド・バーグマン)に好意を抱きながらも、自分からは伝えようとしない。デブリンは、上司から、アリシアを女スパイとして利用するよう依頼されるが、アリシアには強要ぜす、あくまでも自身の判断で決めるように言う。できれば危険な役回りであり引き受けないという返事を期待したのか。アリシアにしてみれば、父親が売国奴と言われたことの真相を知りたかったのか、引き受けることにした。
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その運転をみて落ち着き払っているデブリンに、苛立つアリシアはさらにスピードを出すと、白バイがやってきて、車を止めるが、デブリンが手帳を見せると、白バイ警官は、敬礼をして去っていく。そこでアリシアはデブリンの素性を知ることになるのだ。
アリシアが「アメリカのエージェント」(=スパイ)と知って、毒入りコーヒーをアリシアに飲ませようとするセバスチャンとその母親。アリシア用のコーヒーを間違って、使用人が飲もうとした時に、親子揃って「コーヒー!」と同時に叫ぶところなど見所だった。
地下のワインセラーの鍵は、セバスチャンの複数の鍵の中に紛れていたが、その
1本が抜き取られていたことに気づいた時のセバスチャンの反応。また、あとでチェックすると、鍵が元通りになっていたことを確認したセバスチャンの驚き。このあたりのサスペンスは見ごたえがある。
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ケーリー・グラントは、撮影時42歳、バーグマンは30歳ともっとも脂の乗った時代の作品。とくにバーグマンは、1942年「カサブランカ」に出演後、翌43年「誰が為に鐘は鳴る」44年「ガス燈」(アカデミー賞主演女優賞)45年「白い恐怖」(初のヒッチコック作品出演)そして46年「汚名」と続く。このあと49年の「山羊座のもとに」と3本のヒッチコック作品に出演した。
ヒッチコック作品は、初期の頃の作品と、晩年の作品がやや精彩を欠いた印象で、
「北北西に進路を取れ」「サイコ」「裏窓」「鳥」「めまい」などの1950年代~60年代が絶頂期の作品群と言えそうだ。
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