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「名作に進路を取れ!」…映画とその他諸々のブログです。

映画「バルカン超特急」(1938、日本公開1976)ヒッチコックのサスペンス映画。

 

アルフレッド・ヒッチコック監督の「バルカン超特急」(原題:The Lady Vanishes、1938、日本公開1976年)を見た。製作後、40年近い歳月を経て日本では公開された。
 
原題は、列車の中でミス・フロイという一人の老婦人が消え失せてしまうことから「消えた貴婦人」。「レディ・バニッシュ/暗号を歌う女」(1980)として後にシビル・シェパード主演でリメイクされた。Vanish(消える)というとカーアクション映画「バニシング・ポイント」(原題:Vanishing Point、1971)を思い出す。
 
★映画チラシに「ヒッチコック映画の面白さをすべて満載したベストワンの名作!」 とあるがまんざら誇大宣伝とはいえない。
 
アメリカの富豪の娘アイリスは、老婦人フロイの行方を探すが、彼女がいたという痕跡すらもない。乗客もフロイの存在を信じない中、ギルバートという青年だけは、アイリスに協力を申し出るが・・・。ユーモアとサスペンスにあふれた、ヒッチコックのイギリス時代の代表作といわれる。
 
映画の最初こそホテルが舞台で、群像劇の様相で始まるが、舞台が列車に移ってからは、ほぼ列車内だけの描写となる。怪しい人物がうようよと登場し、何やら「オリエント急行殺人事件」に似た雰囲気の映画だが、予備知識なしで見たので、引き込まれた。様々なトリックや仕掛けがあって、いま見てもおもしろい。
 
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英国人の二人組、小柄なカルディコット(ノートン・ウェイン)と大柄でヒゲの似合うチャーターズ(ベジル・ラドフォード)ら汽車に乗ろうとしていた乗客は、雪崩が起こり帰国する汽車が明朝にならないと走らないために宿屋で待ちぼうけを食らっていた。その国はパンドリカ(架空の国)という自然があふれた貧しい国だった。
 
そこで、帰国直後に結婚式を控えるお金持ちのお嬢様アイリス(マーガレット・ロックウッド)が宿屋に知人とやってくる。そのアイリスは金持ちなので、ホテルのボリス(エミール・ボレオ)はアイリスにはペコペコし、個室に泊まらせる。
 
一方、普通の客で風呂などを求めるカルディコットらにはメイドのアンナ(キャサリン・トレメイン)と相部屋になってしまう。ほかの客には、弁護士と女、貴婦人フロイ(メイ・ウィッティ)などがいた。
 
アイリスがホテルで寝ようとすると客の一人のギルバート(マイケル・レッドグレーヴ)が大騒ぎを始め、二人はいがみ合う。すると、どこからか聞えてくるギターの調べ。

その歌声はミス・フロイの部屋の窓の下でやんだ。ギター弾きの背後に忍ぶ大きな影。翌朝、ダイヤは回復し、出発の準備をしているアイリスの頭に植木の箱が落ちてきた。軽い打撲傷ですんだものの、アイリスの前を横切ったのはミス・フロイだった。
 
列車で二人は偶然にも同室となった。一眠りしたアイリスが起きた時、ミス・フロイは消えていた。探し回るがみつからない。車掌や乗客たちに聞いても、ミス・フロイなどという老婦人は初めからいなかったという。
 
絶対にフロイがいたといい張るアイリスは、同乗の医師(ポール・ルーカス)に頭の怪我の後遺症と決めつけられるのだが・・・。
 

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列車の乗客たちは、何者かの指示で、全員が嘘をついているのか、アイリスは、頭部を打撲して後遺症による幻覚だったのか、徐々に明らかになっていく展開がサスペンスを盛り上げる。
 
最初のホテルが舞台のシーンでは、バンドリカ(架空の国)語、ドイツ語、フランス語、イタリア語などが飛び交い、英語以外の言葉が話されるときは、字幕は「外国語」とでるだけで、英語を話すイギリス人の視点となっている。
 
ホテルの支配人は、豪雪により大勢の宿泊希望者が押し寄せててんやわんやの騒ぎとなるが、”定宿客”とみられる美貌の婦人客の一群を優先する。他の客たちからは不満も出てこようというもの。
 
2人の英国人などは、ロンドンのクリケットの試合のことしか頭になく、一刻も早くロンドンに到着したいと焦っているのだが、住み込みのメイドの部屋しかないとそこに閉じ込められる始末。メイドと男ふたりとのコミュニケーションが取れないおかしさ!ベッド一つの狭い部屋に男ふたりが寝ていると、メイドが、ベッドの下の衣類等を取りに来るのだ。なぜか、このメイドは部屋を出ていくときに「グーテ・ナハト (Gute
Nacht) (=おやすみなさい)」とドイツ語の挨拶はできるのだが(笑)。
 
豪雪に見舞われた家々や車は、よくよく見るとミニチュアとわかるが、部屋の中の場面に切り替わるシーンと巧みに合成しているようだ。列車モノの映画は数多いが、列車の窓の外から別の車両に人が移動するシーンや、その移動中に、反対側から列車が走ってくるなど迫力はあった。アクション、銃撃戦もあるが、そのあたりはややお粗末。
 
ネタバレになりそうだが、これ実はスパイ映画で、オチもあって面白い仕上がりとなっている。
 
スタッフ
脚本:シドニー・ギリアット、フランク・ラウンダー
製作:エドワード・ブラック
音楽:ルイス・レヴィ、チャールズ・ウィリアムズ
キャスト
アイリス・ヘンダーソン:マーガレット・ロックウッド
ギルバート:マイケル・レッドグレイヴ
老婦人フロイ:メイ・ウィッティ
ハーツ医師:ポール・ルーカス
チャーターズ:ベジル・ラドフォード
カルディコット:ノーントン・ウェイン
マジシャンのドッポ:フィリップ・リーヴァー
男爵夫人:メアリー・クレア
尼僧:キャサリン・レイシ
エリック弁護士:セシル・パーカー
マーガレット:リンデン・トラバース
ボリス:エミール・ボレオ
アンナ:キャサリン・トレメイン
 
この映画でヒロインを演じているマーガレット・ロックウッドは、パキスタン(カラチ)出身の女優で、第二次大戦ををはさむ戦前、戦後の代表的なイギリス映画スターだった。とくにキャロル・リード監督とのコンビが多かった。「Bank Holiday」(1938)「The Star Look Down」(1940)「Night Train to Munich」(1940)「The Girl in the News」(1941)などがある。その後は、悪女、妖婦型の性格演技で知られた。日本では「バルカン超特急」で知られる。「バルカン~」出演当時は22歳で可憐な印象。共演のマイケル・レッドグレイヴは、イギリスの名女優ヴァネッサ・レッドグレイブの父親である。
 
ジョディ・フォスター主演の「フライト・プラン」という映画も、消えた乗客について主人公以外の人間が「そんな人間はいなかった」と口を揃えるという、この映画のプロットが応用されているものとみられる。
 
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