fpdの映画スクラップ貼

「名作に進路を取れ!」…映画とその他諸々のブログです。

映画「サッド・ヴァケイション」(2007)

  
サッド・ヴァケイション」(2007)は、青山真治監督による「Helpless」(劇場デビュー作)「EUREKAユリイカ」に続く“北九州サーガ”の三部作の最終作品。
 
「EUREKA ユリイカ」が、映画評論家、ライターなどのアンケートで「21世紀の日本映画ベスト10」の1位に選出されて、「EUREKA」を先日見たが、「サッド・ヴァケイション」もおすすめという声がひろちゃんからあったので見た。
 
・・・
 監督によると、「サッド・ヴァケイション」では、人が憎悪と殺意の境界線を超える様を考察したという。この映画は、北九州の博多、門司などローカル地方が舞台で、そこに住む人々の人間ドラマを描いている。
 
中国からの密航者が乗った一隻の船が、北九州の港に到着する。
彼らの手引きをしていた白石健次(浅野忠信)は、船内で父親を亡くしてしまった少年アチュンを連れて家へと逃げ帰る。
 
健次は5歳のときに母親が蒸発、それによって精神を病んだ父親も自殺してしまった過去がある。アチュンを連れ帰った家には、ある事件をきっかけに幼馴染でヤクザだった安男の妹・ユリ(辻香緒里)が同居している。
 
知的障害者のユリ、無邪気で幼いアチュンとの新たな共同生活に、健次は安らぎを感じはじめる。
 
若戸大橋のたもとに間宮運送という小さな運送会社がある。
社長の間宮(中村嘉葎雄)は、かつてバスジャック事件(「EUREKA」で描かれている)の被害を受けた田村梢(宮崎あおい)、借金取りに怯える後藤(オダギリジョー)、ヤクザに追われる者、資格を剥奪された医師・木島(川津祐介)など、一癖ある流れ者たちに食と住居を与えていた。
 
間宮は、行き場のない彼らを放っておくことができなかったのである。
中国人の追っ手から逃れるべく、運転代行業へ転職した健次。ある日引き受けた仕事は間宮を会社まで送り届けることだった。
 
 石田えり浅野忠信が親子役というのは、少々無理があるのでは・・・笑。
 
玄関先に出てきた間宮の妻・千代子(石田えり)の姿を見て、健次は驚愕する。
千代子は、かつて自分を捨てて失踪した母親その人だったのだ。母と息子は再び出会い、ユリたちを交えてひとつ屋根の下で暮らし始める。
 
間宮運送で雇ってもらい、表向きは楽しげに働いているように見える健次だったが、腹の中は母親への復讐心でいっぱいだった。しかし日に日に大きくなる母親の存在に惑わされ、翻弄され、健次は自分を上手く保つことができなくなる。
 
唯一心を通わせる恋人の椎名冴子(板谷由夏)にも、ついイライラをぶつけてしまう。母親への恨みをたぎらせる息子と、その彼を包み込むように受け止める母親。
自分の前に立ちはだかる母性の壁を、健次は破っていくのか、それとも・・・梢、ユリ、冴子、そして千代子、“ゆるがない女たち”が、男たちを未来へと導いていく・・・
(「Movie Walker」より)。
 
 ・・・
間宮夫婦の間には、息子の勇介(高良健吾)がいたが、この勇介はワル仲間とスーパーで万引きをしたり、知的障害のあるユリをレイプするなどで、ユリは精神が不安定になってしまう。そのユリのうなされたシーンと、健次が勇介を海岸沿いの呼び出して、格闘するシーンが重なる。
 
この映画では、あるワンカット・シーンが、時々突然挟み込まれることがある。観客にイメージ映像を焼き付ける効果を狙っているのか。母を憎んでいたはずの健次だが、母親の存在の大きさに気づかされていく。母・千代子は、健次に「何も知らんくせに。やさしいばっかりじゃ、男は立たんしね」というと、「親でも子でもなかろうが、最初から」と反発する健次。健次は勇介殺害の罪で収監されたが、刑務所の面談で「(刑期を終えたら)家に戻ってきて。(勇介もいなくなり)健次が家の後を継いで欲しい。(健次と結婚予定の)冴子のお中には赤ん坊がいる。みんなで暮らそう」と母・千代子が言うのだが・・・。
 
・・・
中国人の密航者などが描かれ、取り残された孤児を引取りに来た中国人の言葉に中国人の考え方を垣間見ることができる。「人間で一番大事なことは何か。生きることだ。日本人はきれいごとが多い。きれいごとはない」というのだ。ここに、自分たちが生きるためには、手段を選ばない、とでも言いたげな気質が見え隠れするのだ。
 
元医者の言葉では「この世に偶然はない。会うべき人には必ず会う。そういうもんだよ」と言ったセリフがある。間宮運送の間宮社長に対して、若者が言う。「流れ者を雇って更生させて、それでいいんですか。頑張ってください。頑張るという言葉は大嫌いだけど、頑張ってください」という言葉も印象に残る。
 
この映画では、何度かシャボン玉が登場する。
間宮運送の年配の女性従業員は、「私もシャボン玉のように飛んでいきたいわ」と言うセリフもある。登場人物がそれぞれに背負った過去の傷や悩みとの葛藤と複雑な人間関係などが描かれている。
 
7年前の映画だが、現在活躍している俳優、女優が多く出ているのに驚かされる。
 
主な出演:
白石健次:浅野忠信
間宮千代子:石田えり
田村梢:宮崎あおい
椎名冴子:板谷由夏
間宮繁輝:中村嘉葎雄
間宮勇介:高良健吾
アチュン:畔上真次
松村ユリ:辻香緒里
茂雄:光石研
柴田秋彦:斉藤陽一郎
木島:川津祐介
曽根:嶋田久作
中西:森下能幸
岡田:上下宣之
益田:杉山彦々
川島:豊原功補
中国人マフィア:本間しげる
 
 
 ☆☆☆