fpdの映画スクラップ貼

「名作に進路を取れ!」…映画とその他諸々のブログです。

<span itemprop="headline">映画「わが青春に悔なし」(1946)…黒澤明監督、戦後第1作(第5作品目)。</span>


 
黒澤明監督作品で、未見作品がいまだ数本ほどあり、そのうち戦後第1作の「わが青春に悔なしを見る。黒澤作品は「姿三四郎」のデビュー作から全30作品があり、これは5作目にあたる。画面はモノクロ/スタンダードサイズ、110分。
 
「わが青春に悔なし」は、青春映画というよりも、昭和初期の1933年(昭和8年)からの約10年間の思想弾圧の時代にあって、力強く生きた女性の姿をうたいあげた作品だ。
 
国民的アイドル原節子が、黒澤作品に初めて登場し、芯の強いヒロインを好演。
 
原節子といえば永遠のお嬢さんのイメージ。
この映画でも、前半は良家のお嬢様として登場するが、後半は、獄死した夫の実家の両親のもとで、自ら田植えをして、泥まみれになり、夫が生前何度も口にしていた「顧みて悔いのない生活」を実践し、泥まみれになり、芯が強く、たくましい女性を演じている。
 
亡くなった夫への、いわれなき中傷(売国奴、スパイ)の住民たちの好奇の目や嘲笑、嫌がらせに屈せず、最終的には、地元の村の住民たちを指導する立場で歓迎されるまでを描いている。そのたくましい姿は、強烈な印象を刻む。
 

・・・
1933年(昭和8年)。京都帝国大学の教授・八木原(大河内伝次郎)の教え子たちにとって教授の一人娘、幸枝(原節子)は憧れの的。
 
七人の学生の中でも、野毛(藤田進)と糸川(河野秋武)の二人の学生が幸枝に想いを寄せていた。秀才型で日和見的な糸川に対して実直で行動派の野毛とは対照的な人物。
 
軍国主義が強まる中、野毛が左翼運動へと身を投じる一方、糸川はひたすらに法曹の道を目指していた。幸枝は、糸川に言う。「(糸川さんは)生活は安定するだろうが、面白くない。野毛さんは、苦労はあるかもしれないが、信念がありギラギラしたものがある。」と。
 
幸枝は、野毛に「あなたには秘密があるのね。それを私に下さい」といいながらも「私、バカね、急に秘密がほしいなんて」と続けるのだが・・・。
 
野毛は「われわれの仕事は、10年後にはわかる。日本の国民に感謝されることになる」と語るが、獄中で亡くなってしまう。野毛は、自分の弱点は、「両親」だと語っていた。この10年間疎遠にして会っていなかったのだ。
 
幸枝は、自分の両親の反対も押し切って、亡くなった野毛の遺骨を持って野毛の両親を訪ね、そこで働きたいと訴える。「私は、野毛の妻です」と固い決意で。
 
野毛の母(杉村春子)と、畑仕事に精を出す幸枝。
一方、野毛の父(高堂国典)は、無口のまま、全く反応を示さなかった。
しかし、家には「スパイ」「売国奴」などの嫌がらせの張り紙があり、田植えの水田は荒らされ、そこにも嫌がらせの看板があちこちに・・・。それでも、野毛の母と幸枝は、ひとつづつ、苗を植えかえていく。それらを知った父が、ついに怒りに震え、立ち上がり、幸枝などに交じって田植えを始める。
 
貧しい村人たちも、野毛一家、とりわけ幸枝に対する見方を百八十度変えて、歓迎するようになり、幸枝にリーダー的な役割を期待するようになる。幸枝は、これまでピアノを習ってきたが、その手は、もはや田植えなどで、手がごつごつとたくましくなっており、「ピアノには向かない」と、野毛の実家で、農業を目指すのである。
 
・・・
敗戦後、日本を占領したアメリカ軍は、映画も日本人の思想改革の手段にしようと、民主主義の啓蒙映画を作ることを要求。そのため、国内では、軍国主義批判映画、封建思想批判映画、女性解放映画などが作られていく。

本作も、民主主義啓蒙映画の1つで、戦前の自由主義者、滝川幸辰教授をめぐる「京大事件」をヒントに製作された作品。

京大事件とは、昭和8年(1933年) 鳩山一郎文相が、京都帝国大学法学部の滝川幸辰教授を、その著「刑法読本」や講演内容が赤化思想であるとして罷免した事件。同学部教授団や学生らが抗議運動を起こしたが、当局に弾圧され崩壊したというもの。
 
滝川教授をモデルにした八木原教授(大河内伝次郎)のセリフ「自由の裏には、厳しい犠牲と責任がある」という言葉が何度か繰り返されるが、それを娘の幸枝が実践したように思われる。

・・・
この映画で黒澤監督は、若者たちの悲劇に焦点をあて、一人の強い女性の生き方を通して、体制や迫害に屈しない強いメッセージを発信している。
 
とくに、主人公の幸枝(原節子)は、大学教授の娘という恵まれた環境で育った、いわば温室育ちだが、後半、泥にまみれる気迫が凄まじく、そのギャップが、見る者を圧倒する。原節子は、黒澤作品では、このほか「白痴」に出演している。
 
七人の侍」「生きる」などの黒澤映画の名優・志村喬だが、この映画では、嫌味な特高(警察官)を演じている。大河内伝次郎は、貫録十分。
 
この映画は見ても「悔なし」の映画だ。


↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓
「にほん映画村」に参加しています:
ついでにクリック・ポン♪。