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「名作に進路を取れ!」…映画とその他諸々のブログです。

映画「苦役列車」(2012)・・・社会の底辺に生きる19歳の青春。


映画「苦役列車」のTV特集から
 


 
今ノリノリの俳優・森山未來が主演で、原作が2010年の芥川賞受賞作品ということで「苦役列車」をほとんど予備知識なしで見てきた(MOVIXさいたま)。
 
この映画の評価は複雑。期待しすぎると肩透かしで、あまりお勧めはできない・・・。どちらかと言えば、限りなく暗い。
 
1980年代半ば頃の、その日暮らしの若者の生きざまを描いている。
本能の赴くままに行動する若者(行動を起こすか、閉ざしておくかの違いはあれ、だれにでも潜んでいるか?)を、熱演する森山未來
 
やや否定的に書いたが、見て損したかというと、そうではなく、森山未来の、役者に対する姿勢が尋常ではないところがすごい。昨年の「モテキ」では、踊って、モテて、今年初めのAlways三丁目の夕日 '64」では、医者でいい人を演じていた。
 
苦役列車」は、正反対で、普通は、どうしようもない人間といっても、どこかに優しさ、見所があるものだが、この北町貫多森山未來)は、救いようのない、ろくでなし人間(「苦役列車」の原作者・西村賢太を投影)。
 
私小説の映画化で、人間の持つひがみ根性、ずる賢さ、がつがつした性格などマイナスの面を全て持ち合わせているのが貫多で、貫多森山と思わせるほど、役にのめりこんでいて、実際にこんな人物がいたら、絶対に友達にしたくないタイプの人間だ(笑)。
 

貫多が、自分勝手で、ひがみっぽい性格で、中卒の劣等感などが形成され、他人との関わりに不器用で、「風俗」に入れ込んでいるのには小学生の頃の苦い体験が尾を引いている。
 
小さい頃、父親が、性犯罪で逮捕され、一家離散していたからだ。父親が犯罪を犯して逮捕されたということは知っていたが、テレビの「ウイークエンダー」というスキャンダル・ゴシップ報道番組(泉ピン子が司会で売り出した番組)で「性犯罪」が原因と報道され、テレビを見ていた母子は大きなショックを受けたのだった。
 
主要な登場人物3人は、いずれも1967年(昭和42年)生まれということで、作家・西村賢太とおなじ。時代はバブル直前の1980年代半ば。何千円、何万円と風俗につぎ込むが、知人からは、借金を繰り返し、家賃は数カ月も滞納、その場限りの自堕落な生活。ついには、大家から、追い払われる始末。また借金をして、安アパートに引っ越すが、同じように家賃滞納のクセはなおらず・・・。
 
  「友達?大丈夫ですよ」 
映画は、「R15+」指定(中学生以下は鑑賞不可)。
主人公・北町貫多(19歳、森山未來)の関心は「本」と「風俗」だけということで、とくに風俗の描写は、相当に直接的でリアルであり、「R15+」は当然だろう。
                            
この夏にAKB48を卒業する前田敦子のファンだといっても、中学生以下では、見せられないシーンが多い。                                              
 
原作にはない、桜井康子(前田敦子)の登場シーンは、古本屋のアルバイト大学生。康子に近づきたいがために、本好きの貫多が、日雇い労働の職場で知り合った同い年の若者・日下部正二(高良健吾)を介して、「友達になってほしい」と頼み込むのだが・・・。
 

                   「なぁ、おれたち友達だろう?」 「もうお前とはつきあえないよ」
 
貫多は、強引、短気な性格で、康子も正二もわずかな時期、友達と呼べる時期もあったが、それぞれの道に進んでしまい、一人狭いアパートに取り残される貫多。
 
唯一救いが見られるのは、ラストシーンで、康子と正二と3人で海に飛び込んだ思い出を思い浮かべて、モノを書き始める後ろ姿があったことだ。
 
日雇い労働者で、食いつないでいる貫多の食事の量と、食べっぷりは人夫そのもので、森山未來は、撮影期間の1カ月間は、3畳一間の安アパートでで寝起きし、役作りに取り組んだという。
 
前田敦子は、「映画撮影全てがはじめてづくし」だったというが、康子のとなりのアパートの寝たきり老人のうめき声が聞こえたことから、たまたまいた貫多とともに、となりを訪ねてみると、「しびん」を取ってほしいという頼みだった。そこで、康子は、シモの世話をするが、いつまでたっても、止まらないのに、笑いが堪え切れないところなど、撮影とはいえ、これから女優の道を進んでいくうえで、大変な経験になったのでは(笑)。
 
映画のキャッチコピーは「友ナシ、金ナシ、女ナシ。この愛すべき、ろくでナシ」だが、”愛すべき”はあたらないのでは(笑)。最低のろくでなし人間だからだ(笑)。そういう人物像を演じた森山未来の演技の才能が大したものなのか。
 
原作者の思いを反映しているのか、日雇い労働者の言葉などにも、印象に残る言葉ある。「いつかは変われると思っているかもしれないが、変われないよ。毎日食って、寝て、その繰り返しだ」といった意味の言葉。酒場で、その男から、「何の楽しみがある?何になれる?」と問われて、貫多は「本が好きだ。作家になりたい」というと、嘲笑するように「中卒のくせに、なれるもんか」と小馬鹿にされるのだが・・・。
 
いつか、見返してやるというのが原作者にあったのだろう。日雇いの飲んだくれのろくでなしが、芥川賞受賞まで、こぎつけたのだから、夢はかなう、ということか。
共演はマキタ・スポーツ、田口トモロヲほか。
 
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