日本の女優では、大胆な演技で注目されている寺島しのぶ。最近ベルリン国際映画祭で、「キャタピラー」で主演女優賞を獲得した。そんな寺島しのぶ作品で、興味を引くタイトルに惹かれてみたのが「やわらかい生活」(2006)。
主人公の35歳・独身女性、橘優子(寺島しのぶ)は両親や友人を事故で失ったことから、うつになり、孤独の身。インターネットで、「躁・鬱病の人のブログ」を見て時間をつぶしたり、写真を見ては、その場所に行ってみる毎日。独身35歳の心情をきめ細かく描いている。一流企業の総合職で頑張ってきたが、いまでは、がんばることをやめて、いろいろな男と関わりながら、流されるままに生きる生活。
映画が、何もダイナミックなストーリー展開がなくてもしみじみ訴えかけるものがあると感じさせる佳作だ。
“日本版ブリジット・ジョーンズの日記”に近いかもしれない。
2006年の制作・公開作品だが、2001年のニューヨーク・テロや、地下鉄サリン事件でなくった知人などさりげなく背景で登場。田舎(九州)で、両親の法事で、しゃべったりするが、結婚を勧める親族に、鬱だと告げて、適当に生活していると知らせる。
祥一は、現在40歳、結婚して6年だが、離婚するか迷っている。
祥一は「(離婚に踏み切れば)6年間の期間が無駄となり空白になる」ことを恐れている。それに対して、橘優子(寺島しのぶ)は、「私なんか、空白だらけだよ」という。
ネットの出会い系サイトで知りあった男(田口トモロヲ)との「痴漢プレイ」で時間をつぶしたり、気の弱いヤクザ(妻夫木聡)の悩み相談に乗ったり、学生時代の仲間でいまは都議会議員の男と一夜を過ごすことになったが、男からEDを告げられたりするが、やがてこうした男たちは、「帰るべきところがある」ことを悟り、自分は「お安い隙間家具」だったと思う。
祥一の話から後で明らかになるが、優子はかつて一度だけ関係をもったことがあった。今回は、車の中でキスをして別れただけだったが、その後、従兄を追って、故郷に帰ろうとした矢先、その従兄も交通事故で亡くなったことを知らされ・・・。
銭湯では、閉店時間ぎりぎりに行って最後に帰るのが当たり前になっているが、それは、両親が火災で亡くなって、自分も火で死のうと思った時に残されたやけどが胸に残っていたことも原因となっている。女湯では、ときおり別の女がいたときは、若気の至りで「刺青」があって、隠しているのとタオルのままで、ごまかしたりもする。
優子からは、男に対して、かなりきわどい言葉が出てくるが、まあ寺島しのぶだからな、と妙に納得する(笑)。
舞台となるのは、東京大田区の蒲田。
いかにも下町で、ごみごみして、「粋」というものが感じられない町。
大田区には10年間住んだことがあり、なじみ深いところが多く、親近感がある。
うつ病を患っている橘を演じる寺島の脱力感漂う表情がうまい。
決して美人ではないが、表情によっては、美形になり、生き生きしている(笑)。
決して美人ではないが、表情によっては、美形になり、生き生きしている(笑)。
ラストシーンは すべてを失って、虚脱感に支配されて、これからどうなるだろうと考えさせられて終わる。余韻のある映画だ。
「やわらかい生活」 は、第96回文學界新人賞受賞作の「イッツ・オンリー・トーク」(絲山秋子著)がベース。2006サンダンス映画祭 ワールドシネマコンペティション、2006ドーヴィル映画祭、第35回ロッテルダム国際映画祭、第17回シンガポール国際映画祭、第6回東京フィルメックス/TOKYO FILMeX200、第30回湯布院映画祭正式出品。
こういう映画は好きだな(笑)。
☆☆☆